第157話 醍醐味

「ハルナをオレの嫁に迎える」


 団欒の間に集まった家族の前でそう告げる。


 前世でこんなことを言ったら家庭崩壊が始まるところだが、この国では家の繁栄を示すもの。誰の顔にも嫌悪はなかった。


「父さん、おめでとう」


 以外にもカナハが真っ先に声を上げた。


「旦那様。おめでとうございます」


 続いてミルテ。これも前世なら「泥棒猫が!」とか叫んで取っ組み合いのケンカ(おれの勝手なイメージです)になるところだが、ミルテは本心から喜んでくれていた。


「確かに目出度いことだけど、アイリさんが先じゃないの? 父さんが言うのを待ってるよ」


 現実的なハハルの言うことはごもっとも。そこは素直に謝罪しよう。これが終わればプロポーズさせていたたきます。


「まあ、なんにしろおめでとう、父さん。ハルナさん」


 ハハルも笑顔で祝ってくれた。お前が嫁……にいくかは 可能性は低いが、いくときは盛大に祝ってやるからな……。


「ありがとうでござ──います」


 ハルナのござる口調は自己防衛から来るもの。自信のなさや弱さを隠すために言いだしたそうだ。


 だが、これからはオレが守るから自分らしさを出せと、説得した。ハルナにござるは似合わない。そのままが綺麗なんだからな。


「拙者──ではなく、わたしは人じゃない。願いを叶える宝玉で、この体はタカオサ殿に作ってもらった偽りの体です」


 別に真実を告げる必要はないとは言ったのだが、それでは家族にウソをつくことになり、本妻のミルテに申し訳ないと真実を話すことにしたらしい。


「あ、やっぱり」


「あの玉なの?」


 鋭いハハルは察していたようで、カナハはピンと来てない様だ。


「まあ、確かに宝玉であり体は人造体だが中身は人だ。人として接する様に」


 うちの家族にそんな不届き者はいないだろうが、家臣の中で不届き者が出るかもしれない。そのときのために言っておくのだ。それを認めた上でハハルは家族なんだとな。


「当然です。ハルナさん。よろしくお願いしますね」


 前世じゃ考えられないほどウェルカムなミルテの反応にハルナが戸惑いの顔を見せる。


「ミ、ミルテさんは怒らないで、すか? タカオサ殿に嫁が増えても?」


 そこは大丈夫だと説明したが、前世の常識に支配されて理解ができないのだ。おれだって前世のおれが本当にいいのかと未だに自問自答してるくらいだからな。


「あたしは二度目の結婚です。それも旦那様に救われなければ今も貧乏で、義弟に疎まれながら惨めに生きてたでしょう。子どもたちも売られてたかもしれません」


 確かにあの男ならやりかねんな。まったく、その前に気がつけて幸いだぜ。


「今のあたしたちがあるのは旦那様のお陰です。旦那様が決めたのならあたしは受け入れます。そして、支えていきたいです」


 まっすぐハルナを見て、淀みもなく言い切った。


「……さすがタカオサ殿の本妻殿。敵わないです……」


「それはあたしのセリフです。あたしは旦那様の支えになれても横には立てません。どうか旦那様をよろしくお願いします」


「え、あの、あ、頭を下げるのはせ──いえ、わたしのほうです。頭を上げてください!」


 頭を下げるミルテにハルナは大慌て。なんのホームドラマだよと突っ込みたいが、中心人物のおれが突っ込んだらダメだろうと必死に堪える。


「その辺でいいだろう。もう家族なんだから。あとは、上手くやっていけるように努力しよう」


 家族は一日なして成らず。毎日の積み重ねが家族を家族として致しめるのだ。いやまあ、まだ結婚歴一月ちょっとのおれが言うにはおこがましいか。


「今後だが、ハルナには地下農場と製造を任せたい」


 神様の願いからハルナの頭は残念かと思ったのだが、話してみると結構頭がよく、結構知識があったりした。


 ……欲望は人を簡単に狂わせるのいい見本だな……。


 前世のおれも漫画や本は好きで結構読んではいたが、ハルナに比べたらにわか程度。なので無限の魔力さんと万能さんを使って食料の生産、生活雑貨、兵器の製造、島や港の建設をお願いしたのだ。


「お任せあれ。タカオサ殿の願いとわたしのために頑張ります」


「あたしも頑張ります」


 頼りになる嫁がいてくれると言うのは本当にありがたいものだ。もちろん、子どもたちもだ。おれ一人ではこうまでやれなかっただろう。きっとどこかで躓いていたはずだ。


「ありがとう、ハルナ。ミルテ」


 家長としてではなく、二人の夫として礼を言った。


「そう言うのは寝室でやってよ。それより、人がいなくなっちゃったけど、今後はどうするの? 飛行場やパイロットも停滞したままだしさ」


 そうだな。計画の見直しをせんといかんか。


「飛行場はおれが受け持つ。そろそろサイレイトさんから接触があるだろうしな」


 一ヶ月休まず輸送機を作り続けて四十三機。うち十機は大陸に運んだ様だが、開墾した場所に置くのは限界に近づいている。数日中には接触してくるはずだ。


「それと右軍もちゃんとしないと。山梔子くちなしの娘たちもシミュレーションが終わったしさ」


 あ、ああ。右軍もあったな。それは完全に忘れてたわ。


「わかった。右軍から始める。落ち着くまでパイロットたちは飛行訓練をさせる。しょせんシミュレーションはシミュレーションだからな」


 ある程度まではシミュレーションで技術をつけられるが、実践でしか学べないこともある。ましてや勘はシミュレーションでは養われない。夫婦と同じ。毎日の積み重ねが大事だ。


「ミルテとハルミは家を頼む。ハルマは仲間を増やすことを目標に動いてくれ。いずれお前が望月家を継ぐんだからな」


「お、おれが継ぐの!?」


「当たり前だ。お前はおれの息子で長男なんだから」


 おれと二人の間に子ができたとしても成人するまでは二十年は先になる。さらに経験をつけるために十年は必要だろう。その間、望月もちづきを守るのはハルマしかいない。


「おれは五十で隠居する。そこからはお前が家族を導くんだ」


 万能さんによりおれは長生きするだろうし、五十になっても元気だろう。だが、いつまでもおれが家長では望月家に未来はない。世代交代してこそ望月家は栄えるのだ。


「……お、おれ、父さんみたいになんかできないよ……」


「おれになるんじゃなく、ハルマはハルマになるんだ。お前の判断と決断で家族を守れ。それまでおれが守るからよ」


 大丈夫。お前におれの血が流れてなくてもおれの考えや意志は宿っている。ミルテが教えてくれたのだ、おれはなんら心配はしてない。


「何度でも言う。お前はおれの息子だ。おれを越えてゆけ」


 それぞ父親冥利に尽きると言うものだ。


「──うん! 父さんを越えるよ!」


 そして、これぞ父親としての醍醐味だ。

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