第153話 後始末

 そして、元の空間に戻った。


「……カナハ、ご苦労さんな……」


 どのくらい時間が過ぎていた? と聞くのは愚問だろう。見ている者になにかあったと教えるようなもの。もし、あそこにいた時間が流れていればカナハがなにか行動するはずだ。それがないと言うのなら一瞬のことだったのだろう。


「ううん。あたし、なにもできなかった……」


「こればかりは経験が物を言うからな、そうしょげることはないよ」


 カナハの頭をグリグリしてやる。


「さあ、後始末をするぞ」


 狂い鬼を倒して終わりでは雇い主から不興を買うし、楽な仕事どころか旨味しかない仕事だった。アフターケアはさせてもらわないと罰が当たるぜ。


「カナハたちは怪我人を見てくれ」


 魔力はあり余ってるくらいある。生きてりゃ完全回復させてやるよ。


「おれは拠点を作る。あ、飯も用意しなくちゃならんか」


 飯場は残っているようだが、あのバカがご丁寧に食料を残しているとは思えない。


 そう思って飯場に入ると、あまり子どもには見せられない状況になっていた。


「……あの屑くずが。もっと痛めつけてからぶっ殺してやるんだったぜ……」


 なんて後悔しても遅い。連れて来られただろう女たちを手当てしてやらんと。


「治療はスーツがしてくれるが精神まではわからん。酷い様なら眠らせて催眠治療をしろ」


 レイサを呼び、そのやり方の情報をレイサのバトルスーツに送った。


「人手が足りない場合は村から呼ぶから言ってくれ」


「了解です」


 あとは任せて周囲の様子を見て回ることにした。


 試し撃ちでもしたのか、山は崩され道は潰され人はゴミの様に殺されていた。バカにナイフを持たせるなの典型だな。


 死体は集めて遺族に、とは思うが、肉塊を渡されても困るだろう。前世の軍隊のようにタグをつけてるわけじゃないし、顔か身体的特徴がなければ遺族にだってわかりゃしないよ。


「副事官殿。死体は燃やしてよろしいですか? 集めろと言うなら集めますが」


 勝手にはできないので雇い主にお伺いをする。


「あ、ああ。死体は燃やしてくれ。遺族への説明はこちらでしよう」


 話のわかる雇い主で助かります。


 死体(肉塊)は集めて燃やす。そう簡単に言い、淡々とこなす自分に苦笑してしまう。


 それが善いのか悪いのか。そんな下らなく、そして無意味なことを考えてしまうくらい死体(肉塊)が多い。


 星が落ちた被害がどれほどかは知らないが、この死体(肉塊)の数からして二百人以上は集められたのだろう。それを面白半分か、試し斬りかは知らんが、本当に面倒なことをしてくれたもんだぜ。


 生き残った者にも手伝ってもらいたいところだが、憔悴し切った者に働けは酷ってもの。だが、さすがにおれ一人では埒があかんぞ。


「タカオサ様。人手をお願いします。どうやら最華さいか町方面も被害が出ているようです」


 よくよく考えれば最華さいか町方面からも復旧はするか。どちらの町も流通を再開せることは急務だからな。


「わかった。すぐに用意しよう」


 こう言うときがあるから人材確保は疎かにはできないんだよな。


「アイリ。タナ爺に言って開墾してる者を半分選んでこちらに寄越してくれ。大型輸送機は格納庫に用意するから」


「大型? 操縦士はどうするんだ?」


「自動兵が飛ばすから大丈夫だ」


 今なら百でも千でも用意できる魔力はある。が、さすがに百や千を出すのは問題なのでしないがな。


「自動兵?」


「アイリ用に一体作るから試しに使ってみろ」


 人の様に、とはいかないが、人工知能搭載し、学習機能をつけたから慣れれば人以上の働きをするだろうよ。もちろん、自我が目覚め反逆行為に及んだら機能停止するように設定はしてあります。


 ……もっとも、万能変身能力から作られたものならオレの自由意思でなんとでもできるがな……。


「副事官殿。この場を仕切る責任者を用意してください。最華町さいかまちの者とも関わるでしょうから」


「では、わたしがいこう。現場を見たい」


 こう言う行動力がある上司(雇い主)がいると現場は本当に助かる。まあ、上からは煙たがられるがな。


「わかりました。輸送機を村に送ります」


 格納庫で優月ゆうげつ級と自動兵を作り、村へと発進させる。


「副事官殿が来るとなると飯場では心ともないな」


 男が多く集まる場所で女たちをケアするには不向きだし、炊事場や風呂、寝る場所も必要だ。仮とは言え副事官殿がいる場所を雑にはできんだろう。


 飯場から百メートル離れ、たぶん、街道沿いだろう場所を整地して二階建てのプレハブを四つ、作った。


 時間的にそんなにはかかってはいないが、副事官が来るくらいにはかかったようで、優月ゆうげつ級輸送機が降りて来るのが見えた。


 用意した場所に降りるよう自動兵に指示を送る。あ、大型輸送機が降りれる場所も整地せんといかんか。


「タカオサ殿」


 自動兵に案内されて副事官殿がやって来た。


 ちなみにこの世界にはゴーレム──自動魔人形と呼ばれるものがあり、お偉いさんの寝室に置かれているって話は有名だ。


 なので副事官殿は自動兵に驚きながらも受け入れている様子だった。


「すみません。まだやることがあるので部屋でお寛ぎください」


 単身で来るとか不用心過ぎるだろう。


「いや、少し見て回りたい。問題があるなら諦めるが」


「この臭気に耐えられるなら問題ありませんよ。自動兵もいますから」


 もうバカはいないし、魔物が来ても自動兵なら余裕で排除できる。偵察ドローンも放ってるしな。


「すまない。我が儘を言って」


「お気になさらず。現場を知ろうとする雇い主は大事にしませんと」


 理解ある雇い主は貴重だ。無駄に散らしては請負業の損失である。


「暗くなるまでは戻って来てください。鬼猿は死肉にも寄って来ますので」


 夜行性ではないが、エサがあるなら夜でも活動するのだ、鬼猿って魔物は。


「わかった。言う通りにしよう」


 念のため、自動兵をもう一体作り、護衛に当たらせた。


「おっと。大型輸送機も来たか。急がんと」


 視界に写った大型輸送機に慌てて降りる場所を整地した。

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