第130話 おれが守る
食事が終わり、アイリたちに町で仕入れた
「これは、一等級か?」
久見茶には等級があり、一番下の五等級から一番上の特級がある。
一般人が飲むのは四等級。村に回って来るのは五等級だろうか? 底辺だったおれには滅多に回ってこないものだ。
「いや、捨てるのを安く買って改めて淹れたものだ」
万能さんに乾杯だ。
「食堂や休憩所には大陸産のお茶や飲み物を用意しておくから自由に飲んでくれ。服や下着類は支給するが、休みに着るような服は給金から買えな。後、酒もな」
その辺はハハルにお任せ。男が口出すのもなんだしな。
「これから三賀町に作った拠点に向かうが、朝から夜まで護衛に一人ついてもらう。五日護衛について二日休みを与え、次の者に引き継ぐ」
そのシフトもハハルにお任せ。女にはいろいろあるからな。
「そんなんでは仕事にならないだろう」
傭兵にも休みはあるが、それは仕事が入らないだけで、連続で仕事が入れば三月くらい休みなしってときもある。
前世のおれはなんてブラックなんだとおののくが、今生のおれはアイリと同じ思いだった。
二つの思いが入り乱れるが、基本、前世の感覚で考え、今生の記憶で善し悪しや今にあったことかを判断し、決断している。
「別に強大な敵と戦っているわけでもなければ急いでいるわけじゃない。それに、今の装備と支援なら二人一組でも鬼猿が大群で襲って来ても怖くはあるまい?」
アイリたちに与えたマギスーツはバトルスーツでもあり、身体機能は八倍まで高めており生命維持機能があるので魔力が続く限りは休みなく戦い続けられる。
それに、支援ドローンを一人五機つけているので死角はなく、武装もさせているから一人でも
さらに武器も
これで負ける相手がいたらカナハの出番。ダメならおれの出番。おれが家族の脅威を排除するまでだ。
「まあ、確かにそうだな。このスーツをもらってから体が調子いいし、肌艶もなんだか十代の頃に戻ったかのようだ」
それは生命維持機能のお陰と食生活が変わったから。ただ、万能さんが変なスイッチを押してないかはわかりませんです。
「ああ。今なら
牙王とは赤茶の熊で三割ほど狼が混ざってんじゃね? って感じの魔物で、二つ名を持つヤツでも苦戦する凶悪な魔物だ。
……おれは辛味玉を顔をぶつけ、ケツの穴に槍を突っ込んで倒しました。仲間からドン引きされましたが後悔はありません……。
「すまないが、しばらくは黒走りや鬼猿相手にすると思う」
うちのバカ犬が近隣の魔物を粗方狩っちゃいまして、弱小なのしか残ってないのです。
「まあ、そんな魔物は早々狩らないしな」
「いたら騒動になってるよ」
「そうだな」
アハハと笑うアイリたち。だが、おれは笑えない。あのバカ犬が四十匹以上の牙王の群れを狩ったことを知っているから。それも家から二十キロと言う近場でな……。
「二人一組で家の回りの魔物を駆除。娘たちが来たら選別。したら各組みに入れて訓練。家や各所の護衛、だな」
そうは言ってもすぐにはできないし、問題もあろうからちょっとずつやっていくしかないか。
「それと、もし、アイリが望むなら陽炎を家名とし、他の者も一族とすることができるが、どうする?」
アイリたちは望月家右軍として括るとなると陽炎の名は出て来ないし、
陽炎は傭兵団としての名だが、アイリたちにとっては家族の名だ。思い入れはあるだろうし、残したいとも思うはずだ。
「家名って、そんなことできるのか?」
「できる。それだけの金はあるからな」
おれに取って金はそれほど価値があるものではない。給金に必要だから欲しいまでだ。あ、いや、でも、魔石を買うために必要か?
「今なら町長との繋がりもある。多少、面倒ごとを押しつけられるかもしれないが、今のおれなら許容内だ」
家名代(?)を考えたら安く済むし、手続きもやってもらえる。多少の面倒ごとならウェルカムだ。
「まあ、急いで決めることもない。皆で話し合え。家族なんだからよ」
そもそも、望月の家名も正式には得ていない。それからでも構わないだろうさ。
「いえ、いりません!」
と、副官的立場のサネが断って来た。
「サネ!?」
アイリは驚くが、他の連中はサネの言葉に肯定的な顔をしていた。
「タカオサ様のお心はありがたいです。ですが、陽炎は解散しました。望月家の家臣と扱ってください」
他の連中もそれでいいと頷く。
なにか考えがあってのことだろうとはわかるが、おれとしては陽炎の名は蔑ろにはしたくない。陽炎と言う名の由来をリサさんから聞いているからな。
陽炎とは気象現象のことではなく、太陽のように輝けと言う意味で名付けたそうだ。売られる娘たちに笑って欲しいと願って。
たぶん、そのことはアイリたちは知らないだろう。育てた娘を多く亡くしたとき、懺悔するようにおれだけに語ったのだからな。
「……タカオサ様。陽炎の名は捨て、望月家の家臣として仕えさせてください」
アイリは、まるで苦渋の決断をしたような顔で言った。
「わかった」
とだけ答える。
アイリたちの決断を尊重して、今後は陽炎の名は使わない。が、リサさんの願いはおれが継ぐ。そして、誓う。
こいつらの笑顔はおれが守ると。
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