第145話 町からの依頼

「失礼」


 町長に断りを入れて部屋から出た。


「ミルテ、どうした?」


「家に走り番が来て、山崩れに向かった兵士たちが怪我を負ったそうです」


 いまいちわからない説明だが、訓練されてない者に手順を追って説明しろと言うほうが悪い。


「アイリ」


 ミルテの側にアイリたちの反応があったので、通信をアイリに切り替えた。


「兵士や作業員がなに者かに襲われ壊滅に近いそうだ。村に助けを求める伝令が来た。それ以上はわからない」


 端的だがよくわかる説明だった。


「誰か村にやって情報を集めてくれ。カナハに二人つけて山崩れの場所に向かえ。ただし、絶対に降りたりはするな。二百メートル上空から情報収集だ。異変があればすぐに逃げろ」


「わかった」


 通信を切り、部屋に戻る。


「最華町開通へ向かった兵士がなに者かに襲われ壊滅したそうです」


 おれの言葉に息を飲む町長。否定的な表情を見せないのはさすがだな。


「……遠くの場所と連絡できる魔道具があるのは知っているが、随分と優秀な魔道具を持っているようだ……」


 冗談っぽく言ってるが、内心は大荒れだろう。一難去ってまた一難な状況なんだからな。


「村に伝令が来たと言いますから、全滅ではないのでしょう。家の者を走らせましたのでしばらくすれば情報が届くはずです」


「……すまない……」


 と謝るだけ。動こうとしなかった。


「おれが口出すことではありませんが、調査隊の編成をしたほうがよろしいのでは? あと、派遣できる兵士か傭兵を用意しておくべきかと」


 優秀な人なんだろうが、それは管理者として優秀なだけで、指導者としては人並みなんだろう。まあ、国の事情として求められるのは管理者だからな。


「……あ、ああ、そうだな。誰かある!」


 町長の呼び出しに若い役人が現れた。


「ナロエをすぐに呼べ」


 そう言や副事官殿がいなかったな。別の場所で仕事をしてるのか?


 若い役人が消えると、重いため息を吐く町長。


「恥ずかしいが、面倒事はナロエに任せているのだ」


 確かに。と思うのは失礼だが、自分の能力を理解して、権限を与えているのはさすがである。並の者では嫉妬して追い出すだろうからな。


「できる者に仕事を振る。それも町長の才。そう卑下することはありません」


 副事官殿もそう思うから町長に従っているのだろうよ。


「不破の不知火にそう言われると誇らしく思うよ」


「若造の戯れ言です。お流しください」


 五十半ばの町長から見ればおれなんか殻のついたヒヨッコだろう。それだけの人生を送ってきたのだからな。こちらが図に乗る理由にはならないさ。


「ナロエ、参りました」


 しばらくして副事官殿がやって来た。


「忙しいところをすまぬが、また問題だ。どうも復旧作業に出た者らがなに者かに襲われたようだ。今、タカオサ殿に詳細を調べてもらっている」


 町長の言葉を受けて副事官殿は、瞼を閉じて考えに入った。


 やはりこの人は凄い。町長の話を聞いておれに確認することなく対処するべく考えに入るのだからな。


「まず確認のために兵士を送りたいところですが、それでは遅すぎますし、後手に回りそうです。解決を急ぐならタカオサ殿にご協力を得るのが得策かと。もちろん、報酬を払ってです」


 おれではなく町長に目を向ける副事官殿。優先順位と言うか、道理をわきまえている。こう言うところも信頼されてるのだろう。


「ナロエに一任する。よきに対処せよ」


 丸投げされたとも同然だが、余計な口出しを出されず、権限をくれたのだから副事官殿はやりやすいだろうて。


 副事官殿が町長に一礼して、こちらへと体をずらした。


「タカオサ殿。三賀町としてあなたに依頼したい。わたしの補佐として状況打開に動いて欲しい。かかった費用は町で持ちます。もちろん、報酬は別で。依頼書には町長とわたしの名を署名致します」


 破格、どころではない。町そのものを差し出したに等しい行為である。気が狂ったと思われても反論できんぞ!


 あまりのことに副事官殿を凝視するが、副事官殿は冷静で、目がマジだった。


「……随分と思い切ったことを言いますね……」


 と訊く当たりがおれの底を見せているようだぜ。


「あれだけの力と人となりを見れば当然のことかと。ましてやオン商会とゼルフィング商会と同等に対峙できるあなたを安くは使えません」


 まあ、この町に巨大な力が三つも揃っていれば反抗する気も萎えるか。


 ただまあ、それでいて卑屈になることなく、威厳と尊厳を見せているような表情は好ましいな。バカを相手にするのは本当に疲れるからよ。


「でしたら、望月家専用の港を造る許可と町に属することを認めていただきたい。もちろん、町の土地ですから地税は払いますし、町の法にも従いますよ」


 山梔子くちなしと紅桜べにさくらを留めておく港は欲しいし、町に属さなければ買い物もできない。先々を考えるなら野良でいる自由より国に属する利点を得るほうがいい。


「おれが港を造るなら、オン商会もゼルフィング商会も続くでしょう。大陸から物や人が流れて来ます。まあ、問題も増えるでしょうが、今から対応すれば混乱も抑えられるでしょうよ」


 飛空船や魔道船を持つ商会だ、港の造りを見たら使いたいと言ってくるはずだ。その使用料だけで税金は賄える。


「否応なしに町は発展します。港周りを整備し、町の所有とすればよろしいかと思います」


 それだけ言えば理解しただろう。税を取り立てる者なら、な。


「……怖いな、タカオサ殿は。さすがオン商会とゼルフィング商会と対等に付き合えるだけはある……」


「ふふ。二大商会の従業員と対等に付き合える程度の男ですよ。お二方以上の者が出て来たらケチョンケチョンに伸されてしまいますよ」


 世界規模で動く商会のトップがおれより下なわけがない。遥か上だと思ってないとケツの毛までむしられるわ。


「あのお二方に勝てない我々にすれば強い味方を得たようなもの。今後ともタカオサ殿とは仲良くやっていきたいものです」


 あの二人を相手にするのはあなたに任せます、と聞こえたが、まあ、やるしかないか。今のおれにはあの二人の力が必要なんだからな。


 佇まいを直し、町長を見る。


「町からの依頼、喜んで受けさせていただきます」


 言って頭を下げた。

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