第127話 変な船

 無人島──改め、月島つきしまと命名。望月家所有とする。


 なんて宣言するも誰も聞いちゃいない。


 と言うか、宣言したところで「なに言ってんだこいつは?」ってな目で見られてお仕舞い。それは国に言っても同じことだろう。なにか資源があるならまだしも人の住めない島など興味など持たない。


 ましてや、この島はさほど広くもなく、雑木が生えるだけ。水の確保もできないのだから所有権を主張したところで「勝手にしろ」と言われるだけだろうよ。


「そもそも陸から四十キロも離れたら別世界だわな」


 海竜が住み着いたせいで今は静かだが、凶悪な生命体が跋扈するファンタジーの海。ただの船で航海など自殺行為だ。魔道船ですら襲われるのだから。


「島をなんとかする前に海竜をなんとかせんとな」


 月島つきしまの砂浜に集めた海竜の死体。万能コーティングで腐ることはないが、維持には魔力がかかる。


 輸送機工場からと海竜の魔力でしばらくは持つが、今の状況では半年持つか不安になる。


 と、沖合いに目を向けた。


 山梔子くちなしは自動航行させ、この海域の情報を収集させている。


 もちろん、万能さん任せで、乗員はスヤスヤとシミュレーション中。たぶん、いくつもの試練を乗り越えているだろうよ。


 まあ、それは必要経費。必要だからと納得できるのだが、さらにその先で行われているド派手な訓練にため息が漏れてしまう。


 カナハとアイリたちは、と言うと、海竜の魔力で新たに作り出した山梔子くちなしと同型の戦艦──紅桜べにさくらとマーメイドスーツを纏うアイリたちが実戦さながらの訓練をしているのだ。


 なぜそうなったかと言えば、カナハの我が儘。山梔子くちなしでの戦いの記録映像を見せたら自分もやりたいとなったわけだ。


 別に戦艦での戦いなんて~とか言うだけ無駄なので、さっさと山梔子の同型艦を作り、カナハの色たる紅に染め上げ、紅桜べにさくらと命名して渡した。


 それを見たアイリたちも騒ぎ出し、お前ら地上戦要員だと説得するのも面倒なので、マーメイドスーツを渡し、軽いシミュレーションの後、カナハと対戦させたわけです。


 真剣に戦うアイリたちにため息が出るが、そうなる気持ちがわかるので好きにさせておく。


 アイリの代になり陽炎団は二流へと落ち、傭兵として辛酸をなめさせられ、悔しい思いで満ちているのだろう。


 それはわからないではないが、アイリたちの年齢と肉体では──なんて常識は明後日のほうにポイ。万能さんにかかれば死ぬ直前の老人すらスーパーヒーローに改造……ではなく鍛え上げられる。


 二流に落ちたとは言え、それはバケモノな傭兵と比べてのこと。一般人からしたらアイリたちもバケモノの域に入っている。


 それに、だ。傭兵として鍛え上げて来た時間や魔物との戦いで、戦闘能力、戦闘勘はカナハを凌駕する。


 ちょっとしたシミュレーションだけでマーメイドスーツの使い方を覚え、ちょっとした戦闘でものにしてしまい、今では紅桜べにさくらと対等に戦えていた。


「……万能さんは、変なスイッチを押すのが得意だよな……」


 まあ、押されたほうは喜んでいるからおれは構わんがよ。


「とは言え、ほどほどにしてくれよ。魔力は有限なんだからよ……」


 輸送機工場でアホみたいに消費される魔力で辛うじてプラスされてはいるが、戦艦の戦闘で消費される魔力もアホみたいに消費される。


 ミサイル一発作るのに魔力1200はかかるし、マーメイドスーツの魚雷も一発100はかかる。航行するのも毎秒50は魔力消費するのだ。


 まあ、それでプラスになるほど魔力を消費するサイレイトさんが一番アホなのだがな……。


「もう十二機か。うん? あれ? 六機がない?」


 生産された数は十二機なのは間違いないのだが、六機の反応がどこにもない。いや、存在は感じる。だが、万能さんが感じられる距離にはないのだ……。


「ゼルフィング商会だからな、なんかファンタジーな仕掛けがあるんだろうよ」


 あれだけ魔力を注げ、あんな城を出せるのだ、輸送機が消えたくらいで驚いてたら先が思いやられる。軽く流しておけ、だ。


「それよりもカナハたちだな。そろそろ止めさせんとマイナスになるわ」


 山梔子くちなし紅桜べにさくらには、自己修復機能に自動補給機能をつけたからどちらも容赦なくぶっ放ち、遠慮なくぶっ壊している。


「シミュレーションしろよ、頼むから」


 そのためのシミュレーションなのに、カナハもアイリも実戦派。マジでなければ身につかないタイプなのだから参るぜ。


 もう止めろと連絡しようとしたら、その前にカナハから通信が来た。


「父さん、変な船がいるよ」


 変な船? 魔道船か?


「映像は出せるか?」


 紅桜べにさくらのレーダー範囲は五十キロだが、容赦のない訓練をするので、他所様の船を巻き込まないよう広範囲に偵察ドローンを放っておいたのだ。


「うん。一機、近くまで飛ばした」


 空中にモニターを作り出し、偵察ドローンから送られてくる映像を見る。


「……確かに変な船だな……」


 見た目はガレー船っぽいのだが、海面から数メートル浮かび、何十と出ているオールは短く、まるで空気を掻くかのように漕いでいた。


 船の全長は四十メートルはあり、帆が一つ張られ、なかなかのスピードで航行していた。


「結構、高度な技術で造られた船だな」


 ファンタジー過ぎてどうなってるか想像はつかんが、こんなファンタジーな海を航行するんだから並みではあるまい。下手したら魔道船より高度かも知れないな。


「沖合い百キロは離れているところを高速で航行しているところを見ると、この国を目指しているわけじゃないな。大陸を目指しているのか?」


 海のことはまったくわからず、大陸があるとしか知識は持ってない。知らない国があり、知らない種族がいても不思議ではない。


 敵対するんじゃないのなら見て見ぬふりだ。別に交流したいわけじゃないんだしな。


「カナハ。その船は放っておいていい。それより訓練は終了だ。そろそろうちのこともしなくちゃならん。続きは落ち着いてからだ」


 山梔子くちなしの訓練もあるのだ、カナハばかりに魔力を使ってられない。地上戦も覚えてもらわなくちゃならんのだからな。


「わかった」


「アイリたちもだぞ。お前らは地上組なんだから」


「わかった。戻るよ」


 聞き分けがよくて嬉しいよ。


 通信を切り、ため息を吐く。


「魔物狩りして魔力を稼がんといかんな」


 望月島の改造で魔力を使うし、家の増築もしなくちゃならない。まだまた休まる日は遠いぜ……。

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