第131話 人だよ!

 そろそろ町にいこうかとしたとき、ハハルから通信が入った。


「父さん。町役人が来て、明日役場に来いって」


「わかった」


 時計は大陸から入って来てるものの、時間が受け入れられてはいず、役場とは言え、大体でやっている。


 前世の記憶があるだけにイラッとはするが、言っても無駄なので簡素に答えた。


「今から店にいくが、改造は進んでいるか?」


 万能さんがやってくれるとは言え、ハハルのセンスや他の者の好みがあるだろうから、そうスムーズに改造はされてないだろう。


「セーフルームは作ったけど、店の改造に手間取ってるかな? 一応、店としての形を整えないと近所から怪しまれるからね」


 言われてみればそうか。


 おれ的には事務所として使おうとしたが、そこは商業区。なにもしないでは目立つだけか。


 ……まあ、やっても目立つような気はするがな……。


「その辺はハハルの判断でやってくれ。じゅあ、今からいくよ」


 と通信を切って思い出す。光月こうづき、港に繋いだままだったことに。


「カナハ。悪いが、アイリたちを町まで運んでくれ。降ろしたら家に帰っていいぞ」


 久しぶりの帰宅だ。早く帰って風呂で汗を流せ。


 ……うちの風呂は体によい効能とゆったりできる広さがあるんですぜ……。


「あたしは、もっと紅桜べにさくらを扱いたい」


「お前は魔法士なんだから戦艦での戦いは二の次三の次だ」


 いや、魔法戦士どころか万能戦士に導いているおれのセリフじゃないけどな!


「それに、魔術士の戦いを教えたい」


 陽炎団で魔術士をしていたモナカを見る。


 モナカって、もうちょっと名前なんとかならんかったのか? って思いはサラリと流し、カナハに視線を戻す。


「お前もアイリたちに混ざり、魔術や傭兵の戦いを学べ。アイリ、モナカ、こいつを鍛えてやってくれ」


「スーツなしで、ならな。マギスーツを着たカナハ様には勝てるどころか相手にもならないからな」


「魔術、いらないくらいの火力ですからね」


 ま、まあ、そうだわな。細かい技術を無視してパワーで押し切ってんだからよ。


「なら、マギスーツは封印して、見習いの装備にするか。一度は生死の境を見せないと強くなれんしな」


 安全な鎧を纏っていたら命の重さを知らないで育つ。それはいつかカナハの弱点になる。死と身近にいる者はマジで厄介だからよ。


「娘にも容赦なしだな」


「リサさんもそうだったろう。おれは、あの鬼との訓練で二十回以上は死と言うものを学ばされたぞ」


 腕はともかく、精神はバカみたいに強くなったよ。


「母さんも同じこと言ってたよ。タカオサ様のえげつない攻撃で何十回と殺されたとな」


 訓練とは言え、あの鬼とまともにやろうなんて自殺行為。殺す気で当たらないとこちらが殺されたてたわ。容赦しねーんだもん、あの人って……。


「アイリさん、父さんって強いの? いろいろ教わっていたけど、父さんが本気で戦ってるとこ見たことないからどれだけ強いか知らないんだ」


 そりゃ、子ども相手に本気は出せんし、戦いには連れ出せない。見せる機会など皆無だ。


「そうだな。強いと言えば強いし、弱いと言えば弱いな」


 アイリの言い様に首を傾げるカナハ。まあ、そうだろうな。


「タカオサ様の戦いを一言で語るならえげつないだ」


「不破での戦いは、団長ですらドン引きしましたからね」


「戦いもそうだが、終わってからの拷問は山賊に同情したな。あたしなら舌噛んで死ぬね」


 それ以上は止めなさい。情操教育に悪いから……。


「不破ふわの不知火しらぬいに作戦を立てられたら、どんな一流どころの傭兵団でも勝てないだろうな。それは、魔物でも同じだ。作戦が本当にえげつない」


 それはおれが弱いから。力では勝てないから知恵を絞ったまでである。


「事前に知っている訓練でも強いな。至るところに罠を仕掛け、えげつない道具を仕込んでいる。しかも、タカオサ様は逃げ──いや、回避術が神がかっている。森で戦いをしたらあたしらが何人いても勝てないだろうね」


 小さい頃から森に入り、黒走りや鬼猿から逃れながら食料を探して来たのだ、気配を出し、物音を立てる相手なら百人いても勝てる自信はあるな。


「条件をつけて相手したら勝てる?」


「その条件をつけさせるのが一苦労だな。タカオサ様は、生死がかかわらなければ負けることも厭わない。恥とも思わない。それで勝っても嬉しくあるまい」


「……父さん、ズルい……」


「そうだ。だから、こうして生きている。カナハ様。世の中には人知では量れない力と言うものがあります。そして、敵にしてはならない相手がいます。その見極めができないと死にますよ」


 なんだろう。傭兵の教育としては正しいのだが、おれがただ、貶められているだけのような気がするんですけど。


 アイリの言葉をどう解釈したかはわからんが、カナハは深く頷いた。


「父さんを見習う」


 そうカナハが決断すると、アイリがテーブルを強く叩いた。


「それは絶対に止めろ! 人として大切なものを失うぞ!」


「そうよ、止めなさい!」


「人のまま強くなれ!」


「バケモノになってはダメよ!」


 え? はい? えぇぇぇぇッ!? おれ、人として大切なもの捨てないよ!!


 つーか、その言葉におれの心が失われそうだよ!

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