第141話 役場
店を護衛するために通う乗り物を作った。
まあ、天烏てんうをさらに小さくして、一人乗りにしたもので、ちょっとトランスフォームできるのが売りだ。
姿形は勝手に想像してもらうとして、戸惑うハヤカを……黒枝くろえに放り込む。
「実践で覚えろ」
「え? あの──」
黒枝くろえを強制発進させた。
ハヤカの悲鳴が聞こえるが、落ちないようにはしているので問題なし。おれは命懸けの訓練はさせません。
「正面の矢印に従いちゃんと店にいけよ」
「──そんなぁー!?」
ハヤカの通信を切り、
スムーズに発進させて離水。敷地内の様子を眺める。
敷地外にいくつかの魔物の反応があるが、警備ドローンが反応するような脅威はない。はぐれか偵察の類いだろう。
「……しかし、休みなしに作ってんな……」
オン商会もゼルフィング商会も最果ての地まで轟く商会とは言え、十日以上連続稼働とか狂ってるとしか言い様がない。
「まさに湯水が如し、だな」
このちっぽけな島しか知らないが、この世は広いと痛感させられる。一商会の一支部長が一都市を電力を賄えるくらいのエネルギーを注ぎ、まだ余裕なんだからよ……。
「ま、まあ、今は感謝しておこぼれをいただこう」
まだまだ魔力は欲しいのだから、上には上がいること素直に認め、ありがたく享受しよう。
「ゼルフィング商会に栄光あれ」
感謝の敬礼をして三賀町さんがまちへと飛んだ──が、すぐにハヤカが操る黒枝くろえに追いついてしまった。
「……うーん。さすがに無理だったか……」
アクロバティックな翔び方をする黒枝くろえにちょっと反省。すぐに基本的な情報を送った。
まあ、少しマシになったので後は一人で店に向かってくれ。おれは先にいきますんで。
借りた土地──名前もないの不便なので空港と呼称するとして、こちらも順調に均しが行われていた。
「いつでも輸送機が送られてきても大丈夫だな」
まだセスナが離着陸できる程度のものだが、あと数日もしたら地方空港くらいにはなるだろう。まあ、器だけ、だがよ。
一回旋回してから
役場にいくなら港からのほうが近く、おれが来たことを示すためには役場上空を飛んだほうがいいと思ったからだ。
前世の記憶があると役場と聞いたらショボく感じるが、今生の感覚では立ち寄りがたい場所であり、高級な感じがあるところであった。
役場は二階建てだが広さは結構あり、四十以上の米倉、馬場、家畜場、畑、町長の私邸と、立て込もってもしばらく生きられるようになっているのだ。
「広いとは知っていたが、空から見るとそれ以上だな」
町の中心部、にあるわけではないので一周とかしたことはない。役場(と言っても建物はいくつかある)自体から広さを想像しただけだったからな。
港に目を向けると、海竜騒ぎがウソのように活気づいていた。
米は税であり、国に納めるものだが、全国からいっきに都へと運んでも収める場所もなく、捌くこともできないので、何十回と分けて都へと運ぶ必要があるのだ。
それに、すべてがすべて国に納めるわけではなく、市場にも流したりするので、冬以外、港は活気があるのだ。
「ほんと、無法地帯だな」
借りているはずの桟橋まで船が留めれているとか、管理役人、仕事しろと言いたいぜ。
「しょうがない。管理事務所の前に降ろすか」
仕事をしない管理役人が悪いと、真ん前、はさすがに顰蹙ものなので、入り口からずらして着地させた。
「おい、邪魔だ!」
事務所から出て来た役人に怒鳴らるが、知るか! とばかりに受け止めてから道に放り投げた。どうせ嫌がらせで桟橋を使わせているんだろうから、その意趣返しだ。
「おい! 聞いているのか!」
「邪魔なら横にずらしておいてくれ」
まあ、できるものなら、だけどよ。
怒鳴る役人にニヤリと笑い、役場へと向かった。
港から役場まで二百メートルとちょっとだが、役場前は役人町。役人の家が多いので、スムーズに到着できた。
大手門から中へと入り、役場前で立ち止まる。
三賀町さんがまちは大都市なので役場を訪れる者は多く、役人も多い。そして、受付も多い。
許可や申請で何度か訪れはしたが、名をもらう受付なんてあるのか、町長への面会方法とか、まったくわからん。ましてやお役所仕事って言葉はこちらにもある。後、たらい回しも、な。
「副次官殿がどこまで段取りしてるかわからんが、気長にやるか」
休暇と思ってな。
ため息一つ吐いて役場へと突入した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます