第152話 南無三

 惨いな。


 と思うのは人から人へ転生できたからだろう。


 おれも一歩間違っていたらコレと同じ運命になっていたかも知れない。人とは違う種族、物に生まれるなど考慮しなかったのだから。


 エクスカリバーを握ったときの声、いや、感情からして前世の記憶なり意思なりがあるんだろう。


 人の心を宿した物──ぎょく。いつからその姿(形か?)でいるのだろう。おれなら一年としないで気が狂いそうだ。


 さて。どうしたものか?


 ぎょくを前にして悩む。


 狂い鬼が触られたことからして体に害はないだろうが、触ったら離れないとかは困る。おれの推察では魔法のランプ系ではないかと思う。


 まあ、ざっくりとしかアラジンと魔法のランプを知らんのでなんとも言えんが、神から介入されたってのが怖いところだ。結構えげつないことするからな、こちらの神さまは……。


 とは言え、見て見ぬ振りはできない。


 物ではあるが人の心があり、狂い鬼みたいなのに拾われたら面倒でしかない。かと言っておれが拾うのも問題がある。


 神の介入によりおれの三つの能力は凄まじいが欠点、いや欠陥か? なんにしろ不完全であるからこそ増長しないでいられる。


 それに、このぎょくを手にしたらまた神からの介入があったりするかも知れない。今の生活が壊れるのは絶対に嫌だぞ。


「……父さん、どうしたの……?」


 長いこと考えていたようで、カナハや生き残りたちが集まっていた。


「そいつをどうするか悩んでいたんだよ」


 この状況はカメラを通して町長や副事官殿にも見ているので隠すことはできない。でも、だからと言って正直に言うこともできない状況でもある。


「なんなの、これ?」


「そのくずをさらに屑にさせた元凶だ。触るなよ」


 娘に放り投げるのは親として無責任だからな。


「危険なの?」


「この状況が答えだ」


 絨毯爆撃を受けたより悲惨な状況になっている。たぶん、死者も百人は超えるだろう。


「壊す?」


 過激だな、とは言えないか。おれも思うから。


「壊せるものならな」


 たた、神が介入したってところがネックなのだ。仮に壊せたとしても別の場所で復活しました~とかなったら目も当てらんわ。


「壊すこともできん。放置することもできん。他に任せることもできん。まったく厄介なもんだ」


 だが、どんなに悩もうと最初から選択肢は一つしかない。そう、おれが取るしかないのだ。


 別に優しさとか管理ができるとかではない。ただただ同情から来るものだからだ。


 惨いだろう。物に転生ってのは。もしかしたらおれだったかも知れないんだぞ、他人事とは思えねーよ。


 救ってやりたいと思うのは傲慢ってもんだし、救ってやれるとも思えない。せめてこいつの自由意思を尊重し、望む形に持ってってやりたい。


 深呼吸を一つして、ぎょくをつかんだ──その瞬間、おれは白い世界にいた。


 これと言った動揺はない。それどころか助かったと思った。見られて困ることだからな。


 ……見られてないのなら誤魔化し様はある……。


「わたしはハルナ。あなたの望む形になる宝玉である」


 いつの間にか目の前に二十五、六の女が現れ、そんなことを口にした。


 なんだろう。神々しい衣を纏っているのに、顔は普通と来ている。しかも、日本人顔。シチュエーションを手抜きしてるとしか思えないぞ……。


「あんたは、元日本人なのか?」


「望むがよい」


 意志疎通は無理、ってことか? 余計なことを知られないために。だとしたら悪意しかないだろう、双方に取って。


「また今度ではダメかい?」


「わたしはハルナ。あなたの望む形となろう」


 つまり、願いを言わないとここから出ることもできないってことか。なんとも悪辣だぜ。


「……望む形か。人に、ってのは単純過ぎるよな……」


 人の肉体に無限の魔力が持つとも思えないし、それでハルナの人生(?)が終わっては哀れにもほどがある。


「まったく、難しい問題を出してくれるぜ」


 無表情なのでハルナの心情を察することはできないが、エクスカリバーを握ったときのあの叫びからして普通の、人の感情があることは察せられる。


 人に転生したかったことだろう。物に転生は辛かったことだろう。助けてと叫びたいだろう。


 ここは知恵の見せどころ。考えろ、おれ!


 考えに考えて、知恵を絞りに絞り、一つの答えが出た。


 正直、これが正解かはわからんが、これ以上の答えも出て来ない。


 南無三とばかりにハルナに願いを告げた。

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