第115話 拠点
イズキはニトントラックサイズなので、大通りを進めは問題なく港へと向かえる。
のだが、荷馬車が当たり前に往来するので、時速十キロも出せない。大体が五キロで走行している感じだ。
「こりゃ失敗したな」
こんなことなら光月こうづきで向かえばよかった。と後悔したくなるが、一度はイズキで向かわないとならないのだから我慢である。
追い越すこともできず、キセルを出してタバコを吸いながら心を落ち着かせる。あ、自動走行にしてますから。
物珍しさに目を向ける者はいるが、寄って来ようとする者はいない。たぶん、魔道具と思われているのだろう。飛空船とかたまに見るしそう驚きはないのかも知れない。
「……なにか活気がないな……」
人の往来は前に来たときと変わらないのだが、呼び込みの声や町の喧騒さがない。
自給自足とまではいかなくても、町を維持する食料は町やその周辺の村で作られる。
行商隊が落とす量がどれほどか知らないが、行商隊に頼る状況にはなってないはずだ。必ず入って来るとは限らないからな。
米もすべては国に渡したりしないし、飢饉に備えて貯めるようにしている。都から遠いところほど貯め込むので、そう不安になったりはしないはずなんだがな……。
「まあ、港が封鎖され、街道が通れないとなれば不安になるなってほうがおかしいか」
魔物がいて、度々魔物の被害が日常的とは言え、怖いものは怖いし、不安になるものは不安になる。パニックにならないだけマシってものだ。
一時間かけてやっと港に到着した。
港に船はなく、前に散らばった船の残骸もなくなっていた。
「漁船は……漁港に停泊中か。さすがな漁には出れんわな」
港の中まで入って来るような海竜だ、怖くて船など出せんのだろう。飛空船すら襲うようなヤツだし、五メートルもない漁船なら一口だろうよ。
桟橋は木で組まれたものなので、ギリギリのところにイズキを停車させた。
外に出て、桟橋の先に向かう。
おれに釣られて出て来てくれたら楽でいいのだが、どこかに餌を探しにいっているのか、一キロ無いに海竜の反応はなかった。
「おい! そんなところにいると襲われるぞ!」
と、どこかで聞いた声が後ろから飛んで来たので振り返る。
「おう、ナルマさん。監視もしてるのかい?」
管理所の役人は大変だな。
「お前か。まあ、見知らぬ物があったからそうじゃないかとは思ったがな」
見知らぬ物=おれの図式ですか。まあ、間違ってないだけになんも反論できません……。
「町長か副事官殿から話は来てますか? おれが海竜退治することは」
「ああ。話は聞いている。だが、本気か? 町の傭兵団ですら匙を投げたのに」
相手が海の生き物なら当然だろう。おれも万能変身能力がなければ引き受けたりしない。損をするだけの仕事ではな。
「まあ、それなりの勝算はありましたからね」
他に打算などあったりするがそれは内緒です。
「いったいどうやって?」
「相手が海を泳ぎ回るのならこちらも泳ぎ回って退治するだけですよ」
出て来てくれるなら楽だが、前回ので警戒されたことだろう──ってかは知らないが、海の幸はいただきたい。貝や海老、タコとか食いたい。食卓をもっと豊富にしたいのです。
「カナハ。降りて来い」
ちゃんと守っているようだが、なんともアクロバティックな飛び方をしている。マギスーツにGキャンセラー機能があるとは言え、よく視界がブレないものだ。
マギスーツが補正してくれるとは言え、有視界飛行は訓練が必要だ。マギスーツはパイロットスーツ仕様にはなってないのだからな。
おれは、万能変身能力を願ったとき、ちゃんと使いこなせるようにしたが、並みの人間には万能は使いこなせない。思いや欲望が過敏に働き、下手したら暴走して魔力を枯渇させてしまう。
魔力がなければ能力も働かない。防御力もなく攻撃力もないなど、裸でいるようなもの。すぐに自滅するだろうよ。
……前世のおれ、本当にグッチョブだぜ……。
紅緒べにおの反応が近づき、肉眼で見えて来た。
アクロバティックな飛び方はできるようだが、着水は余り上手いとは言えず、桟橋にぴったりと接岸させることはできなかった。
「まあ、よくできたほうか」
着水や接岸は結構技術がいるからな。壊さないだけマシなほうだ。
紅緒べにおをこちらで操り、桟橋に接岸させる。
「……ムズい……」
降りて来たカナハは、苦虫を噛み潰したよう顔をしていた。
「まあ、お前は思い切りやるタイプだからな、細かいことは苦手なんだろう」
若いから技より力で乗り切ろうとする。精神修行もさせんとインスピレーションで動く脳筋になりそうだ。いや、なりかけてるか?
「紅緒べにおの操縦は後だ。お前は魔法士。魔法で戦う術を先に習得しろ」
まあ、通常の魔法士ではない戦い方をさせるがな。
「……わかった……」
納得はできないが、優先順位を守る理性はあるようだ。こいつはこいつで育て方が難しいぜ。
「
港に放ち、海竜が来たら警告音を鳴らしたり魚群を探知したりするものだ。
「わかった」
監視ブイはカナハに任せ、おれは港をちょっと改造させてもらい、水上バイクを海に降ろした。
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