第135話 新しい我が家

 久しぶりの我が家は様変わりしていた。


「……あばら小屋だったのがウソのようだぜ……」


 面影どころか存在してたかもわからないほどに変わり過ぎて、夢でも見てたんじゃないかと思うくらいだ。


 元住んでいた場所は平地になり、ハルマの基地兼第二発着場として使われている。


 家は花崎はなざき湖の奥に移され、山の斜面を利用して日本家武家屋敷風な建築となっている。


 元の位置から三キロは離れてしまい、街道からも大分離れてしまったが、花崎湖はなざきこ周辺はもう望月もちづき家の所有地(と勝手に宣言。文句があるならかかって来いや! である)。道は舗装され、移動は万能車を走らせるので問題はないはずだ。


 倉庫群も家──いや、もう屋敷ってレベルか。部屋数だけで三十はあり、大中小の広間に大浴場二つ。四人用シャワールーム三つ。トイレは八つ。玄関と最上階にラウンジ。ランドリールームが二つ。その他諸々と、ホテルか! と突っ込みたい造りとなってしまった。


 なぜにそんなにした!? とか問われたら答えよう。力を示すために必要だとハハルに言われたからです……。


 花崎はなざき湖にも威嚇するために武装した哨戒機が四機、浮かべられていた。


 ……今は人材不足のため、自動で湖を走らせてます……。


 屋敷の前にも輸送機を発着できる広さはあるが、ハハルが花崎はなざき湖に降ろしたので、おれもそれに習った。


 滑るように光月こうづきを着水させ、朝日二号の後ろにつけた。


「お帰りなさいませ、旦那様」


 出るとミルテが迎えてくれた。


 通信はしてたが、こうして顔を見ると帰って来たと実感し、自然と笑みが溢れてしまった。


「ただいま、ミルテ」


 抱き締めてキス──とか、前世でも今生でもやったことないんで無理。人前でなんか超無理。なので夜に示すので許してください。


「家を守ってくれてありがとうな。大変だっただろう」


 昨日まで農婦だったミルテには苦労しかなかったはずだ。


「いえ。ハハルさんが仕切ってくれ、タマエとサマアがあたしを支え、立ててくれますから」


 ミルテが目を向ける先に、五十代の世話婆せわば風の女と四十代の肝っ玉母さん風の女がいた。


 プロフィールを見ると、五十代のタマエは、別の花屋で世話婆せわばをしていたが、二年前に病気となり引退しており、華絵はなえ屋の世話婆せわばの口利きで雇い入れた。


 もちろん、病気は万能薬で全快。世話婆せわばとしての経験と人を纏める才を買って女中長として、家で働く女たちを仕切ってもらっているとか。


 四十代のサマアは、商家で女中として長年働いていたが、代が変わったことで首になり、口利き屋の紹介で雇い入れた。


 こちらは亭主がいたが子はなく、雑女中な感じで働いていたので、ミルテの相談役兼補佐にしたそうだ。


「サマアはともかくとして、タマエはよく承諾したものだ」


 世話婆せわばまで登り詰めたならプライドもあるだろうし、二十も下の女を立てるなど我慢できんだろうによ。


「それは、旦那様とハハルさんのお陰ですよ」


 おれとハハルのお陰?


「町での暮らしは知りませんが、五十の女がコネもなく働くのは大変です。働けず、物乞いで日々の糧を得るのが精々です」


 確かに。おれもそんな女を見たことがある。冷たくなった姿で……。


「病気を治してもらうばかりか、健康な体と仕事場を与えてもらえたのなら追い出されないようにするものです」


 そうしなければ生きていけないとは言え、女は逞しいものだ。いや、男も逞しくなくちゃ生きられんがよ。


「そうか。なら、おれも見捨てられんように頑張らんとな」


「旦那様は頑張り過ぎです。体を壊さないと知っていても心配です」


 なんて怒られてしまった。


 なんともくすぐったく、照れてしまうが、怒ってもらえるのが嬉しかった。


「ああ。ほどよく頑張るよ」


 ゆっくりとか、そうするよとか、下手なフラグは命取り。目標と見てれば無茶なことにはなるまい。


 ……いや、それがもうフラグか……?


「父さん、いちゃつくのは夜にして。皆も困ってるでしょう」


 と、ハハルの指摘に周りを見たら、皆さん、サッと視線をズラした。うん、なんのラブストーリーだよ! ですね。失敬!


「悪い。後は任せる」


 誰にかは知らんけど。


「タマエさん。よろしく」


「はい。お任せください。あなたたち、こちらに」


 ハハルが答え、タマエに振った。


 まあ、まだもちづき月家の仕来たりもなにもできてない今はしょうがないか。そう言うのは少しずつ築いていくものだしな。


 女たちがどこかへと連れていかれる。


「さすがに連れて来すぎたか?」


 管理や教育、指示出しとか、タマエ一人に任せるのは無茶じゃね?


「大丈夫よ。別に客が来るわけじゃないし、仮に来たとしてもハルマのところで対応できるわ。街道からの道も村からの道もハルマのところに続くようになってるしね」


「ハルマが相手するのか?」


「ううん。一応、元傭兵だった者を三人と客を世話する女中を五人置いたけど、客の見極めはオン爺に任せたわ。重要なら本家に連絡を。それほどでもなければハルマのところに。新規ならオン爺のところで。不都合が出たら変えていけばいいわ」


 ハハルに抜かりなし。頼もしすぎてひれ伏しそうだよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る