第160話 シュンパネ
話は飛行場で、と
サイレイトさん、いや、たちか。朝日二番型(と、命名しておくか。望月家とややこしいしので)四機と十八人で向かうようだ。
……ってか、また人が増えているな……。
工場に入ったり朝日二番型に乗ったりすれば生命反応登録をするように設定しておいたのだが、何日か毎に人が増え、今では六十人近い生命反応が登録されている。
しかも、人ではない生命反応もちらほらとあり、いなくなったり突然現れたりしている。
……やはり、転移系の魔道具を持っているようだ……。
昔、外から来たと言う西洋風の少女が使っていたのを覚えてる。
無限の魔力がある今、もう転移をするのに躊躇う必要はないが、だからと言ってそうポンポンと使用することはできないだろう。
なぜなら輸送機を造った意味を失うし、それを知ったバカが利用して近寄って来るからだ。だから万能さんのことは隠し、魔道具として誤魔化したのだ。
……売ってくれと言ったら売ってくれるかな? そして、売り出したら反感を買うだろうか……?
まあ、聞くだけ聞いてみるかと安易な答えを出して、見えて来た飛行場へと降下した。
飛行場の管理は、前に隊商から引き抜いた少年たちに任せ、その世話に花町を引退したおば──ではなく、女たちがしている。
「タカオサ様、おはようございます!」
代表、と言う者は決めなかったが、人が集まれば自然と序列はできるもので、タザマと言う少年が先頭切って挨拶をし、残りが遅れて挨拶をして来た。
ちなみに兵士たちは敷地外で警備(と言う名の待機)をしています。
「ああ、おはようさん。放置しててすまんな」
ハハルに任せてはいたが、店が忙しいので訓練しておけとの言葉を残して放置している状態だ。
……人手不足と言うのは地味に痛いぜ……。
「いえ、毎日腹一杯食えて、空を飛べるんですから最高です!」
どの世界、どの時代でも少年は空へと憧れるもの。そして、自由なる翼を得たのなら高みへと羽ばたくもの。これは輸送機のパイロットではなく、戦闘機のパイロットとしたほうがいいかもな。
「なら、別の翼を与えてやる。興味があるならシミュレーターで確かめてみろ。もし、適性があるなら竜より速く、竜より強い力を与えてやるよ」
「はい! 頑張ります!」
おう。頑張れ少年。夢へと向かって羽ばたくがよい。
「いいものですね、少年が夢へと向かう姿と言うのは」
シミュレーターへと駆けていくタザマたちを微笑ましい……と言うよりは小馬鹿にした感じだった。
……少年時代、ひねくれて砕けて変な治り方をしたんだろうな……。
「ふふ。サイレイトさんが商売に勤しんでいる姿もいいもんですよ」
羨ましい、と思うくらいにな。
「タカオサさんの前では下手に心は晒せませんね」
「下手に晒して本心を誤魔化すと言う手もありますよ」
「あなたのように、ですか?」
そんな返しに苦笑で答えた。
これだから拗らせた大人は厄介だぜ。おれみたいに素直に……いえ、なんでもありません。ブーメランになりそうなので口をつぐませていただきます。ハイ。
「まあ、空いている場所は好きに使っていただくとして、工場はどこに造りましょうかね?」
サイレイトさんと、なにか軍人っぽい感じのサラドと言う四十後半の男、そして、なにかドワーフっぽい体型の女、カエと工場の場所を相談し、拡張できやすい北側に建てることとなった。
「開墾する必要がありますが、人手は大丈夫なので?」
町の境界線は越すが、ゼルフィング商会が壁となるので町の許可は出るだろう。だが、さすがに百単位で人は必要だろうよ。
「秘密ですよ。本店から人を呼んで、バレないうちに開墾させます」
「転移できる魔道具でやって来るのですか?」
悪戯っぽく笑うサイレイトさんだが、おれは真面目に問い返した。
「やはり気づいてましたか」
「まあ、昔、羽根の形をした、シュン……なんとかと言う転移魔道具を見たことがありますので」
と言ったら凄く驚かれた。
「……シュンパネを知ってるのですか……?」
そうそう、シュンパネだ、シュンパネ。なんか見たまんまを表現できないやつだよ。
「あれは有名な魔道具なのですか? 持っていた者が言うには転移系の魔術や魔道具は一般的ではないとのことでしたが」
その者も祖父からもらったと言っており、よくはわかっていなかったようだがな。
「……この島とは二十年も前から取引をしているのはそう言うことだったのか……」
なにやら知らざれる真実でも見たかのように納得した表情のサイレイトさん。いろいろ因縁があるらしいことは理解した。が、できればシュンパネの話に戻って欲しい。
「あ、すみません。ゼルフィング商会で働いている者としてどうかと思いますが、いろいろ秘密やら繋がりが多くてわたしにも把握し切れないことがあるんですよ」
まあ、ワールドワイドな商会だ、支部長クラスではすべてを知るのも難しかろうさ。
「シュンパネは売っていただけるものなのですか?」
「欲しい方がいれば売るのが商人と言うものですが、生憎とシュンパネは支給制でして、わたしの権限で融通できるのは三枚が精々ですね」
申し訳ありませんと謝るサイレイトさんだが、おれの勘ではそんなことはないだろうと読んでいる。たぶん、バレたときようにそう話を作っているのだろう。いくらでも買えるとしたらいろんなところから押しかけて来るわ。特に権力者はこぞって買い占めに走るだろうよ。
ってか、数え方は枚なんだ。いや、どうでもいいことなんだけどさ。
「では、一枚譲ってもらえませんか? ここの貸し出し賃として。一年でどうです?」
報酬ではあるが、ただで借りているようなもの。シュンパネ一枚で貸し出しても惜しくはないさ。
「それと、シュンパネはゼルフィング商会の専売ですか? もし可能なら複製して売りたいと思うのですが。もちろん、売上の半分はお渡ししますが」
作るのはタダ。半分どころか九割渡しても損にはならないが、対等な関係を維持するなら半々がいいだろう。いや、七三がよかったかな?
「……複製、できるのですか……?」
「もちろん、魔力があれば、ですがね」
と言う設定をお忘れなく。
「であるなら、複製を買わしてください!」
いや、あなたは売るほうで買うほうではないでしょ! ってか、なんで欲しがんのよ!?
「言ったようにシュンパネは支給制。別大陸で活動する者は多く支給はされますが、それ故に多く使用すると言うことです。節約しないといざと言うとき転移できません」
あれ? 勘が外れた? 鈍ったか、おれの勘よ?
「ま、まあ、ゼルフィング商会の商品ですし、魔力を出していただけるのなら制作する労力分の金でお譲りしますよ」
それでもまったく惜しくはないし、使用料とか特許料とか払わずに済むのだから、おれ丸儲け、なのは揺るがない。
「タカオサさんがそれでよいのなら願ったり叶ったりです。では、話を詰めて契約書を交わしましょう!」
やれやれ。シメるところはシメる。商人とはげに恐ろしいものである……。
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