第134話 コズカ

 入った場所は従業員の玄関のようで、棚に靴が並べられていた。


「結構いるんだな」


 ハハルの主義なのか、履き物は革風のブーツで色はバラバラ。個人の好みに合わせて作っているようだ。


「男はこう言うところに意識が回らんから助かるよ」


 女のことは女に任せるのが一番。但し、自分の女は他人任せにするなよ。それは崩壊への一歩だぜ。


 オレのブーツは万能変身能力なので脱ぐのではなく、一部解除な感じなので上がると同時にブーツはなくなるのだ。


 裏は従業員区画的なようで、できて数日なのに生活感が出ていた。


「女だけだと家の香りも違うものだ」


 人を惑わすような花町の香りとは違い、柔らかで健康的な香りがするな。


「タカオサ様。いらっしゃいませ」


「いらっしゃいませ」


 店に出ると、なにか商品を並べていた女たちに挨拶された。


 こちらは売られた娘がほとんどで、三十代の女が二人いた。


「ご苦労さん。ハハルはどうした?」


「三階にいます」


 三階? なんでそんなところに? なにしてんだ? 疑問に思いながら三階へといってみる。


 二階は従業員宿舎な感じで、三階は事務所的なところだった。


 事務机や事務椅子は端っこに集められ、一抱えはある段ボール箱が山積みされていた。


「あ、父さん」


 と、なにかベランダ的なところからハハルが現れた。


「輸送機の発着所を作ってみたから、ちょっと見てよ」


 よくわからんが、見てと言うなら見せてもらうまで。


 ベランダ的な、と思ったら、ヘリポート的な感じになっていた。


「裏に輸送機を降ろすには狭いから三階に作ったの」


「まあ、確かに裏に降ろすには狭いか。ここなら周りは平屋作りだから降りやすいな」


 輸送機は静かなものだし、ジェット噴射で飛んでいるわけでもない。魔力を循環させれは長時間浮いてられるから土台や柱はそれほど頑丈でなくても維持できる。


 仮に重量があったとしても魔力で土台やら柱を強化できるので、大した問題ではない。ただまあ、目立ちはするだろうがよ。


「いいんじゃないか。ここなら楽に発着できるし。あ、でも、荷の積み降ろしは面倒じゃないか?」


「面倒だから人を雇うんだし、働きの場をなくしてどうするのよ」


 ハイ、ご高説ごもっとも。魔力を惜しんで人を惜しむな、です。


「残るのは何人になるんだ?」


「まずは十二人。残り十七人は家に連れてってミルテさんとハルミにつけるわ」


「ミルテはわかるが、ハルミにはまだ早いんじゃないか?」


 しっかり者で賢い子ではあるが、ハルミは十二歳。仕切らせるにはまだ未熟だろう。しかも、年上の娘をつけるなんて反発を生まないだろう。


「ちゃんと人は選んでるから大丈夫よ」


 さようですか。もうお前に支配されたいよ。


「そう言えば、アイリたちはどうした?」


 あの存在感はなかなか消せるものではない。それがまったく感じないんだが?


「先にいかせたわ。しばらくは玉緒たまおさんの配下が出番ってくれるから」


 はぁ? 玉緒たまおさんが!? なんでだよ? そんなことするタイプじゃないだろう! 仮にそうだとしても世話婆せわばが許さんぞ。あの守銭奴は!


「万能薬は玉緒たまおさんにも効くし、長寿薬でもあるからね」


 ハハルがコソッと教えてくれたところによると、玉緒たまおさんは高血圧で塩辛いものが食べられず、世話婆せわばは年齢による衰え。それを治す万能薬が切れるこを恐れているらしい。


 ってか、それがなんでハハルに向くんだよ? 普通、作り出しているおれに向くだろう。いや、すべてをハハルに押しつけてるおれのセリフじゃないがよ……。


 発着所に出て周りを見たら、若いもんが要所要所に立ち、宿無しにふんした者がいた。


「厳重だな、おい」


 華絵はなえ屋の若いもんは、下手な傭兵より腕っぷしがいい。町の者ではまず勝てないだろうよ。


「だが、一晩立ってるのも大変だろう」


 夜は兵士が見回りに出る。いくら裏の実力者だからって町と面と向かってケンカはしない。領分ってものをどちらも大切にするからな。


「あの人たちがいるのは戸を閉めるまでだよ。閉めたら難攻不落になるからね」


 ま、まあ、極大魔法ですら吸収し、山梔子くちなしの艦砲攻撃にも耐えられる。地盤も硬化させてるから掘っても来れない。塀を飛び越えても警備ドローンが配置されている。まず侵入できるヤツはいないだろう。


 ってか、中のほうが厳重でしたよ! 誰相手にしてんだって話だな!


「備えてダメなことはないし、改善が見えたらどんどん強化していけ」


「まあ、問題は昼間、開いてる時間帯はやってみないとわからないわね。見た目で判断できないことあるし、店からまったく出ないってわけにはいかないからね」


 自給自足はできても隣近所との付き合いはできない。商売で孤独はあり得ないからな。


「それはアイリたちと協議してくれ。おれは家のことに集中したいからよ」


「こっちは任せて。まだやることあるしね」


 お手数おかけします。


「運ぶのが十七人となると朝日三号だけでは足りないな」


 乗せるだけなら二十人までは可能だが、荷物も考えたら十人ずつに分けたほうがいいだろう。


光月こうづきを出すから十人選んで先にいっててくれ」


 遠隔操作できるんで、わざわざ取りにいかなくても大丈夫なんですよ。


「わかった」


 ハハルの迅速な判断と決断で人選が決められ、十分もしないて我が家へと出発した。


 港からだから二分もかからないため、上空で待機させていた光月こうづきを発着所に着地させる。


 女たちを乗せ、店を仕切ると言う、なかなか肝がすわった感じの四十代の女、コズカに後を託した。


「お任せください」


 うんと頷き、操縦席に座り、久しぶりの我が家へと出発した。

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