第119話 頼もしい娘たち

 まあ、ぶっちゃけてしまえば、海竜退治など本気を出せば一日で終わる仕事だ。


 なら、なぜやらないかと言うと、魔力を大量に消費するからって理由と、これが時間がかかる面倒なものだと見せつけるため、が四割を占め、残りはカナハの訓練のためである。


 十六の娘にやらせるような仕事ではないが、これからを考えたらカナハにはこのくらいのことは軽くこなせるようになってもらいたいのだ。


 この国で名を上げようとしたら魔物退治は外せず、日常茶飯事的に起こることだからだ。


 国が開拓しろと無責任なことを命令して来たが、わからないではない。この国の売りは米であり、米で成り立ち、米があるから生きてられるのだからな。


 だが、米だけに頼るのは国として危うい。飢饉なんて数年に一度はあり、天候により不作の地は必ず出て来る。


 副次農産物の栽培を、と言えないのがこの国の悲しいところであり、魔物が住む地で生きると言うこと。そう簡単にはいかないのだ。


 畑の開墾が困難なら頼るのは漁業で補うしかない。だが、海も海で海竜なんてアブネーもんが生息してやがる。


 そんなアブネーもんがいるなら排除する力が必要だ。定期的に見回り、アブネーもんがいたら狩る。安全に漁業を行えるようにしなくちゃならないのだ。


 つまり、海専用の傭兵団を設立しなくちゃならんわけで、オールマイティーに動いてもらいたいカナハには、是非ともいろんな技術を身につけて欲しいのよ。


「ただまあ、さすがにカナハ一人でこなせは無茶振りなので、お前を頭にした部隊を創る」


 ってことを説明したのだが、カナハは首を傾げるだけ。いや、カナハは頭は悪くないんだよ。教えたことから応用を考えたり見つけたりできるんだからな。


「父さん。カナハには特化させて単独で動かしたほうが上手く回ると思うよ。どうしてもって言うなら補佐役をつけるか、誰かの下につけたほうがいいんじゃない」


 横で聞いていたハハルが口を開いた。


 ちなみにここは戦艦の中。望月家の海洋基地として作りました。ただ、人材不足で運用はしてません。


「……カナハには望月家の武を代表して欲しいんだがな……」


 家が大きくなれば、おれはそう簡単に動けなくなる。だから、カナハには望月家の武の顔として動いて欲しいのだ。


「それはハルマに任せなよ。武はやっぱり男にさせたほうがいろいろ都合がいいし、カナハと違ってコミュニケーション能力が高いもの。それに、千花せんけ村で集団を作って、狩りとかしてるんでしょう?」


「ああ。五人組で黒走りや赤毛鹿を狩っているそうだ」


 いずれハルマの配下にと考え、仲間にしてもいいヤツに出力弱目のパワースーツを与えろとは言っておいたのだ。


「顔にするならハルマがいいとあたしは思う。今はアイリさんがいるんだし、ハルマが育ったら陽炎団はうちの防衛に当たらせたらいいんじゃないかな? ミルテさんやハルミを守る者は必要になって来るんだしさ」


 なんだろう、ハハルは孔明の生まれ変わりかな? おれに国を統一しろと言ってんのか? お願いだから勘弁して。


「ま、まあ、ハハルの言うことも一理どころか正しいんだろうが、カナハの立場がなくなるだろう」


「カナハは父さんの直属とか代理にすれば? あんなバケモノに平気で突っ込んでいけるの、父さんかカナハくらいだもの。一緒に突っ込める人なんていないわよ。ってか、ふざけんな! って言われるわよ。バカじゃないの!」


 な、なにか、酷い言われようである。


「ハルマやアイリさんが敵わないとき、もしくは父さんが出るまでもないときにカナハを出せばいいのよ。一騎当千とか、一家に一つもあれば充分よ」


 まったく持って反論できぬとはこのことである。メッチャ、口で勝てる気がしない。


「……わかった。カナハはおれの直属。おれの命令に従え。ハハルにはカナハ以外の望月家の人事と金を任せる。ただ、家のことはミルテに仕切らせろよ」


「わかってる。なんでもかんでもあたしに任されても嫌だもの。任せられるものは任すわ」


 本当にこいつの要領のよさには頭が下がるよ……。


「そうだ。華絵はなえ屋に預かってもらってた娘を何人か家に連れってミルテさんの下につかせるね。あと、蝶を引退した人も何人か頼まれたから連れてくわ」


「ハハルに任せる。ってかお前、あの二人とよく渡り合えるよな。怖くないのか?」


 損は覚悟して華絵屋はなえやに渡りをつけさせたが、あの二人に負けることなく渡り合い、しっかりと利益を持って来たのだ。


玉緒たまおさんもホクトさんもいい人だよ」


 あの二人と付き合っていたら絶対に出て来ない言葉であるし、言ったヤツを初めて見たわ。なんなの、こいつ? バカじゃねーの!


「まあ、男にはわからないかもね」


 女にもわからないだろう。何十回と通い、何十回と二人と酒を飲み合ったが、表面をサラッと知り得ただけだ。利益があれば動き、酒を飲むのが好きってだけ。優しいとか思ったことねーよ。


「あと、アイリさんから整理し終わったからこちらに移るって」


「何人残ったっての言ってたか?」


「十七人。即戦力にできるのは八人。残りは見習い以上、ひよ子未満だってさ」


「……想像以上に落ちぶれていたんだな……」


 リサさんが率いている頃は三十人以上いて、半分以上が一流の傭兵だったのに。


「戦艦を預けられるヤツがいると助かるんだが」


 金鳳花きんぽうげ以外、どんなヤツがいたかあまり記憶にないのだ。


「まあ、それは会ってからか」


 いなければいないで育てればいい。戦艦運用なんて初めてのことなんだしよ。


「海竜退治は五日後を予定する。ハハルは金鳳花きんぽうげたちと、戦艦で飯炊きできる娘を何人か選んでくれ。カナハは訓練の継続だ」


 わかったと頼もしく返事をする娘たちに負けないよう、力強く頷いた。

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