第154話 ハルナ

 後始末を始めて四日。最華さいか町での道がなんとか開通できた。


 普通なら何十日とかかる作業だが、パワースーツを纏ったうちの作業員に疲れと言うものはない。しっかり八時間労働してもらいました。


「……問題はあったがやっと開通できたか……」


 感無量と言った感じの副事官殿。こんな姿を見ると、おれには町を治めるとか絶対に無理と思う。毎日胃を治療する想像しかできないわ。


「本格的な工事は町でお願いします。開通したとなると雇い入れた者がほとんど去りますから」


 うちの家臣になるにしても一旦雇い主の元に帰らねばならない。ケジメをつけておかないとあとで大変だからな。


「ああ。さすがにこれ以上は甘えられんよ」


「報酬はしっかりいただくのでお気になさらず」


 港を造る許可や使用権など、金にしたらいくらかかるかわからない。その手続きも膨大なものになるだろう。それを考えたら安いものである。


 ……まあ、おれは現場監督として見てただけどな……。


「一旦町に帰るのでしたらお送りしますよ」


 三賀町から現場を指揮する兵長が来て、作業の引き継ぎは終わらせた。もうここにいる必要はないはずだ。


「いや、最華さいか町との協議があるし、最華町の様子も気になる。このまま向かうことにする」


 あ、ああ。確かにそうだな。三賀町だけでは決められんか。金の問題もあるし、最華町から出た者も狂い鬼に殺されている。まったく持って後始末は大変なものだ。


「タカオサ殿。この通信具は三賀町まで届くのだろうか?」


 通信具を出し、そんなことを聞いて来た。


「魔力の減りは早くなりますが、通信は可能です。もし、通信具が欲しい方がいたら金銭二十枚でお売りしますとお伝えください。仲介料として一つ売れるごとに金銭三枚をお渡ししますので。あ、現物払いでも構いませんよ」


 三賀町はホームグラウンド。優遇はしませんとな、とニッコリ笑ってみせた。


「……タカオサ殿とは末長く仲良くさせてもらいたいものだ……」


「それはこちらのセリフです。お仕事頑張ってください」


 アタッシュケースを作り出し、副事官殿に渡した。中には通信具が二十台入ってます。


「ふふ。商売上手だ」


「おれなんてまだまだですよ」


 あの巨大商会の二人を見て誇れるヤツは頭がおかしいか商売人に向いてないかのどちらかだわ。


「では、お気をつけて」


「ああ。報酬はなるべく早く用意しよう。タカオサ殿のお陰で書類制作が楽になったからな」


 それはなによりと、副事官殿と別れた。


 拠点としたプレハブと飯場は、三賀町に貸し出しとして残し、たぶん、そのまま買い取りになるだろうとのことだった。


 この位置はちょうど中間地点で、隊商が野営する場所でもある。


 狂い鬼の外道で山は崩され、木々はなくなり、魔物が現れやすくなったため、ここに兵を置く予定らしい。


 それに仮開通なので、まだ道を整地したり固めたりする必要がある。新たに人足を雇い入れるにも飯場はあったほうがいいとのことだ。


 食料や物資の輸送はどうなさるので? と尋ねたら町の商会に依頼するとのこと。いろいろ兼ね合いがあるらしい。まったく、苦労しかないな、町を統治するってのは……。


「ハハル。こちらは終了した。行商隊の始末を頼む」


 不穏な言葉で言ったが別に殺せって意味ではないからね。ここではそう言うのです。


「わかった。すぐに始末する」


 ハハルとの通信を切り、タナ爺に繋ぐ。


「タナ爺。行商隊の始末を頼む」


「おう。任された」


 どちらも優秀でなによりだ。だが、二人だけなのが歯痒い。贅沢を言うならもっと優秀な人材が欲しい。自動兵だけでは世は回らんのだよ、諸君!


 ただまあ、人が減ったことによりやるべきことも減ったのはなによりだ。町はハハルに。家はミルテに。防衛はアイリに任せればいい様に回してくれるからな。


「とは言え、最大の問題点を解決せんとならんか……」


 光月こうづきに乗り、海へと向けて飛んだ。


 向かう先は紅桜べにさくら。四日前から無人島を出発させ、自動航行で誰にも邪魔されない場所にいた。


 後部甲板に光月こうづきを降ろし、第一艦橋へと向かう。


 静かな通路を黙々と進むと、懐かしい音楽が流れて来た。


 ……確か、女の子が四人だか五人だかいたグループの歌だよな……?


 あまりに昔のことなので聞いたことある程度だが、ちゃんと細部まで再現できるのか。さすが万能さんだ。


 第一艦橋に入るが、音楽が流れるだけで誰もいない。あ、上か。


 展望橋に上がると、これまた懐かしい青いジャージ姿にグルグルメガネをかけた女が黄昏ていた。


「待たせて悪かったな」


「……宝玉に生まれ変わってからのことを思えば一瞬でござる……」


 なぜにござる口調? とかは流しておこう。


「そうか」


 とだけ言って女の横に座る。


 ビールを二つ出し、一つは女の横に置き、一つはおれが美味しくいただいた。


「拙者、ビールは苦手でござる。イチゴオレが飲みたいでござる」


「イチゴオレか。どんな味だったっけ?」


 飲んだ記憶はあるが味が思い出せん。が、万能さんにかかれば無問題。五百ミリパックのイチゴオレを出してやった。


「……美味いでござる……」


 そう呟き、女──いや、重盛波瑠菜しげもりはるなが子どものように泣き出した。

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