第156話 リア充

 守ると決まればハルナもうおれの家族だ。反論の余地はない。するヤツがいたら全力で排除してやるまでだ。


「と、その前に、ハルナを家族に紹介せんとな」


 前世なら修羅場になりそうだが、ハルナは物。願いを叶える宝玉。人の形をした魔力炉。なんて言いわけなどしなくてもミルテは受け入れてくれるだろう。なんたっておれを受け入れるくらいの度量はあるんだからな。


「家族? そう言えば娘さんがおったでござるな」


「ああ。正解に言えば養女だな。兄貴の娘をおれが引き取ったのさ。あのまま腐らせるにはもったいない才能を秘めてたからな」


「……もしかして、嫁もいたりするでござるか?」


「ああ、いるよ。血は繋がってはいないが、娘と息子もいる。あ、兄貴の娘はもう一人いるぞ」


 前世なら写真を見せるところだが、家族写真などないなので万能さんに映像化してもらう。


「先に見ていいのでござるか?」


「いきなりでは困るだろう。なんかお前、コミュニケーション能力低そうだし」


「失敬な。エリナより社交的でござる」


「エリナ? 名前からして姉妹か?」


「双子の姉でござる。生活能力皆無で重度の引きこもりでござる。エリナのせいで拙者はいつも貧乏クジを引かされるでござる……」


 死んだのもその双子の姉が親に勘当されて、親の命令で密かにあとをつけてたそうだ。もう涙なしには聞いてられないぜ……。


「会いたいか、その姉に?」


 罵ってはいるが、それほど毛嫌いしている感じもない。なにかそうなる理由とハルナの性格から来るものなんだろう。なにかお人好しな感じがする。


「会いたいとは思わんでござる。どうしようもない姉でござるが、不思議と人に好かれる性格をしてるござる。きっとどこかで誰かに寄生して生きてるでござるよ。ネットの中でも寄生してたでござるからな」


 ネットでどう寄生できるんだ? とかはどうでもいいか。おれには関係ないことだ。重要なのはハルナを守ること。そして、幸せにすることだ。


「そうか。なら、お前はお前でリア充にならんとな」


 まあ、こんな世界でなにがリア充かは知らんが、思うがままに生きたらいいさ。おれたちには万能さんがついてるんだからよ。


「リア充でござるか。なら、拙者を嫁にして欲しいでござる」


 はい?


「拙者、お嫁さんに憧れてたでござる。拙者をもらってくだされ」


 え? なに? この逆プロポーズは? なにがどうなったらそうなるの!?


「……ダ、ダメでござるか……?」


「いや、ダメと言うか、おれはミルテと別れる気はないぞ」


 略奪愛を否定する気はないが、おれはミルテを捨てる気はない。もうかけがえのない存在なのだから。


「もちろんでござる。拙者は第二夫人でも第三でも構わないでござる」


 そうはっきり言われると言葉に詰まる。


 今生の記憶があるから一夫多妻制に嫌悪はないし、花木村でも裕福な者は嫁が二人はいる。村長など四人もいるぞ。


 だが、前世の記憶は少し抵抗を感じている。浮気や愛人は悪──とまではいかなくても不義理と思っている。


「タカオサ殿なら問題ないでござる。ちゃんと嫁を大事にしてくださるからな」


 満面の笑みを見せるハルナ。その自信が逆におれを不安にさせるんだが……。


「……人形では、ダメでござるか……」


「お前を人形と思ったことはないよ」


 人ではないのは確かだが、あれだけの感情をぶつけられて人形と思えるほどおれは冷めた性格ではない。おれの中ではハルナは人だ。


「お前は問題ないと言うが、たぶん、これから嫁は増えるぞ」


 綺麗事を言うつもりはないし、愛だの恋だの甘いことを言うつもりもない。これからを考えれば戦力になってくれる嫁はいくらでも欲しい。


 もちろん、おれを愛してくれるのなら三倍返しで愛するし、なにがあろうと守り抜く。幸せにすると誓おう。


「構わんでござる。タカオサ殿を一人占めできるほど女はできておらんからな」


「そう卑下することもないだろう。お前はいい女だよ」


 こんなおれを受け入れてくれるんだからな。


「い、いい女でござるか!? こっぱずかしいでござよ!」


 バシバシとおれの背中を叩くハルナ。なんだか懐かしい反応だな。


「おれは三十六になってから前世の記憶が蘇ったせいか、前世の記憶に引っ張られることが多い。それを話したところで誰にも理解できないだろう」


 輪廻転生って言う概念もない。宗教もないから死ねば自然に還ると思われている。そんな価値観の違う世界で生きるのは結構鬱窟が溜まるものだ。


「前世を知る者がいると言うのは心強いよ」


「拙者も同じでござる。理解されないのは本当に辛いでござるからな」


 なにかそんな経験をしたのだろう。強く頷いていた。


「改めておれからプロポーズさせてくれるか?」


「は、はい。お、お願いします」


 ござる口調は出さず、なぜか正座になるハルナ。なら、こちらも正座するか。


「ハルナ。おれの嫁になってくれ。この命ある限り、お前を守ると誓う」


「は、はい。ふつつかものですが、末長くよろしくお願いいたします」


 ふふ。なんで土下座で返事してんだよ。顔を見て言えよ。


 ハルナの顔を両手で上げさせ、誓いの口づけをする。


「こちらこそよろしくな、おれの奥さん」


 ブシューとばかりに鼻血を噴き出し、気絶してしまった。


「……前途多難だな……」


 だが、それもよし。今生は思う存分リア充を堪能させてもらおうじゃないか。フフ。

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