第126話 習うより慣れろ

 海竜を十匹、港に運び、町役人に海竜退治完遂の報を告げた。


 もちろん、海竜の数も報告し、必要とあれはま港に持って来ると告げたが、三十メートルはある海竜を全部持って来たら港は完全封鎖されたも同然。それは困ると断られてしまった。


 ならばと、町役人を山梔子くちなしに乗せ、無人島へと連れていき、海竜を見聞させ、海竜退治の完遂を了承してもらった。


 多少、無理矢理感はあるものの、町の依頼でやったこと。町に了承してもらわなければ一生終わらない。ましてや、町長を連れて来るわけにもいかないのだから町役人に頑張ってもらうしかない。


 後日、役場に来るようにと、まあ、なんとも曖昧なことを言って帰っていった。


 残務処理を終えてからと勝手に解釈させてもらい、海竜の買い手たる商人と対峙する。


 海竜の数が数なだけに一つの商会だけ、とはいかず、いくつもの商会が連合を組み、その窓口として六原ろくはら屋さんが受け持ったらしい。


「達成するとは思いましたが、まさかこんな手段でと夢にも思いませんでしたよ」


 とは六原ろくはら屋のミゲルさんだ。


「でしょうな。予想できる者がいたら是非とも仲良くさせていただきたいものです」


 勝てない者とは仲良くするのが一番賢い選択だ。


「至言ですな。わたしも見習わせていただきます」


 大いに見習ってください。敵対するといろいろ面倒ですからね。


「海竜退治はこれにて終了させていただきます。海竜の支払いは後々で構いませんが、もし、資金不足になっらそのときは融通してもらえると助かります」


 人が増えたお陰で賃金に出せる銅銭が少なくなっている。


 無駄に金はあるから砂金で、とか考えたが、銅銭で生きている者に砂金など渡しても迷惑でしかない。あれは大きな買い物をするか、大きな支払いでしか役に立たないものだ。


 この国ではよく銅が出るので多く流通し、上手く回っているが、余分に出るようなことはない。


 流通を仕切っているだけあって、国は銭の流れもしっかり握っている。そのせいで銅銭を集めることはなかなか難しい。金は意外と手入れれやすいのにな。


「はい。いつでもお越しください。それで、これからタカオサ様はどちらに? 西町に用意した店はいかがなさいます?」


 あー町の店な。すっかり忘れてたわ。


「ちょっとお待ちください」


 と断り、通信具を出してハハルに繋ぐ。


 ピロリロン。ピロリロン。と、発信音をわざとつけた。ないと心構えができないのでな。


「──はい。なぁに、父さん?」


「今、大丈夫か?」


 これ、なんか懐かしいな。ってか、生まれ変わってもやるとは夢にも思わんかったわ。


「大丈夫だよ。今、玉緒たまおさんたちとおしゃべりしてるから」


 お前、そこまであの二人と仲良くなってんのかよ! 父さん、お前の交遊関係が心配でならないよ!


「あ、ああ、そうか。寛いでいるところすまないが、町の店に来てもらえるか? それと、店を維持管理できそうなヤツを三人くらい連れて来てもらえると助かる」


「商売するの?」


「いや、しばらくはしない。山梔子くちなしの乗員の拠点としてと連絡要員を置きたいだけだ」


 元商会なので店はそれなりに広く、イズキ二台は置ける広場もある。落ち着くまでは山梔子くちなしの事務所として使おう。


「……わかった。女の人だけにできないから陽炎かげろうから護衛を二人出してよ」


 言われてみれば確かに。名が知れた今は不必要なまでの防衛をしておくのがいいだろう。


「わかった。アイリと相談する」


「なら、夕方までにいけるようにするよ」


 今は昼前。あと数時間で用意できるのかと疑問に思うが、ハハルが言うのだからおれは肯定するまで。よろしくお願いします!


「頼む。おれも夕方までいくようにするからよ」


 その間に無人島の改造を進めておくか。山梔子くちなしの基地兼望月家の保養地とするために、な。


「別に護衛を用意してくれるだけでいいよ。あとはあたしがやっておくからさ。ってか、しばらく町で活動するから、あの娘たちに通信具を渡しておいてよ。ここから指示を出すからさ」


 すべてはハハルの思うがままに。と無条件で了承する。おれはお前が黒と言ったら白でも黒と思うよ。


 ……情けないと言うべからず。これは適材適所と言うんです……。


「了解。無理するなよ」


 と言うか、おれの常識内でお願いします。非常識とかマジ勘弁です。


「わかってる。あたし、忙しいの嫌だもの」


 お前の場合、処理能力が高くて人の四倍は働いていると思うのだが、まあ、それはハハルの常識。同じことをこちらに求めないのなら好きにしろ、だ。


 通信を切ると、ミゲルさんが目を丸くしておれを見ていた。


「タカオサ様。それは、いったい?」


「遠くの相手と連絡を取り合う魔道具ですよ」


 隠す気はないので正直に教えてやった。


「……それは、売っていただけるものなんでしょうか……?」


「まあ、欲しいと言うならお譲りすることはやぶさかではありませんが、これは望月もちづき家が管理しているもの。秘密ごとをしゃべるのには向いてませんよ」


 電話会社を興すなら守秘義務を設けたり公私混同は避けて信用第一でやるが、今はそんな気はない。通話はすべて記録され、必要なら盗聴でも盗撮でもしちゃいます。


 ……もちろん、閲覧記録は残しますし、おれ、ハハル、カナハの三人が揃わなければ見れないようにしてますから。本当ですから……。


「構いません。遠くにいる者とすぐに連絡が取り合えるだけで価値はあります。聞かれているのなら聞かれているなりに秘密に伝えることができますからな」


 暗号文は昔からあるものだし、大商人ならやれそうだな。まあ、万能さんにかかれば暗号解読も難しくはないがな!


「わかっていて了承するならこちらから言うことはありませんよ。で、いかほどお求めで? 一つ金銭八枚になりますが」


 ぼったくりにもほどがあるが、性能的にはそれでも安いだろう。なら、なぜ金銭八枚と安く設定したか。それは便利と知るから。連絡の取り合いで時間を取られるが嫌だからだ。


 いるかいないかわからないところに出向き、いなかったらまた次の日とか、前世の記憶があるだけに気が狂いそうになるわ。時間を浪費したくないわ。おれは忙しいんだよ!


 さらに忙しくなるんじゃね? とかは言っちゃ嫌。プライベートは通信拒否させていただきます。


「五──いえ、十はお譲りください!」


 慎重なのか大胆なのかわからん数だな。まずは試しかな?


「では十個、お渡ししますね」


 作るのは簡単なのですぐに十個渡し、取り扱いの説明をする。


「結構、難しいものですな」


 電話の概念すらない世界で、それだけわかれば十二分に凄いことですよ。


「あとは習うより慣れろ、です。頑張ってください」


 七日間のお試し期間を設けますのでいろいろやってみてくださいな。


「では、ご用がありましたらおれの番号にかけてください。忙しい場合は出れないので伝言なり残してください」


 ではと、水上バイクに乗り込み、無人島へと向かった。

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