第151話 あっけなく決着
狂い鬼は狂ったように魔の斬撃を飛ばして来る。
まあ、それが狂い鬼の戦術であり、おれの戦術でもあるから一向に構わないのだが、もう三十回はやっている。そろそろなにかおかしいと気づく頃なんだがな?
魔の斬撃の魔力は約30000。それが三十回だから九十万。いや、百万は越えたか。電力にしたら都市一つ賄えそうである。
無限、か。まさしく無限が如く一撃一撃すべてが同じ魔力量だ。
狂い鬼が手にする聖剣エクスカリバー。それは前世の世界のもの。いや、アーサー王がいたかどうかも知らんし、仮にあったとしても無限の魔力が出せるわけもない。
そう、まるで漫画かアニメに出て来るようなふざけた武器である。
これから推察されることは、狂い鬼は転生者ではなく、前世の記憶、または意思を持つ者がいるってことだ。
たぶん、おれと同じようにバカな願いをしてこちらの神に介入された口だろう。
どう介入され、どんなかは想像もできんが、少なくとも聖剣エクスカリバーとしての形になって転生(?)ではないだろう。
あの形であの魔力。昔からあるなら噂どころか話題になっている。仮に、だ。持ち手を選ぶなら狂い鬼なんかに握れるはずがない。あんなバカが選ばれたのなら最初から神が介入するなんてあり得ない。バカな願いをした以上のバカに与えるとか、こちらの神は邪神ってのことになるわ。
もっとも、あんなバカだからこそ被害が小さいのかもな。前世の記憶があるヤツなら都市一つ破壊してそうだ。調子こいてな。
……おれもそうなっていた自信があるぜ……。
「クソ! どうなってやがる!」
四十回を越えてやっと悪態をつく狂い鬼。やっとかよ。
「どうした。たかだか剣を四十回振り下ろしただけで泣き言か? 新人でも百回は剣を振れるぞ」
そこで冷静になれればまだ評価も違って来るのだが、所詮、屑は屑。感情を優先させてしまう。
「っざけんな!」
叫び、突っ込んで来た。
「死ねや!」
「お前はできないことを口にするのが好きだよな」
真上からの斬り下ろしを紙一重で避け、トンファーで脇腹を打ってやる。
万能スーツにより身体能力が上がっているため、その一撃は重い。あばらは折れたか粉砕しただろう。
悲鳴にならない悲鳴を上げて地面に倒れた。
「防御力ゼロかよ」
まあ、動きからして素なのはわかっていたが、なんの防衛手段も用意してないとは思わなかった。用心のために帷子くらいするもんなんだがな……。
「屑くずが」
苦痛と戦うバカに吐き捨ててやる。
「大方、最強の剣が欲しいとでも願ったんだろう」
願いは単純なほど危険だ。それは寓話にもなっているし、前世でも今生でも何度でも目にしている。
金が欲しい。女が欲しい。力が欲しい。アレやコレが欲しいと耳にしたことがあるだろう。
願うのはいい。だがそれは神頼みに近いもので、そう言うヤツは自分で努力して得ようとは考えない。持っているヤツをひがみ、嫉妬するだけ。言い訳だらけの人生だ。
「そんなバカが力を手に入れたら増長し、神に選ばれたとばかりに愚かになる」
──力は一日して成らず。積み重ねて力となるのだ。
昔、力がすべてだと奢っていたとき、アイリの母であるリサさんから鉄拳で教えられたものだ。
「所詮、剣は剣。体を丈夫にしてくれるわけでもなければ技術を向上してくれるわけでもない」
してくれたらそれは剣ではないなにか。決して剣のカテゴリーには入らない。
「願うなら最強の剣ではなく、最強の剣士を願えばよかったんだ」
身の丈に合った願いをすればもっと長生きできたものを。バカな願いをしたばかりに哀れな最後を迎えることになるんだよ。
まだ手に持つ聖剣エクスカリバーに触れた──ら、常人なら骨すら残らないだろう雷が流れて来た。
だが、それはおれの糧になるだけ。暴流な力を感じながら聖剣エクスカリバーの柄を握る。
──なぜ死なないの!?
なにか女の声が頭に響いた。
な、なんだ、今のは!? エクスカリバーから流れて来た感じだぞ?
お前なのか? とエクスカリバーに問うが、返って来るのは尋常ではない魔の雷。声は聞こえなかった。
気のせい? ではないな。コレになった転生者の声だろう。
「まあ、それはあとにして、だ」
うつ向きながら苦悶する狂い鬼を足で仰向けにする。
「……ち、畜生が……」
「おーおーさすが二つ名を持つだけはある。並みの傭兵なら口も聞けないだろうに」
だからと言って尊敬には値しないがな。
「来世はもっと真面目に生きるんだな」
こちらの理に輪廻転生があるなら、だけどよ。
エクスカリバーを振り上げ、そして、狂い鬼の首を斬り放した。
捕まえて尋問、そして処刑。なんておれが許さない。屑は誰にも看取られず野で死ぬのがお似合いだ。
「自分の剣で殺される。せめて酒場での笑い話にしてやるよ」
エクスカリバーを狂い鬼の胸に突き刺す。
と、エクスカリバーが眩しく輝き、視界を遮った──のも一瞬。胸に突き刺したエクスカリバーがテニスボールくらいの宝玉となっていた。
「……つまり、物に転生したわけか……」
惨いの一言に尽きるな……。
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