第116話 嫌な役人
いい感じに浮いている水上バイクに乗り込み、起動させた。
もちろん、前世の水上バイクではなく、魔力で動くようにしてるので、エンジン音はない。ただ、おれ以外にも乗れるように作ったので、起動ランプは取り付けました。
万能変身能力で作り出したので、おれに練習は不要──なのだが、観客(どこの手の者かは知りません)がいるのでデモンストレーションはしておきましょう。いずれお買い上げしてもらうのだからな。
輸送機とは違い、制作魔力は1000程度。魔力100で十キロは走行できる。それを三倍価格にして売ればボロ儲け。おれ、ウハウハである。
なんて捕らぬ狸の皮算用は後にして、監視ブイを港に設置しますか。
二十機用意したうちの十機を三十メートル間隔で設置し、残りを沖合い三百メートル先に百メートル間隔で設置する。
これは町の気を逸らすために設置したまでで、主な役目は魚群探知。美味しい魚を探すためのもの。海竜は偵察ドローンが見張ってます。
港に戻ると人が増え、ナルマさんより高位の役人と思われる一団がいた。
紅緒べにおの後ろにつけ、陸へと上がる。
「そなたがタカオサか?」
高慢な態度といい、名乗りをしないところをみると、町役場の、所属長クラスの者だろう。いや、港の最高責任者かな?
「ええ。そうですが、あなたは?」
「誰でもよい。速やかに海竜を退治しろ」
「言われなくてもそうしますよ。おれも忙しい身ですからね」
こう言うのに構っていても時間の無駄。なにも生み出さないどころか仕事を送らせる害でしかない。傭兵時代はよく困らされたものだ。
「傭兵風情か無礼であろう!」
「誰とも名乗らない者に無礼もなにもあるまい。敬って欲しいなら名を告げろ。身分を明かせ。この町の副事官殿はその傭兵風情に名を告げて頭を下げたぞ」
この世は弱肉強食。強い者が法だ。おれはそれを認める。真理だと思う。なら、強者であるおれが弱者に媚びへつらう必要はないってことだ。
「き、貴様──」
「─タロン様」
と切れそうな弱者を別の役人が止めた。
「こちらは港管理長のタロン様だ。傭兵ならば速やかに仕事を完遂しろ。無駄な経費は出さんぞ」
それなりに優秀なんだろうが、こいつも責任を他人に押しつける典型的な役人か。ほんと、滅びて欲しいぜ……。
「無駄な経費かそうでないかを決めるのはこちらだ。これは町長との契約だ。あなたに言われることではない。それが気に入らないと言うのなら、あなたの名と権限で町長との契約を破棄してください」
まあ、できなはしないだろうが、こう言う役人には何度も煮え湯を飲まされた。これはささやかな仕返しである。
「クッ。生意気言いおって……」
「なら、そのことを町長に伝えて解約してもらうんですな。おれは一向に構いませんよ。どうせ責任はあなたが取らされるのですからね」
副事官殿が町長にどう言ってるかは知らないが、オン商会やゼルフィング商会との繋がりを見て、無下にすることはないだろう。
したら町長としての失態だけではなく、二つの商会にケンカを売ったも同然。なんの抵抗する暇なく潰されるだろう。あの二人なら確実に殺る!
「あなたが町人をどう扱おうが勝手だ。だが、そこにおれやおれの家族を入れたらあなたたちに未来があると思わないでくださいね」
にっこりと笑って見せた。
強者の傲慢と言うのならそうなのだろう。否定する気はない。おれはこの役人を下として見てるんだからな。
だが、こいつらと同じと思われるのは我慢できない。いや、必要ならするが、必要なければ全力で否定させてもらう。
おれは強者の責任を弱者に押しつけたりはしないし、強者としての矜持を地につけたりはしない。こんなクソったれな世を変えようとしてんだからな。
「戻るぞ!」
「はい、さようなら」
そして、二度と来るな。おれの人生にお前らはいらんわ。
意識からも記憶からも消し去り、怯えた顔をするナルマさんを見る。
見られたナルマさんはビクッとするが、逃げようとはせず、気合いを入れておれに近づいて来た。
「……余り無茶をするな。タロン様は大家の出で、都にも繋がりがあるんだぞ……」
「おれは、オン商会とゼルフィング商会に繋がりがあり、この国で最大の取引相手。どこまで対抗できるか見物ですね。いや、対抗できずに滅びるかな?」
おれは滅びないよう、二つの商会とは仲良くさせていただきますぜ。
「……お前……」
「フフ。冗談ですよ」
「それ、冗談な笑いじゃないぞ……」
否定はしません、とばかりににこやかに笑っておく。
「さて。港の責任者がいないのでナルマさんに伝えておきます。あそこに浮かんでいるのは監視ブイ。海竜が近づけば天辺のが光りますんで気をつけてください。一応、沖合いにも十機浮かべてますんで監視員でも立たせてください。人手がないのなら無理にとは言いませんけどね。それと、勝手に海に入って勝手に食われてもおれの責任ではないのであしからず」
勝手に海に出ると言うのならご勝手に。おれに権限もなければ責任もない。自己責任でやってください、だ。
「カナハ。水上バイクの練習をするぞ」
「いいの!?」
「ああ。水上バイクで潜入とか、島の探索、船への強襲とか、輸送機よりこちらのほうを使うから覚えるのは必須だ」
あくまでも水上バイクは人を相手にした道具だが、人相手が多そうだからまずは水上バイクの扱いを覚えてもらうのだ。
水上バイクの仕組みと操縦法を教え、後は実践して覚えろと海に放った。
その間、おれは漁にでも励みますかね。
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