第124話 根絶やし
「海竜を退治する」
朝、シミュレーションしていない者を食堂に集め宣言する。
もちろん、カナハもハハルもいる。
ってか、海竜退治は望月もちづき家の三人で行う。
「わたしたちは、見ているだけか?」
不満そうな声を上げるアイリ。そして、不満そうな仲間たち。まあ、その気持ちはわからなくはない。邪魔だと言われているようなものだしな。
だが、あえて言う。
「そうだ、見ていろ。これから望月家の片翼となるならな」
本来ならシミュレーションしているヤツらに見せたいのだが、終わるまでは待てないし、今回の戦いを最後に組み込めば見るより学べるだろう。
「ハハルは紅緒べにお操縦。カナハのサポートをしろ。カナハは海の中の海竜を殲滅。逃がすな」
なんてことを口にしなくても作戦は前に通達しており、その打ち合わせもしている。まあ、訓練はしてないがな。
「あたしに期待しないでよ」
「任せて。一匹も逃さない」
そう言ってハハルとカナハが食堂を出ていった。
「おれたちは第二艦橋にいくぞ」
アイリたちを連れて第二艦橋へと向かう。
艦橋──いや、第一艦橋と呼ぶべき場所は、謂わばダミー。お客が来たとき見せるためのところだ。ゴチャゴチャってしてたほうがなんかスゲーと思われるだろうって感じだ。
まあ、おれの趣味がほとんどだが、いかにもって感じが男心をくすぐる。男に見せるなら第一艦橋がいいだろうよ。
で、第二艦橋は未来的な感じに仕上げてある。
戦艦と言うより宇宙戦艦っぽく、戦艦の中央に作り、防御を厚くさせ、生存率を上げている。
「空いてる席に座れ」
と命じ、一番上にある館長席へと座る。
「……い、いいのか……?」
見知らぬ、と言うか、受け入れがたい状況に戸惑っているのだろう、小娘のようにオロオロしていた。
「構わない。すべての機能は切ってある。触ったところでなにも動かない。お前らは座っておれらの戦いを見ていろ」
お互い顔を見合せ、どうしようと語り合っていたが、傭兵の性か、もう一度「座れ」と強く命令するとすぐに座った。
アイリたちも戦闘強化スーツを纏わせたので、シートベルトではなく椅子がスーツと混ざり合い、体を固定させた。
「
言って進めと念じる。
艦長席の前にも左右にもボタンやレバーの類いはない。足下にもない。なぜか? それは山梔子くちなしが変身スーツみたいなものだからだ。
おれの万能変身能力は纏うものであり、なんにでも変身できる能力。だから輸送機にも変身できるし、イズキにも変身できる。家や倉庫でもなんにでもだ。
それならビールを持った万能スーツを纏えばビールは作れ、パンを持って纏えばパンが作られるってわけだ。
考えたおれ、賢い! とか思ったら記憶が蘇ったのは三十六歳になってから。しかも、無限の魔力はなしと来やがった。
だがまあ、今となってはよかったと思う。
生まれたときから記憶があり、万能変身能力は使えず、レベルアップもできない。絶望して早死にしてたかもしれない。いや、気持ち悪いと山に捨てれていただろうよ。
あちらの知識を持ったおれと今生を意地汚く生きたおれがいるから、バケモノ揃いのヤツらに対抗できるのだからな。
「
サイレイトさんが休みなく、アホなほど魔石を工場に注ぎ込んでくれるお陰で山梔子くちなしの建造から運用まで余裕でこなせる。
今なら某国の艦隊でも苦なく倒せるだろう。もちろん、戦闘機が出て来ようと潜水艦が出て来ようとな!
海里とかは使わない。面倒臭いから。時速でいかしてもらいます。
戦艦で百キロとか転覆する未来しか見えないだろうが、そこは万能さんが上手く調整してくれ、必要なら浮上もするし潜航もする。だって万能戦艦だもの!
「ハハル。目標地点まで三十キロ。
「了ー解!
艦尾から発進した
速度を落とし、
「残り二十キロ! 海竜に動きなし!」
魔力遮断し、ステルスモードで走行してるが、このファンタジーな海で生きている生命体の勘は神がかってる。
海中にいる一際大きい魔力が急速に高まり、こちらを見た。
まあ、見たと思うのはおれの勘でしかないが、おれはおれの勘を信じる。
「目標上空に到達。カナハ!」
このために作ったマーメイドスーツだ。
水の抵抗を極力なくし、人魚にも海竜に負けない速度で泳げ、同時に六発の小型魚雷を射出可能。魔力がある限り尽きることはなく、近接では吸魔槍で魔力を吸い取る。
将来はマーメイド隊を組織して海の魔物を狩りたいと思います。
「距離、十キロ! 主砲、発射!」
百ミリと口径は小さいが、別に戦艦に射ち込むわけでもなく、この世界の船ならそれで充分。海竜でも同じ。射つのは吸魔弾。突き刺さればいいのだからな。
「さあ、根絶やしだ!」
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