第128話 理解できない

 二艦が戻って来る前に、港……と言うほど立派なものではないが、収められるくらいのものは造っておかないとな。


「魔法でちょちょいのちょいでできたら楽なんだがな」


 いや、やろうと思えばちょちょいのちょいだが、魔力は膨大どころか今まで貯めた魔力が空になる。


 万能さん、なんでもできるが、効率とか燃費とか完全無欠に無視。魔力第一主義だとばかりに魔力を要求してくるのだ。


「人力が一番生産性がいいとか、神はおれが憎いのか?」


 スコップで穴を掘り、土を退け、万能スーツを通して岸壁を作る。


「で、消費した魔力は200と来たもんだ」


 使用した時間は一時間。効率が良いのか悪いのか、わかんねーな、畜生め!


「父さん、入れていいの?」


 モヤモヤ気持ちを押さえ込んでいると、カナハから通信が入った。


 見れば山梔子くちなし紅桜べにさくらがすぐそこにいた。


「あ、ああ。そのまま入れ」


 戦艦ながら小回りは利くし、うるさいルールもない。カナハなら前進でも後退でも十秒で港を出て即戦闘できるだろうよ。


 ……まあ、そんな無茶をする日は来ないでくれと願うがな……。


 ゆっくりと港に入って来る紅桜べにさくらの横からマーメイドスーツを纏ったアイリたちが海から飛び出し、青いマギスーツに変えて岸壁の上に着地した。


 ……この短期間ですっかり使いこなしてんな……。


 万能さんによりスイッチが入ったことにより、能力だけではなく性格も変わり、誰もが自信に満ちた顔をしていた。


「お疲れさん。紅桜べにさくらでシャワーを浴びて来い。今後の話をする」


「わかった」


 六時間ほど訓練してたのに、まったく疲れを感じさせず接岸させた紅桜べにさくらへと向かっていく七人。全盛期の陽炎団を見ているかのようである。


「とは言え、七人では少なすぎるな……」


 傭兵団としても活動するならギリギリの数だが、実働部隊としては少なすぎる。


 それに、家や店、この島の護衛もしなくちゃならない。とてもじゃないが、七人では回せない。


「最低でも島に十人。店に六人。家は二十人は欲しいよな~」


 山梔子くちなしの乗員だってもっと増やしたいし、送迎や輸送隊も作りたい。考えれば考えるほどあれもこれもと欲しくなるぜ。


「広げ過ぎたな」


 そうせざるを得ない状況だったとは言え、もっと考えて動くべきだった──と思うだけ時間の無駄。この状況を打開する方法を考えろ、だ。


「ハハル。どうしよう?」


 ハイ、娘頼りのおれですが、なにか?


「警備を厚くして、十秒でカナハを向かわせるようにしたらいいんじゃない」


 と、通信したらそんなこと言われて通信を切られた。


「ハハル、お前は天才か!?」


 賢いとは思っていたが、おれの想像を超えた以上に賢かった。


 なるほどなるほど。カナハ一人なら瞬間移動させる魔力は……300か。意外と少ないんだな。まあ、さすがに寝ている時間もあるだろうからカナハ一人に任せることはしないが、交代でアイリたちにもさせたらいいだけのことだ。


 島はしばらく無人にして、乗員は山梔子くちなしでの寝泊まりをしてもらおう。休暇のときは完全密封にして出ればいい。そう簡単には侵入されることもないな。


「されたらされたで魔力を吸い取ってやればいいさ」


 うちのもんに手出したアホに容赦はしねーぜ。


「そうなれば店も開いてる時間だけ常駐させて、夜は戸締まりをしっかりさせて、セーフルームを作ればいいか」


 家の改造ならそれほど魔力は消費しないし、そこまですれば店を預かる者も安心だろうよ。


「ハハルのアドバイスはほんと助かるぜ」


 そこからアイデアが出るわ出るわ、おれも覚醒スイッチ、入っちゃったか?


 店の防犯計画をハハルに送り、店の改造をしてもらう。頼むぜ。


「……あたし、父さんのそう言うところが理解できないよ……」


 なんか呆れた声で言われた!

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