第142話 持ちつ持たれつ

「はい。副事官様よりお話は伺っております」


 と、いい意味で期待を裏切られ、町長がいる建物へと案内される。


 町長が市政──町政する役場ではなく、別の建物だった。


 林に囲まれた二階建ての屋敷で、大陸風の感じがした。


 ……前世の記憶があるだけに違和感バリバリだな……。


 町は中華っぽく、村は日本風っぽくあるのだ。


 なんて名称がついてるか知らんが、兵士やいい服を着た役人いることからして本丸的な感じかな?


 田舎もんで傭兵には役場の全容など知る由もない。が、活気がないのはわかった。


 町の兵士は五百人もいないと聞いたことがある。


 その内、百人は町の警備なのどに割かれ、百人は周辺の村への巡回。残りが魔物に対応すべく四つある砦に配置されているとか。


 素人がどう考えても足りてないと思うだろう。それは正しい。発展してない時代の魔物がいる地域で潤沢に治世を治めるなど不可能。無茶言うな、である。


 ……それでも三賀さんが町は恵まれていると言うのだから救われないぜ……。


 とまあ、そんな状況だからこそ、この国は傭兵が活躍でき、傭兵が重要視されるのだ。まあ、待遇はよくならないけどな。


 大陸には冒険者がいるようだが、この島の魔物は強い。そして群れる。ならばこちらも群れなきゃ戦えないってこと。なのに、この島を支配するもう一つの種族と戦争とかするんだから救われない……。


「タカオサ様をお連れしました」


 なんてことを考えていたら町長のいる屋敷の受付的な場所に来ていた。


「はい。ではこちらで引き継ぎます」


 ここまで連れて来てくれた役場の役人からここの役人へと受け渡された。


 高級官僚──と言う言葉が浮かぶくらい、ここの役人が着ているものは立派で、頭がよさそうな顔をしていた。


「初めまして、タカオサ様」


 上品にお辞儀する四十代の男。受付的な場所にいたが、だからとただの受付員ではなかろう。オレを見たときの眼光が鋭かった。たぶん、上位にいる立場の者だろう。


「初めまして、タカオサです」


 名前を言わないのならこんなもんでいいだろうし、こちらに文句もないってことだ。品よくしてたらなにも言われまいて。


「では、こちらへ」


 と、通されたのは二十畳はあろうかと言う畳の間。造りや調度品から見て、謁見の間的なところだろう。


 まあ、町長はあくまでも役人。貴族ではないので高貴なる血が~とか、町が所有地だ~とか言えず、それほど権力も発動もできないとか。


 国の決めたルール内で動くしかなく、国の都合で辞めさせられるときもあるそうだ。まさに中間管理職、って位置にいるんだろう。大変だ……。


 部屋の中央にシングルベッドくらいのテーブルが置かれ、上座と下座に高級な座布団が敷かれていた。


 当然のように下座に座らせられ、しばらくお待ちくださいと男は下がっていった。


 これから長時間待つのか──と思ったら、五十半ばの白髪の男がやって来た。


 体は細く、健康そうではないが、上等な服と纏う威厳から町長であることは間違いない。が、随分と軽快なお方のようだ。


「わたしが曽井そいサダイだ」


 上位ではあるが高貴ではないので、先に名乗ったところで問題はないが、二人っきりで会うとか、いいのか?


 ……お偉いさんに会ったことがない今生なので対処に困るな……。


「勝手ながら望月もちづきタカオサと名乗っております」


 とりあえず下手に出て頭を下げた。


「……なるほど。ナロエの申す通り、傭兵らしからぬ落ち着きと品がある」


 大人しくしてるだけです。まあ、前世の記憶が蘇る前から傭兵らしからぬヤツだとは言われてましたがね。


「不破ふわの不知火しらぬいの名はわたしの耳にも届いておる。が、それ以上の働きをしているようだな」


「運によりまして」


 それが幸運なのか不運なのかはわからんがな。


「運、か。よい言いわけだな」


 落ち着いた笑みを浮かべるが、それで片付けられたらどんなに幸せかと、統治者の苦労が見て取れた。


 ……結構苦労しているようだ……。


「この運でよければいつでもお貸し致します。国から外れている身としては町が頼りなので」


 完全に自給自足が可能とは言え、外界を断つ仙人ではないのだ、外とは必ず繋がらなければならない。であるのなら、よき隣人と付き合いたいものだ。


「持ちつ持たれつ、か」


 さすが長年三賀町さんがまちを治める人だ。よくわかっている。


「はい。世の中、持ちつ持たれつがよろしいかと」


 一方的な支配、一方的な依存は害悪だとおれは思う。人は一人では生きていけないのだからな。


「そうであるな。持ちつ持たれずがよい」


 それは、賄賂とか談合しようってことではない。良いときも悪いときも支え合いましょうってことだ。


「三賀町町長、曽井サダイが認める。そなたは望月もちづきタカオサである」


 懐から望月もちづきの名が書かれた名札と、それを認めた証書を出してテーブルに置いた。


 そろを恭しく受け取る。


望月もちづきの名を与えていただきありがとうございます」


 町長に頭を下げて感謝を示した。

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