第161話 嫌な予感
シュンパネの話し合いは円満に行われ、お互い満足のいく契約が取り交わされた。
「さっそくですが、シュンパネをいただけないでしょうか。人を呼びたいので」
「それは構いませんが、いきなり環境の違う土地に連れて来て大丈夫なのですか?」
この島は前世の日本と同じく四季があり、気温はちょっと低めだ。夏でも三十度には届かず、冬は雪が多く氷点下になることも多い。季節の変わり目も天候が荒れたりする。どこから連れて来るかは知らんが、慣れるまで大変だと思うぞ。
「シュンパネがあれば問題ありません。しばらくは通いにしますし、ゼルフィング商会は健康診断が年四回はあります。それに、我が商会はそう簡単に死なせてくれないところですよ……」
アハハと乾いた笑みを見せるサイレイトさん。
それはブラックとかホワイトとかの次元を超えて、もう悪魔の所業になってるよね!? ゼルフィング商会、マジで怖いわ!
絶対、なにがあってもゼルフィング商会には入らないと心に誓い、シュンパネが二百枚入ったアタッシュケースを作り出した。
「……まったく、非常識な方はこれだから参ります……」
苦笑しながらアタッシュケースを受け取った。
おれから言わせてもらえば、だ。非常識なことを見せて、それを受け入れる人のほうが非常識だと思うけどな。
……まあ、それだけゼルフィング商会には非常識なヤツが多いのだろうよ……。
「支払いは工場に注ぐ魔力から引いていきます。もし、さらにシュンパネを必要とするならば、工場にシュンパネ生産器も付属させますよ」
こちらでも売ることは考えてはいるが、シュンパネの価値と希少性を考えたら、買い手は決まって来るし、そう売れはしないだろう。
ならば、どんどん買ってくれるサイレイトさんの近くに置いたほうがいいだろうよ。
「それは助かります。これでも足りないくらいなので」
どんだけワールドワイドに動いているのやら。世界に轟く商会はおっかねーぜ。
バケツいっぱい分の一級魔石をいただき、輸送機生産工場とシュンパネ生産器を造り出した。
「造りは同じですので困惑することはないでしょうが、なにかあれば連絡ください。立て込んでなければすぐに出れると思うので」
サイレイトさんにも通信具を渡しておく。こちらからも連絡したいからな。
「……スマッグまであるんですか……」
スマッグ? なんだそのスマホをもじったようなものは? 確実に自分は転生者と言っているようなもんだろうが。
いやまあ、バス事故で死んで、神と話したなら他にも転生者がいるとは推察されるし、前世の記憶を継ごうとするヤツがいるのもわかる。
だが、シュンパネやスマッグとか聞くと、前世の記憶を持つ者は一人や二人ではなく、複数人いる感じだ。
おれのような万能を願い、こちらの神に介入されながらもハルナと出会えたのならアレもコレもと作ることは可能性だろうが、一人の能力では不可能だとおれは見る。
そんな都合のよい願いなら確実に神に介入されているし、作るもの方向性が似て来るものだ。しかし、ゼルフィング商会とカイナーズは違う。
ゼルフィング商会からは老獪さに辛辣さ、じわりじわりと攻めるよいな粘っこいものを感じるが、カイナーズからは直情的な思考や発想を感じる。
他にも二つからは違う思考や発想が感じられる。たぶんそれは、前世の記憶がある者が生み出しているのだろう。となれば前世の記憶を持った者がたくさん集まっていると見るべきだ。
連合を組んでいるかはわからんが、纏まっていなければゼルフィング商会やカイナーズの名が世界に轟くわけがない。余りにも異常すぎるわ。
「港ができましたら報告しますね」
まあ、前世の記憶を持つ者が集まろうと、こちらはこちらの都合で進むまで。別に敵対する必要もないのたからな。
あとは任せ、
「父さん、ちょっと問題。人買いが団体で来たの」
「人買い?」
とは、各地の村々を回って口減らしの子を買って、花町やら商会やらに売る商人のことだ。
前世の記憶が蘇る前はそれほど気にもならなかったが、魔物がいる世界で村々を回るってスゲーよな。子どもなんて連れてたら魔物に襲ってくださいと言っているようなもの。記憶を辿ればそんな残照を何度か見ている。割には合うんだか合わないんだかわからん商売だぜ。
ってことはどうでもよくて、団体で来るってなんだよ? まだ飢えるような時期でもねーだろうに。
「海竜や足止めで流通が滞ったのが原因みたい。男の子まで買ってくれって言うんだから相当のようね」
一月近く流通が滞れば狂うのもわかるが、それでも男まで売るのは異常だろう。まだ収穫前ってんなら納得もできるが、初夏の季節なら野に生る植物がある。春先には棘木にも実がなるので、塩漬けしたものが大量にあるはずだぞ。
「よくわからんが、とりあえず店にいく。人買いには余程酷くなければ全員買うと伝えて子どもたちに飯を食わせてやれ」
「わかった。伝えておく」
通信が切れる。
「いったいどう言うことだ?」
……なにか嫌な予感がしてならないぜ……。
モヤモヤする気持ちを抑えつけ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます