第133話 約束
水上バイクで港に向かう。
って言うか、水上バイクで行き来する距離なの? とか突っ込まれそうだが、水上バイクは魔力消費が少ないんです。それに、気分転換にもなるんです。
水上を百十キロで走る爽快さ。いやまあ、万能スーツを纏ってなけりゃ阿鼻叫喚だろうが、纏っていればマリーンスポーツを楽しんでいるようなもの。超気持ちいい、だ。
荒波でわざとジャンプさせたり水上バイクを回転させたりと、万能万歳とばかりにアクロバティックを披露する。
いや誰にだよ! とか乗り突っ込みをしてたら港に到着してしまった。
先ほど出たときのように港は活気づき、どこに仕舞ってたのかわからんが、荷船が何十隻と港に浮かべられていた。
借りていた桟橋にも荷船が留められている。
「無法だな」
光月こうづきと
「揺らすんじゃねぇ!」
とか罵倒が飛んで来るが、そんなもの知らんとばかりに荷船の間を進み、一旦、頭から海中へと沈み、アクセルを吹かして海上へと飛び出した。
その先には荷台を開けたイズキがあり、水上バイクを万能空間に仕舞った。
ふわりと荷台に着地し、運転席に乗り込んだ。
後ろから飛んで来る罵声に窓から腕を出して応え、店へと向かった。
道にも人はいて活気づいてはいたが、荷馬車の後に続き、道一本ずれたらスムーズに進み、海竜退治の前報酬でもらった店へと到着する。
商業区から外れたところで、中小規模の商店があるところ。その中でも大きいところをいただいた──のだが、数十年前に潰れ、廃墟も同然どころか半崩れを起こしていた。
「さすがハハル。いい仕事をする」
万能さんにかかれば解体も建築も難しくないとは言え、建物センスは作る者次第。と言うか、ハハルはそう言うセンスまであるのか。お前はなにをやらせても天才だよ、まったく……。
いい感じの四階建ての旅籠風になり、前世なら顔のデカいババアが経営していそうだ。
……追及しちゃイヤン。そんなイメージってだけだから……。
場違いな物が建って、場違いな雰囲気を出してはいるが、一年も見ていたら気にもならなくなるだろう。それまでは笑って誤魔化せ、だ。
大きいところだったので、裏から入れるようにしてあるのでそちらに移動すると、防火シャッターが閉められていた。
「場違いどころか違和感全開だな」
自重とかまるで考えてない。いやまあ、自重とか考えたことないけどね!
万能素材で作られているのなら改造などお茶の子さいさい。あらよってな感じで自動開閉ボタンをイズキに作り、防火シャッターと連動させた。
隣近所に配慮して開閉は消音にしたので、内側にいた二十歳くらいの女が突然開いたことにビックリして固まっていた。
「ハハル。今着いた」
ビックリする女に構わず中へと入り、ハハルに連絡を入れた。
「わかった。まだ車庫は作ってないから適当に停めて」
「了解」
邪魔にならないよう端に停めた。
このイズキはここで使うし、従業員にも運転してもらうのでシミュレーターの役割も追加しておくか。
イズキから出ると、なにやら二十歳過ぎの女たちが集まっていた。どっから集めて来た?
「おれはタカオサ。ハハルの父親だ」
ハハルがどこまでおれのこと語っているか知らんが、初対面なので名乗っておいた。
着ているものが万能素材から生まれたもので、食事が改善されてふくよかになったから、前職業をうかがうことはできない。が、この三十の者が集められたと言うなら元蝶々。もしくは、野生の蝶々だった者たちだろう。
「ありがとうございます!」
と、女たちが一斉に頭を下げた。
なんやねん! とは突っ込めないし、こうなるのも理解できるので、冷静に受け止めた。
町の蝶々なら四十近くまで生きられるだろうが、町の外の蝶々は二十まで生きられない。野垂れ死ぬと聞いたことがある。
だが、こうして生きているとなると、誰かが援助していたか仕切っていたかだろう。
まあ、この町でそんなことができるのはあの二人しかいないんだかな。
ハハルはあの二人を優しいと言うが、おれはそうは思わない。いや、気のいいところはあるし、飲み友達としてはおもしろい。だが、人助けをするような殊勝な心があるとは思えない。なにか理由があってやっていると、おれは見ている。
まあ、あの二人の思惑はあの二人だけのものなので、おれには関係ないこと。譲ってくれると言うのならありがたくもらうだけだ。
「以前がなんであれ、しっかり働く者には金も食事も出す。綺麗な服や住む場所も与える。家臣としてお前たちを守る。望月もちづきタカオサが約束する。励め」
そう言って女たちの間を通り抜け、裏口らしきところから店へと入った。
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