第122話 容赦ない父と娘
個人情報保護など概念すらない世界なので、結構えげつないことまで書かれている。が、雇い主として公表する気はないのでご安心ください。
……でも、知られたら怖いのでスリーサイズや病歴は消しておきましょう……。
簡素になったプロフィールを食堂のスクリーンに映す。
「アイリ以外で頭を張れそうなヤツはいたか?」
そうハハルに問う。
「あたしの考えでいいの?」
「決断と責任はおれが取る。判断材料をくれ」
おれよりハハルの目が正しい。おれのは抵抗するために仲間を集める目だ。ハハルのはそいつの性格を見抜いて隠れる目だ。
誰が強者で誰に隠れればいいかを見抜いて来た目はこれってないくらい超絶な情報である。
「四番のサナエさんかな?」
プロフィールを大きくさせる。
「剣士型で
見た目からして強さでナンバー2って感じだな。背中を預けるにはいいが、集団を任せたら突撃して全滅させそうだ。
「
単純な思考で逆境に強く、味方の士気を上げるためにいるようなもの。まあ、ムードメーカーだな。
「沈着冷静で状況を把握でき、膨大な情報から取捨選択できて部下を活かす者なんていないよな?」
そんなことができたら
「望むほうが間違ってるよ」
だよな~。おれが悪かった。
「でも、あたしなら八番のカヌカさんがいいと思う」
八番のプロフィールを大きくする。
「こいつが、か?」
歳は十八。見た目を一言で言うなら優柔不断な女だ。自信がなくいつもおどおどしてお荷物になっている。もう見た目から負けている。
が、アイリがそいつを連れて来たからにはそれだけではないだろうし、ハハルの目に引っかかったからにはなにかがあるはず。おれにはまったくわからんがよ。
「この人はなにかの拍子に化けるタイプだと思う。ミレがそんなタイプだった」
ミレのプロフィールも出す。
確かに見た目はグズっぽくて家族に邪魔にされる感じだが、仮にもこの年まで家に入れて、ハハルが面倒見てたら見た目で判断するのは危険だ。
おれも化けたヤツなら知っている。そう言うのは敵に回ると厄介極まりなくなるのだ。
「化けるヤツは運に左右されるからな~。一番厄介だぞ」
「そのためのシミュレーションじゃない。ミレも二日で化けたわよ。この人なら五日もさせれば嫌でも化けるんじゃない」
鬼や。鬼がおる。血も涙もない鬼が……って、おれもハハルにさせましたね。ごめんな、ハハル……。
「なら、
危機的状況をいくつも出して、生と死の狭間で化けてもらおう。人はそうやって成長して来たんだからな。
……カヌカよ。その苦難に見合う給金を出すので頑張っておくれ……。
「父さんのえげつなさが怖いよ」
おれはその数百倍はお前に恐れおののいたがな!
「それで、見習いの娘たちに使えそうなのはいたか?」
「あまり目立った娘はいないか? 育て方次第じゃない。元は売られた娘を不憫に感じて買い取ったそうだから」
「その甘さがなければアイリは一流の傭兵になるんだがな」
平和な時代なら褒められるべき性格なんだが、今の時代では害悪でしかない。団ためにも娘たちにも、な。
「それ、父さんのせいじゃないの? アイリさん、絶対父さんの影響を受けてると思う。まあ、父さんほど実力がないからダメなほうにいってるけど」
そうなのか? 陽炎団とはよく合同で依頼を受けたことは多いが、アイリと一緒に戦ったことはない。その頃はまだ見習いで、練習相手をしたくらいだ。
「あたしは、父さんの傭兵時代は知らないけど、ミルテさんを見てたらわかるよ。父さんのように強くなりたいってね」
それはわからないではない。おれも強い者に憧れ、そうなりたいと真似したものだからな。
「アイリさんは誰かの下でなら力を発揮するタイプだね。カナハの成長版かな?」
本当にこいつの人物鑑定には恐ろしいものがある。こいつにおれはどう見えてるんだろうな? 怖いから訊かないけど。
「そうだな。おれもそう思う。あれは、一部隊を任せるほうが有効だ。下手に味方を増やすと判断力や決断力が散漫になるからな」
アイリは、妙に頭がよくて、妙に人身掌握ができて、妙に強いと来てる。なにか突き抜けてたらいいのだが、妙にできるからややっこしくなるのだ。
「アイリたちにはうちの周りの魔物を退治してもらうか」
「二人はうちの守りに回してほうがいいんじゃない。万が一のためにさ」
そうだな。ミルテも警護がいると知っていれば安心だろう。
「なら、アイリ率いる陽炎隊に警護隊、残りは
「それでいいと思う」
ならば、それに決定。夜に説明してシミュレーターに放り込むとしよう。
「ほんと、父さんは容赦がないわ~」
お前もな!
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