第163話 ヤオヘ諸島

 人買い十四人分マギカードを作り出し、それぞれに渡して魔力を登録させる。


 どう言うものかを理解してもらうために魔力100をサービスしてやり、店で使わせてみる。


「これはいい! 銭も持ち歩くとなると大変だからな」


「使える場所は少ないが、盗まれても使えないし、再発行してくれるのが嬉しい」


「店の商品も都以上によいものが揃っている」


「酒どころか砂糖まであるとはありがたい」


 などなどお喜びのようでなによりだ。マギカードのよさを多くの土地に広めてください、だ。


 まあ、まだ不完全で不備も多いから受け入れられるのはまだまだ先だろうが、まずは三賀町から広めていこう。


 この時代では大都市であり、流通の起点でもある。慌てなくとも半月もしないで近場の村には魔力売買器は設置できるだろうし、主要街道沿いの村に設置すれば勝手に噂が広がってくれ、望む者が出て来るだろう。


 徐々に、ゆっくりと受け入れられていけば問題が出ても対処は簡単だろうし、抵抗なく受け入れられていくはずだ。


 別に急激に変化……させてはいますが、まずは三賀町から。他に手を出すことはしないさ。


 ……ん? なにやらフラグを立てたような気分になったが、たぶん気のせいだろう。サラッと流しておこう……。


 さあ、これで終わり──なわけもなく、買った者たちの整理をしなくてはならんか。さすがにハハルに押しつけたんでは家庭不和のもとだ。


「タカオサ様。食料を売っていただけませんか?」


 と、一人の人買いがそんなことを言って来た。


 なにか苦労をした感じの男で、見た目は五十半ば過ぎだが、言動からして四十代なのかもしれんな。


「食料? うちは大陸のものしかないぞ?」


 町ではいろいろと決まりがあり、米は米屋でしか買うことはできんし、酒も酒屋、魚は魚屋、野菜は市でと、いろいろ決まりがあり、町の許可が必要だ。


 頼めば許可は下りようが、他の店との兼ね合いもある。なのでおれの店では大陸産と偽り、食料は小規模販売と決めている。


 もちろん、大量に、と言われたら喜んで用意するが、馴染みのない小麦や芋を買う者はいるまい。いたのは三原屋さんや店の様子を探りに来た商会くらいだ。


 ……花町には裏で大量卸してはいるがな……。


「食えるものなら構いません。どうかお売りください」


 なにやら真剣な様子。これはどこかで魔物が暴れたか?


 魔物の被害が大きいと、娘が大量に売られるときがある。これが町への被害なら国も復興に金は出すだろうが、村だと銅銭一枚出したりしない。それどころか早く復興しろと無慈悲なことを言うくらいだ。


「魔物か?」


「いえ、海賊です。銅羅どうら町付近に現れては村を襲っているのです」


 海賊? がなんで村を襲う? そこまでする海賊はもう海賊ではないだろうが。


 ファンタジーな海ではあるが、沖に出なければ大型のには襲われんし、米や物を運ぶのには船は一年中出ている。少数ではあるが魔道船を所有する商会もある。


 海賊なんぞより山賊になったほうが儲かると思うのだが、それなりにいるとは聞いているし、傭兵時代、海賊退治(一隻で十人もいない程度の海賊だったがな)もしたことがあるから損はしないのだろう。


銅羅どうら町はなにしてんだ?」


 これだけの人を売るとなれば大惨事だろうに。


「兵を出してはいますが、なんとも……」


 つまり後手に回ってにっちもさっちもいかなくなっているわけか。まったく、あの戦争からこの国はダメだな……。


 十五年前の戦争とは言え、これと言った対策をしたわけでもない。ほぼ放置では兵士の数が増えるわけもなければ質が向上することもない。使える傭兵団だって七割は盗賊よりはマシな程度だしな……。


「銅羅町に被害はありませんが、海沿いの村は壊滅に近いです。食うものを根こそぎ奪われてますんで」


「人は拐わんか」


 普通なら女子どもを拐って奴隷にしたり売ったりするもんだが、その海賊は食料を優先してるのか。となればこの国の者ではないな。飢饉なり魔物に襲われたりしたら、まず食料のあるところに集まるものだ。


 ましてや村を襲うだけの数だ、そんな大集団がいたらとっくに噂になってるか、救援要請が各町に出されるはず。それがないと言うことは島の外から来たってことだ。


 まあ、あくまでもおれの勝手な推察だが、そう間違ってないはずだ。それだけの大集団を統率できる者なら、もっと前から噂になっているはずだからな。


 ……この国は、噂が流れるのは異常に速いからよ……。


「噂じゃ、カリド族らしいです」


 カリド族? なんかどこかで聞いたことはあるような気はするが、なんなのかはまったく思い出せん。なんなんだ?


「ヤオヘ諸島にいる耳長の獣人ですさ」


 一人の人買いが教えてくれた。


 ああ、そうだ。思い出した思い出した。ヤオヘ諸島には何十もの獣人が暮らしていて、耳の長いのが特徴のカリド族が諸島を支配してるとか、兵士時代に聞いたっけ。


「だが、あの諸島の獣人は外と極力かかわらないんじゃなかったっけ?」


 たまに船団を率いて来るらしいが、必要なものを物々交換してさっさと帰ると聞いたんだがな。


「その辺はわかりやせん。ですが、カリド族を見たと言う者は結構いやす」


 ならば限りなく事実に近い情報だろう。なぜ知ってるヤツがいるかはわからんがよ。


「飢饉でも起こってるのか?」


 どこも毎年豊作とは限らない。なっても不思議ではない。が、なければあるところを襲うのがこの時代であり、町が対応することだ。


 わざわざこちらから出向く必要はない。その時間もないしな。道羅町どうらまちに頑張ってもらうしかないわ。


「まあ、いい。売られる者がいるならうちで買うし、大陸産の食料でいいのなら売らしてもらうさ」


「お願いしやす。人買いをしているとは言え、故郷が滅びるのは見たくねぇんで」


 まあ、徴兵され、十五年しかいなかった故郷だが、それでも故郷を大事に思う気持ちはわかる。


「その郷土愛に免じて多少は負けてやるよ」


 人買いとコネを作っておくのも大事だろう。人買いってのは結構耳と目が優れてるからな。


「ありがとうごぜいやす!」


 気にするなと店番の娘に任せ、ハハルの元へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る