第146話 お仕事開始
「──では、調査拠点を花木村に設置しましょう。副事官殿は十人の兵士と医師、その助手を揃えてください。あと、可能であれば副事官殿も」
決定権のある者がいると話が早くて助かるからだ。
「わかった。すぐに用意しよう」
できる副事官殿は否とは言わない。が、すぐには無理だろうからこちらもできることはやっておこう。
「町長殿、副事官殿の次に厄介事に適した人物をお呼びください。ここに対策室を設置します」
「対策室、とは?」
「権限を持つ者が指示したり情報を得たりする部屋です。対策室長は得た情報から判断と決断。副事官殿は状況把握と現場指揮。そして、指示に従い動くのがおれたち。まあ、どうなるかわからない状況で、ただ待つのは胃に悪いでしょうから通信できる魔道具と現場の姿を見られる魔道具をご用意します」
通信具とモニターを三台作り出し、テーブルに設置する。
「通信具は副事官殿とだけ繋がるようにしてあります。この透明の板は遠い場所を見れるものです」
試しに現場へと向かっている紅緒べにおに繋ぐ。
「カハナ。紅緒べにおの下にカメラを追加して、窓の右横に映るようにした。操作はミレハに任せる」
副操縦席にいるミレハに操縦知識を流す。
「何度も言うが、これは情報収集だ。単独行動や独自判断は許されない。仮令目の前で子どもが死にそうでもおれの命令に背くな。背いた場合は家族の縁を切ると思え」
言って通信を切る。
「……厳しいのだな……」
町長のセリフに肩を竦めて見せる。
「理不尽な命令でない限り、依頼者の言葉は優先され、遂行されなくてはいけない。それが信用ですから」
アホ依頼者は死ねと思うが、依頼を無視して自分勝手に動く無能は滅びろと思う。アホな依頼者より無能なヤツのほうが味方を殺すのだ。
「依頼主に信用されない傭兵は三流以下。大きい仕事は回って来ません」
誰が粗野で好き勝手動く傭兵なんぞ雇うか。いや、悪さする小悪党は雇うか。まあ、どっちにしろ、そう言うアホは早々に死ぬ。それが自然の摂理とばかりに、な。
「フフ。さすが鬼人を制してきた者のセリフだ。誰もが使いたいと思うはずだ」
「それに見合う報酬なら喜んで尻尾を振るんですがね」
それができないようなヤツらは二流が精々。三流以上に死ぬ立場である。
三流は恥も外聞も関係なく逃げ、一流は戦術的撤退で引くからだ。
「そうだな。仕事ができないバカはケチるから困る」
それでこそ尻尾を振る甲斐があるってものだ。
「兵士を運ぶ乗り物を持って来ますので役場の広場を使用する許可をいただきたい」
「西にある修練場を使うとよい。わかるように緑の旗を振らせておく」
本当にできる雇い主とはありがたい。仕事がスムーズに行えるんだからよ。
では失礼とその場を後にする。
「それで、あたしはなにをすればいいの?」
駆け足で役場を出ると、通信を繋いでいたハハルの声が発せられた。
「今回は左軍を動かすからハハルは店を頼む。あと、ハルマに連絡してくれ。家を守れとな」
アイリがいるから大丈夫だとは思うが、ハルマは次期当主である。今から家を守る自覚を持たせるのもいいだろう。
まあ、本当ならおれが言うのが一番なのだが、今はハハルが望月家のナンバー2であり、ハルマを冗長させない重石であることも教えたい。
なんとも面倒ではあるが、次代を残したいのなら頑張れ、だ。それをせず朽ちた技術や知識は枚挙にいとまがないではないか。その愚を犯すな、だ。
「わかった。万が一に備えて山梔子も動かしておいたほうがいいんじゃない? 砲やミサイルなら届くんだし」
そうアドバイスしてくれるお前があと三人は欲しいよ。
「そうだな。自動航行させておこう」
そう
「では頼むな」
「任せて」
通信を切り、港へと全力疾走。管理事務所の前に置いた
管理役人が窓を叩きながらなにかを言ってるが、忙しいので後にしてくれ。まあ、いつになるかは神のみぞ知る、だかよ。
構わず
町長の前から去って七分もしないのに、修練場には緑の旗を振る者がいた。まったく、さすがだよ。
バスケットコート三面分の修練場に光月を着地させ、後部ハッチを開放させる。
町長も町長なら副事官殿も副事官殿。十名の兵士と医師、そして助手を集めていた。
「後ろから入ってください」
そう指示を出すと、速やかに乗り込んで来る。
全員乗り込んだことを確認し、後部ハッチを閉める。
「椅子に座り、前のつかみ棒を握っててください」
シートベルトもあるが、説明するのも面倒だ。そう乱暴に飛ぶわけでもないし、バーを握っていれば問題はない。
全員が座るのを待ち、バーを握り締めたら静かに垂直離陸する。
「これより花木村へ向かいます」
とは町長に向けてのこと。乗ってる者は初の飛行に軽くパニック中だからな。
さて。お仕事開始だ。
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