第120話 魔道戦艦、山梔子(くちなし)

 海竜の数が三十六匹と確認できた。


 あのとき海竜に射ち込んだ特殊弾──発信器内蔵の弾を体内に入れた三匹は、しばらく群れには近づかず、バラバラに動いていたが、一匹がある場所から動かなくなり、残り二匹もそこに集まった。


 偵察ドローンを八機と海中ドローンを十六機放って群れを観察し、結果、三十六匹と判断したのだ。


 魔力反応を覚えたので、よほどの深海に逃げなければ逃したりはしない。地の果てでも追いかけられる。いや、百キロも離れたら諦めるけど。


「しかし、あの海竜、陸にも上がれるとは夢にも思わなかったぜ」


 偵察ドローンが無人島の浜辺で甲羅干し(?)をしている海竜の群れを捕らえていた。


「エラ呼吸もできて肺呼吸もできるとか、生命は神秘だよ」


 前世にもそんな魚? 爬虫類? がいたとは聞いたことがある。まあ、海竜がいる世界と比べてもしょうがないような気もするが……。


「父さん。アイリさんたちが来たよ」


 甲板で釣りをしながら海竜の様子を見ていると、港にいるハハルから通信が入った。


「今、いくよ」


 戦艦──山梔子くちなしは、前世の戦艦に比べたら小さく、百メートルもない。が、この世界では超ド級。飛空船の二倍はある。


 なので、港には入れられず、沖合いに停泊させているため、迎えにいかないとならないのだ。


 釣竿を片付け、山梔子くちなしの横に浮かべてある水上用に変えた光月こうづきに乗り込む。


 海面に浮き、スクリューで航行できるようにしたので、魔力は極僅か。ハイブリッドカーより燃費がよいのだ。


 光月こうげつを起動させ、港へと向かう。


 港には金鳳花きんぽうげらだけではなく、商会の人間や近隣から来ただろう村人が見て取れた。


 どこからなにを聞いたのか、港が再開したとかなんとかで集まったとハハルが言っていた。


 港には三賀町の荷船だけではなく、違う港町からの荷船まで集まり、以前のように活気に満ちている。


 まあ、海竜退治も終盤だし、こちらに責任はない。勝手にしろ、だ。


「しかし、あんな中型船でどうしようってのかね?」


 大した荷も運べないし、食料も水も二日分が精々。人も八人くらいと、長距離は移動できない。


 まあ、たぶん、街道が通れないことに業を煮やし、行商隊が荷馬車から船に変えて都へと運ぼうとしているのだろうが、焼け石に水どころか損しか生み出さないと思うがな。


「ご苦労なこった」


 自己判断で自己責任。こちらに尻拭いが来ないのならお好きにどうぞ、だ。


 望月もちづき家専用に借りた桟橋へと接岸する。


「おう、よく来た。歓迎するよ」


 まるで夜逃げして来たように大荷物を背負ったり抱えたりする陽炎かげろう団の面々。だが、表情は明るかった。


「ありがとう。これからは不知火しらぬいの下で精一杯働かせてもらうよ」


「ああ、期待してるよ」


 光月こうげつのコンテナ部に乗ってもらい、山梔子くちなしへと戻る。


「……これは、本当に船なのか……?」


 山梔子くちなしの姿と大きさに驚愕している陽炎かげろう団の面々。


望月もちづき家所有、魔道戦艦、山梔子くちなし。新生陽炎団の本拠地だ」


「本拠地? 船がか?」


 理解できないと目を大きくする金鳳花きんぽうげ。いや、他も同様か。


「そうだ。ただ、金鳳花きんぽうげと何人かは陽炎団から外れてもらい、右軍うぐんを率いてもらう。まあ、そう言う話は後だ」


 山梔子くちなしへと接舷させ、乗り込む。


「各自に部屋を与えるから好きに使え。ハハル。部屋割りを頼む。あと、艦内施設の案内も」


「わかった。備品も配ってもいいんでしょう?」


「ああ。話し合いは夜にするから入浴させても構わない。飯と酒も出してやれ」


「了ー解」


「し、不知火しらぬい、いいのか、その……」


 戸惑いに思わず口を開いたが、なにを言っていいのかわからず口ごもる金鳳花きんぽうげ。まだ、お前が代表なんだから威厳を示せ、バカもんが。


「もう、お前らは望月もちづき家の家臣だ。家臣ならうちの決まりに従え。そして、慣れろ」


 強めに言う。そうしないとこいつは切り替えられないからな。


「それと、不知火しらぬい呼びはもう止めろ。おれは、望月タカオサ。望月もちづき家当主だ」


 その辺ははっきりさせておかないとならないからな。


「わ、わかった。タカオサ、いや、タカオサ様」


 金鳳花きんぽうげ──いや、おれも名前で呼ばないとダメか。もう家臣の一人なんだから。


「おれは艦橋にいる。ハハルで解決できないようなことがあれば来い」


 そう言って艦橋へと向かった。

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