第118話 完璧!

 海竜が動き出した。


 数は六。等間隔を保ちながら港へと近づいて来る。


 おれの魔力センサーは広げようと思えば千キロ万キロと広げられるが、これにも魔力を必要とするので、いつもは十メートル内にしてある。


 これでも最前線で命はってたのだ、センサーがなくとも自前の勘が教えてくれるし、自前の肉体で対処もできる。万能変身能力ばかり頼っていては″基″が錆びる。まずは自分の力で対処しろ、だ。


 それと、最近知ったのだが、万能変身能力を直に使うより、万能変身能力から切り離したほうが魔力を使わないのだ。


 もちろん、繋げたら魔力を消費する。なので、監視ブイは万能変身能力から切り、魔石で動くようにして海竜を監視しているのだ。


 ……ちなみに漁は止めて、ハハルに買いにいってもらってます。そのほうが効率がよいので……。


 ウッドチェアから立ち上がり、テーブルの上に置いたサイレンのスイッチをオンにした。


 うぅ~っと重低音なサイレンが鳴る。


 これは、ナルマさんにも伝え、漁師に伝えるようお願いしてある。まあ、ちゃんと伝わってるかは知らんけど。


 吸魔銃ではなく、特殊銃弾を射つ狙撃銃を万能空間から取り出し、水上バイクに乗り込んだ。


 起動させ、数メートルだけ進ませて狙撃銃を構える。


「カナハ。漁師たちは逃げたか?」


 漁師のほうにつかせたカナハに通信を送った。


「ううん。なんの音だと戸惑ってる感じ。本当に避難サイレントって伝わってなかったんだね」


「だな。こっちも似たようなものだ」


 荷船を海に降ろした商会の者もサイレンに驚き、なんだなんだと騒いでいる。ただ、ナルマさんたちできる港の役人は逃げるように叫んでいた。


「ナルマさんたち、引き抜けないかね」


 ああ言う優秀な人材は是非ともうちに来て欲しいものだ。これが終わったら誘ってみるか。


「まったく、優秀なヤツが割りを食らう社会は反吐が出るぜ」


 優秀な人材は優秀な雇い主の元へ来るのが世の摂理に変えてやるわ。


「カナハ。そっちは任せる。無茶はしても無謀なことはするなよ」


「わかってる。やるべきことを完璧にやる!」


 真面目なやっちゃ。


「おう、頑張れ」


 万が一に備えてマギスーツと繋いだ。海竜ごときに殺させはしないさ。


 港に浮かべた監視ブイの光りが灯り、すぐに三匹の海竜が海面から姿を現し、体を捻るように空中へと舞った。


 これは海竜の特性でなく、海中に張った網に気がつき空中へと逃げたのだ。


 姿を現した順に狙撃銃の引き金を引き、特殊弾を連続で射った。


 威力としては熊でも射ち抜くが、海竜の皮膚には食い込む程度。反応からして「痛っ!」ってなくらいだろう。


「もうちょっと威力を高めたほうがよかったか」


 前回の海竜を参考にしたのだが、個体差があったようだ。それとも若いほうが堅いのかな?


 まあ、それでも数射ちゃメッチャ痛いで、デカい体を暴れさせていた。


「それでも致命傷とならないんだからスゲー生き物だ」


 伊達に竜とは呼ばれてないか。まあ、なんて海竜かは知らんけど。


 さすがに水上バイクでどうこうできる波ではなくなって来たので、一旦港内に戻り、波を利用して水上バイクを陸へと上げた。


 直ぐ様、狙撃銃を海竜に向ける──が、逃げていくところだった。


「引き際のいい海竜だ」


 もうちょっといたぶってやりたかったのによ。


「さて。カナハはどうなったかな?」


 マギスーツの視覚に繋ぐと、投擲銃を射ち、爆発でなぶられていた。


 さすがに港の外に網を仕掛けられないので、投擲銃を渡して海竜に対抗しようとしたのだ。こちらは威力高めにしてな。


 数秒に一回水柱が上がり、海竜がおもしろいようにいたぶられている。


「世が世なら動物虐待で訴えられそうだな」


 そんな世ではないのでドンドンやったれだが、さすがに無限に射てる仕様とはなっていない。


 五十発入りボックスなので、切り換えには数秒時間がかかる。その隙を突いて海竜が逃げ出す。


「意外と衝撃にも強いんだな」


 生命力に溢れてんな、海の生き物っては。


 狙撃銃を万能空間に戻し、キセルを出して一服する。ふ~。一仕事終えた後の一服はたまらんぜ。っと。サイレンを停止しなくちゃな。ほいっと。


「おい、どうなったんだ!?」


 なんか知らない男が現れた。


「追い払ったんだよ」


「倒したんじゃないのか!」


「群れの一部を倒したところでさらに警戒されるだろうが。倒すときは一気に、が基本だ」


 居場所がわかるなら少しずつ削っていけばいいが、群れの本隊がどこにいるかもわからず、広範囲に逃げられたら最悪でしかない。


「依頼主はいつも大雑把だ。海竜を退治してくれ。それだけ言えばできると思ってやがる。海竜は何匹いるんだ? どこにいるんだ? 強さは? なにも情報を寄越さず、依頼達成条件も言わない。なあ、実に身勝手なものだと思わないかい?」


 おれはそのすり合わせに苦労させられたものだぜ。


 知らない男はなにも返せず口を閉じるだけ。都合のよいものだ。


「まあ、傭兵やってればそんなこと日常茶飯事。条件を揃えるのも仕事だ。だが、そんな苦労を知らずに横で好き勝手やられ、邪魔をされ、こちらが悪いどばかりに文句を言って来る。あんた、どう思うよ?」


 尋ねるが、知らない男は口を開かない。目を泳がせ、誰かに助けを求めていた。


「まあ、あんたに言ったところでしょうがないか」


 別に答えを求めているわけじゃないし、見直して欲しいわけでもない。ただ、面倒臭いから返り討ちにしたまでだ。


 知らぬ男は逃げるように立ち去り、おれはタバコを吹かす。


 しばらくしてカナハがドヤ顔で戻って来た。


「どうだった?」


「ああ。完璧だったよ」


 フムーと鼻息荒いカナハの頭を撫でてやった。まったく、可愛いヤツだ。

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