第159話 信用

 と思ったら、通信音が鳴った。


「これは、初期の朝日あさひからか。ってことはサイレイトさんか」


 たぶん、光月こうづきを見て通信を入れて来たのだろう。


 朝日へと通信を繋ぐ。


「タカオサです。おはようございます」


「おはようございます。サイレイトです。急な通信、申し訳ございません」


 あ、サイレイトさんたちには通信具渡してなかったっけな。


「構いませんよ。通信ではなんですからそちらに向かいます。接触があるだろうとは思ってましたからね」


「お忙しいところすみません」


 お気になさらずと言って、輸送機の工場へと降りられる……スペースがねーなー。


 しかし、容赦なく造っているのはわかっていたし、数も把握はしていたが、こうして実物がところ狭しと並んでるのを見ると壮観だわ……。


「しょうがない。飛び降りるか」


 万能さんにかかれば些細なこと。光月を自動操縦にしてドアを開けて飛び降りる。


 重力操作なので緩やかに降下してふわりと着地する。今さらだが、万能なんだから輸送機に乗らないで自分で飛べよ、ってことに気がついた。


 ……おれ、想像力貧困だな……。


「お忙しいところ本当に申し訳ありません」


 パイロットスーツを纏ったサイレイトさん。西洋風の風貌だからよく似合う。元の世界で俳優だと言っても信じられるだろうよ。


「いえいえ、お気になさらず。お得意様からの連絡を蔑ろにはできませんからね」


 無限の魔力を手に入れたとは言え、それですべてが解決できるほど世界は甘くはない。人との関係や世間体とか、そう言うものを大事にしなければ早々に人生が詰むのでご注意を、だ。


「ふふ。謙虚な方だ」


 イケイケゴーゴー(古)な人生もいいだろうが、前世の記憶と今生の記憶があるおれには無理だな。経験がそれをさせてくれないからよ。


「世界を我が手に、なんて苦痛なだけですからね」


 おれは家の主が精々だろうし、それで充分。それ以上は重荷だ。


「我が主も常々そう言っておりますよ。ただ、周りから見たら波乱万丈な人生にしか見えませんけどね」


 なんとも可笑しそうに笑ってはいるが、なにか誇らしげなところも垣間見れた。


 ……まあ、世界に名を届かせる商会長が平々凡々に暮らせるわけもないだろうし、させてもくれんだろうさ……。


「おっと、失礼。無駄話でしたね」


 そう言って商人の顔に戻った。見た目はハリウッドスターのようだけどよ。


「見ての通り、手狭となったので置き場所のご相談をいたしたいと思いまして」


「やはり、と言うか、ゼルフィング商会は容赦がありませんな。これだけの輸送機を造るのですから」


 と言うか、どんだけ需要があんだよ? ここにあるだけで三十機近くはあるぞ。


「贅沢を言うならもっと生産性が上がって欲しいところですよ。もう注文が多くて上からなんとかしろと毎日のように催促されてます」


 やはり独自の通信方法があるのか。まったく、ワールドワイドな商会は恐ろしいぜ……。


「置き場所もなんですが、工場をもう一つ、いえ、可能なら可能なだけ工場を造れないでしょうか? 魔石ならいくらでもお支払いたします!」


 上からせっつかれてるのは本当なんだろう。笑顔に余裕がないし、いろいろ情報を漏らしている。それが偽りだったら人間不信になりそうだがよ……。


「魔石があるのならいくつでも増やせますが、さすがに場所は用意はできませんよ」


 いくら万能さんでも場所を造るのには数日、いや、月単位で時間を取られる。それは勘弁して欲しいわ。


「……場所、ですか。さすがに外の者が勝手に土地を奪うことは問題ですね……」


 町や村以外は国は無関心を取ってるが、サイレイトさんが言うように広大な土地を勝手にされたら口出ししないわけにはいかんだろうな。


「では、おれが三賀町から借りている土地に工場を一つ造り、望月家専用港内に一つを造る、と言うのはどうでしょう?」


 飛行場と港の話をする。


 なんとも呆れた表情でおれの話を聞くサイレイトさんだったが、話終えると真面目な顔で思案していた。


「……飛行場はわたしの権限で承諾できますが、港は少し考えさせてください。上とも相談したいので」


 なにを考え、なにを相談するかはわからんが、大商会なりにいろいろ思惑があるのだろう。なら、小は大に乗っかればよい。こちらの得のために利用されましょう、だ。


「わかりました。なら、飛行場に新たな工場を造り、ゼルフィング商会に維持管理を任せる、と言うことでどうでしょう? もちろん、望月家所有としてね」


 又貸しではあるが、所有権は望月家として持っていれば三賀町としても言い訳は立つし、おれとしても維持管理してくれたほうが助かる。今は港に集中したいからよ。


「わかりました。契約書はこちらで用意させていただきます。お互いの利が叶うように、ね」


「そこは信用しますよ。天下のゼルフィング商会ですからね」


 悪い方向に有名ではなく、善い方向に有名なのがゼルフィング商会である。その名だけで信頼できる、稀有な商会なのである。


「その信用、ゼルフィング商会として全力でお応えいたします」


 優雅に一礼して見せた。


 ほんと、どんな契約書より怖い口約束だぜ……。

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