第155話 一蓮托生

 陽が暮れる頃、やっとハルナが泣き止んだ。


「……すまんでござる……」


「構わんよ。ただ横にいただけだしな」


 想像はできてもその苦しみや辛さはハルナしか知らない。他人がどうこうなんて言えない。できるのは横にいてやるだけ。温もりを感じさせるだけだ。


 ……花屋ではよくあること。そして、男にできるのはそれだけさ……。


「泣いたらお腹が空いたでござる。ってか、なぜお腹が空くのでござる?」


「そう言うふうに作ったからさ」


 ハルナは人ではなく、願いを叶える宝玉としてこの世界に生まれた。


 人に、と願ったところで人の形になるだけ。願いを叶えた者が死ねば元に戻る。なんの解決にもならない。


「今のお前は人造人間だ。人としての機能はつけたが、病気にはならんし怪我をしてもすぐに修復される。仮に一瞬で消滅しても万能変身能力がある限り、すぐに新たな体が作られるよ」


 もちろん歳も取るが、そのままでいたいのならまた新しい体を作ればいい。しょせん体は器。取り替えることのできるものだ。


「だが拙者、そなたの万能変身能力の魔力炉ではないのか?」


 そう。おれはハルナに魔力炉として万能変身能力に設置することを願った。


「ああ。魔力炉だよ。だが、魔力炉の形が人の形になってても外にあっても構わんだろう? 触れた者の願いを叶えてあるときだけ自我が目覚めるハルナにしたら」


 万能変身能力と魔力炉が繋がっている。なら、形や在り方など些細なこと。どちらにとっても望ましい関係だ。


「おれも中に誰かいるって状況は勘弁だ。ましてや共通意識状態はプライベートの侵害だ」


 どんなに惚れた相手でも常に心が繋がっているとか、心休まらんだろう。狂い鬼、よく繋がってられたよ。おれには絶対無理だわ。


「拙者もイヤでござる。醜い感情ただ漏れで自分勝手な価値観。もうたくさんでござる」


 どうやら狂い鬼の前にも何人かいたようだ。しかも、男ばかり、って感じだな。


「ほどよい距離がいい関係ってな、これからを考えたらこれが最良さ」


 おれが求めているのは魔力。ハルナではない。


 なんて言うと薄情でゲスなセリフだが、持ちつ持たれずギブアンドテイク。ちゃんとハルナも万能さんを使えるようにしてあります。


「これから、でござるか?」


「おれとお前は繋がっている。世界のどこにいこうが切れることはない。つまり、ハルナは自由だ。どこへいくのもなにをするのもハルナ次第。好きにしていい、ってことだよ」


 好きな場所へいき、そこで愛を育むもいいし、天下を取るのもいい。自由に生きたらいいさ。そのための力はあるんだから。


「まあ、ゆっくり考えろ。この戦艦、紅桜べにさくら──はカナハのために作ったからダメか。クルーザーか?」


 戦艦の知識がなくてもフォルムから危ないものとわかるはずだから、クルーザーにして武装は隠すのがいいだろう。


「……拙者、戦艦もクルーザーも嫌いでござる。最初の男が最強の戦艦を望み、空飛ぶクルーザーにやられたでござる……」


 最強の戦艦はわかるが、空飛ぶクルーザーってなんだよ? ってか、空飛んだらもうクルーザーじゃねーだろう。


「空のクルーザーは我らと同じ転生者だと思う。そのあとに現れた艦隊を率いてた者も転生者でござる」


 同じバスに乗車してたのなら神様からお詫びに三つの能力をもらったはず。


 そして、前世の記憶を望む者がいても不思議ではない。知恵の回る者なら自分に都合のいい能力を願うはずだ。


 ……たぶん、神様に介入されて悲惨な目に遭っている者も多いだろうな……。


 その点に関してはおれがどうこう言える資格はないのでサラリと流させてもらう。


「最初の戦艦がどんなもんか知らないが、あの攻撃を上回る転生者がいるのか……」


 驚異としか言い様がないな。


「クルーザーに乗っていたのと戦艦を制圧した者はそのときだけなのでよくはわからんが、拙者らを狙っていた者の船は戦えば戦うほど性能がよくなり、終には負けてしまったでござる……」


 その転生者も介入は受けたが、船の力か、または誰から支援を受けて乗り越えた、ってことかな? いくら都合のいい能力を持とうが一人では限界があるからな。おれの様に。


「たぶん、今も拙者のことを狙っているでござる」


 そいつもハルナの存在には気がついていた、ってことか。まあ、前世の記憶がある転生者ならそこにいきつくだろう。おれですらいきついたんだからな。


「戦いは嫌でござる。利用されるのもごめんでござる。もう、一人は嫌でござる……」


 止まった涙がまた溢れ出した。


「なら、おれのところに来い。もうおれたちは一心同体──いや、一蓮托生だ。お前を守ることは自分を守ることと同じ。立ちはだかるなら排除するまで。なに、おれの万能変身能力とハルナの無限の魔力。そして、前世の知識と今生の経験があれば負けやしないさ。まっ、負けそうになったら尻尾巻いて逃げ出すがな」


 ニヤリと笑ってみせる。


「……四番目でやっと当たりを引いたでござるな……」


 泣きながらおどけてみせるハルナ。フフ。なんか月九(古っ)のシーンに出て来そうな会話だな。


「ああ。お前は当たりを引いたんだ、おもしろおかしく楽しく生きろ。お前はおれが守る!」


 なんてキザなセリフを吐いてしまった。恥ずかしいぃぃ!

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