第150話 聖剣エクスカリバー

 狂い鬼が持つ剣が輝き出す。それに合わせて魔力も高っていく。


 異常。まさにそれに尽きるほどの魔力の高まりであった。


 この世には魔剣妖剣と言うものがある。おれも魔剣なら見たことがある。


 初めて見たときは卑怯の一言に尽きた。並みの剣など藁にも劣り、名工が作りし名剣でも小枝のごときあっさりと斬られていたものだ。


 だが、これは異常だ。異常過ぎる。どこぞの飲兵衛のんべいが可愛く思える。いや、あの人は別の意味合いで怖いがよ。


「一瞬で塵にしてやるよ」


 自信満々、いや、あれは嗜虐から来る屑の笑いだな。


「さて、お前にできるかな?」


 挑発してやるが、手に持つ剣に自信があるのだろう。狂い鬼の笑みが崩れることはなかった。まるで自分の浅はかさを証明するかのように。


 狂い鬼はおれのことを知っている。自分で言うのもなんだが、不名誉なほう方向に有名だ。傭兵をしていれば噂の一つや二つは必ず耳にする。


 知略に飛んだ戦いをする、と。


 ……世間の評判は悪意あるものですからご注意を……。


 右斜めにしていた剣を上段……どころか真上に振り上げる。


 まずあり得ない構えだ。


 おれと狂い鬼の距離は約十五メートル。振り下ろしたところで届く距離ではないし、隙でしかない。


 と、並みの傭兵なら思うところだろうが、ある程度の修羅場を経験していれば振り下ろしたらなんか来るとはわかるものだ。


 そのなにかが問題だろうが、と言うのは三流の証。真上に上げたのなら振り下ろすしかない。そこで雷なり炎なり纏っていたら対処法も違って来るが、あんなあからさまな構え、斬撃しかないだろう。紅桜べにさくらに放って来たようなものがな。


「死ね! エクスカリバァァァァッー!!」


 眩しいほどの魔の斬撃はが放たれる。


 やっぱりかよ! と突っ込みたいのをがまんして胸の前でトンファーをクロスさせた。


 振り下ろした速度と同じ速度で魔の斬撃が向かって来る。


 威力はそれでいいとして、速度的にどうなのよ? 威力範囲はキロ単位で伸びそうだが、幅一メートルほど。一流どころの傭兵なら簡単に避けられるぞ。


 まあ、万能スーツを纏ったおれに避ける選択肢はない。と言うか受ける一択しかないわ。


 クロスしたトンファーに魔の斬撃が当たる。


 この威力なら戦艦すら真っ二つにできそうだが、万能スーツは無限の魔力を元に稼働するよう作られたもの。三十数万の魔力であろうと一瞬で吸収できるのだ。


「──なっ!?」


 輝きが一瞬で消えたことに目を大きくさせて驚愕する狂い鬼。哀れに思ってしまうくらい愚かであった。


 必殺であったのだろう。避けられないと思ったのだろう。だが、それを無理矢理にでも理解して次に繋げなければならない。戦場で止まることは死を意味するのだから。


「今、なにかしたか?」


 とは狂い鬼が一番聞きたいことだろう。そこで冷静になれたのならひとかどの傭兵と成れたのだろうが、元来の性格がそれを許さない。


 一瞬にして血の気が高まり、また同じ攻撃をして来た。


 いただける魔力は遠慮なくいただきますと、また胸の前でトンファーをクロスさせて魔の斬撃を吸収する。まったく持って美味しい限りである。


「……な、なぜだ……?」


 それを見抜く……までいかなくても考察できない時点で狂い鬼は三流なのだ。


 悪名だろうと二つ名がつけば実力があるものだ。だが、そこに冷静さや知恵などがなければ搦め手で簡単に倒せてしまうのだ。


「お前のその剣がなんなのかは知らないが、非常識な武器を持つのがお前だけと思うな。おれにもこの蟒蛇うわばみと言う魔力を吸う武器があるんだよ」


 とか適当なことを余裕な顔して言ってみる。


 歴戦の傭兵ならまず疑うし、敵の言葉を鵜呑みにしたりはしない。ましてや相手はおれである。おれを知る者ならまず信じないだろう。


 だが、なまじ自分が非常識な武器を持っているだけに否定することは難しい。うぶな娘を騙すより簡単に信じてしまうだろよ。


 ほら、ニヤリと笑ったよ。おれの推察を正解と言うかのようにな。


 ……力に溺れたアホのなんて愚かなことよ。おれも最初から三つの能力を使えたらこうなっていたかもな……。


 他人の振り見て我が振り直せ。ではないが、奢ればただの暴力。賢く使えば己の味方。よりよい未来を築く糧としよう。


「フフ。なるほど。スゲー武器を持ってるじゃねーか。だが、おれの聖剣エクスカリバーは無限の魔力を生み出す最強の剣だ。どこまで吸えるかな?」


 なんてイヤらしく笑う狂い鬼。


 敵の言葉を信じるなと言ったが、相手を見下すアホの言葉は素直に信じても構わない。優越感に浸るアホはすぐ真実を言っちゃうからだ。


 まあ、その辺は相手によりけりで人生経験が必要だが、あの異常性を見せられ、聖剣エクスカリバーとか言ってたら、前世の記憶がある者としては信じる──いや、事実だと知るだろう。


「ああ、確かに最強の剣だ。それは認めるよ。で、お前は最強の剣士なのか?」


 ニヤリと小馬鹿に笑ってやる。


 力に溺れたアホを怒らすのに難しい言葉はいらない。ただ、虚仮にしてやればいい。


「……テ、テメー! ぶっ殺してやる!」


 ほんと、三流の吐くセリフはありきたりで参るぜ。

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