第110話 アイリ
ブラックリターン。
ではなく、短い休息が終わっただけか。メッチャ忙しいわっ!
井戸を四つ掘り、国から請け負う行商隊のために倉庫を作り、台所、トイレ、風呂、雨風を防ぐ簡易小屋を十六棟。あと、なんかいろいろ作ったが記憶から漏れてしまったわ。
はぁ~。やっと終わったと思ったら、うちで働くことになった七人の少年が集っていた。
……ああ、そう言えば真っ先に集めてくれって言ったっけな。忘れてたわ……。
「今日からお前たちはうちの輸送隊員だ」
と言っても理解はできないだろうから、今着ているボロ着を脱がせ、ボクサーパンツを穿かせる。もちろん、ロッカー室でね。
「変身、パイロットスーツ、と言ってみろ」
なにがなにやらわからないが、雇い主は絶対と叩き込まれているので、一人が言うと残りの六人も続いた。
ボクサーパンツからパイロットスーツへと変身した。
「輸送隊員が着るものだ。仕事のときはその格好でいろ」
それは生命維持機能もあり、これから一晩かけてシミュレーションしてもらう。栄養を取りながら頑張ってくれ。
「小難しい説明してもわからんだろうから、まずは、そこの箱に入って椅子に座れ」
シミュレーターを七つ作り、それぞれに入れさせ、シミュレーション開始。明日には立派なパイロットになっているぞ。
「あ、おじちゃん。なんなのこれ?」
と、ハハルとカナハが戻っていた。もうそんな時間かよ。
「ハハル。八十三人をうちに連れてって開拓させる。二十人くらいずつ運んでくれ。タナ爺には連絡してあるから預ければいらいからよ」
三十人用の飯場を三棟を作った。ちなみに、万能素材は万能変身能力から生まれたので、すべてに繋がり、すべてをおれが操れるのです。もちろん、万能さんが管理してくれるのでおれの脳に負担はありません。
「これが行商隊のデータだ」
ハハルに行商隊のデータを送る。
「……あたしの頭、絶対変なことなってるよね……」
「お前の場合は、変になっていると言うより眠っていた才能が爆発的に目覚めた感じだ。今の段階でもおれを凌駕しているし」
天才とかのレベルじゃなくて異才ってレベルだ。凡人のおれには御し切れないわ。
「戦闘員以外の人事権はお前にやる。それと、おれの能力の一部を開放する。わかるか?」
万能変身能力をハハルに繋げる。前世の記憶は遮断してな。
「……なにこれ? こんなのがあるの!? なにから食べたらいいかわからないじゃない!」
って、そっちかよ! まあ、ハハルを動かすためにお菓子の情報を多目にしたけどよ……。
これまで作ったものはハハルにも作るようにしたが、この分ではお菓子ばかり作りそうだ。まあ、食う量は限られてるし、糖尿にもならんのだから構わんか。好きにしろ、だ。
「ちゃんと仕事をしたら、だからな。命令権はおれにあるんだから酷いようなら止めるからな」
「わかってるって! 一生おじちゃんについていくって言ったじゃない!」
不安が増すが、ハハルの存在は絶対なので余計なことは言わないでおく。
「ねーちゃんばっかりズルい! あたしも欲しいよ!」
珍しくカナハが我が儘を口にした。
「蜂蜜ならいつでも食えるだろう」
カナハもお菓子は好きなようだが、ハハルのように心奪われるほど好きと言うわけではない。オヤツはほとんど蜂蜜。どこぞの黄色い熊かと思うくらい蜂蜜に取り憑かれている。
お洒落にも興味ないし、ストイックなアスリート並みに訓練している。欲しいもんてないだろう?
「カナハはあたしがおじちゃんの一番になってるから怒ってるのよ」
はん? なんのこっちゃ?
「カナハはおじちゃんっ子だから、おじちゃんの一番でいたいのよ。あたしにはなにがいいのか理解できないけど」
ハハルは善くも悪くも現実主義者。自分の得にならなくちゃ動かない。一番動かしやすいタイプだ。
カナハは無表情だが、情は熱いタイプ。認めてやることで自分の価値を決める。それは初めて会ったときからわかっていた。
「おれはかなりカナハを頼ってるし、期待もしてもいる。だから時間をかけて育ててるんだ」
ハハルは……まあ、多少の無茶をしてもいいくらいには頼りにしてるし、期待もしています。
「あたしからしたらカナハは大事にされ過ぎよ。あたし、絶対雑に扱われてるよね?」
ハハルのジト目を真っ正面から受け止め、心の目は剃らした。
「よし、ハハルには毎日3000の魔力をやろう」
「また、そうやって物で釣るんだから。でも、ありがとう!」
そんなハハルが大好きだよ。
「ハハルがおれの盾ならカナハはおれの剣だ。お前を頼るのはこれから。慌てるな」
無表情ながらも膨れてるカナハの頭を撫でてやる。
「変わらないわね、そのタラシぶりは」
と、第四の声が入って来た。
誰や? と見れば
「あ、アイリさんが用があるからって連れて来たよ」
そう言うのは先に言え!
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