第109話 マンパワー
ヨシハさんが集めてくれた兵士は六人。ってか、ヨシハさんも混ざるんですね。
まあ、手伝ってくれるのならおれに否はなし。万能素材で二リットル入るヤカンを作り、外にある水道で水を入れてもらう。
コップは木のコップ。親父たちが作ったものが役に立つ日がこんなに早く来るとは思わなかった。
形や大きさは不揃いではあるが、それに文句を言う繊細な野郎はいない。コップとヤカンを回してもらい、あとはセルフで飲んでください、だ。
「……なんて旨い水だ……」
プレハブハウスの中に集まった中の一人が呟き、同意する声があちらこちらから湧き起こる。
ただ汲み上げるだけではなく濾過して軟水にしている。ここのはちょっと硬水だったのでな。
おれは行商隊の代表者が静まるまでタバコを吹かして待つ。行商隊の集まり者を観察しながら。
「まず、場を設けさせてもらって感謝します」
そう口を開いたのは五十代後半のガッチリした体格を持つ歴戦の行商人って感じの男だった。
この中では取り纏め役としては適した感じだな。たぶん、国から請け負っている行商隊ではなく、どこか大手の行商隊だろう。昔、傭兵やってましたって雰囲気が惜しげもなく出ているからな。
……傭兵出が国の行商隊になるのは、三十歳から公務員になるくらい難しいものだろうよ……。
「おれは、タカオサ。家名はない。今は根無し草のような立場だ」
金と力はあるが肩書きはなし。謂わば、ゴールデン・フリーターだ。あ、いや、冗談です。ごめんなさい。
「わたしは、
大津屋おおつやか。聞いたことあるな。まあ、どんな商会なのかは知らんけど。
「それで、おれになんなんの用で?」
「我々をお助けくださいませ」
畳に両手をつき、頭を下げるマヤタさん。大の男が恥を偲んで頭を下げる。男気に溢れていたら「わかった! 任せろ!」とか言うのだろうが、生憎とおれはそこまで力があるとは思ってない。
ましてや、ここに来たのは海竜退治。本題を無視して脇道に逸れることはできない。優先順位を破るヤツは信用もできないし、仲間を殺したりもする。傭兵時代に学んだことだ。
「それは国の仕事だろう。おれが損をしてまで助ける理由はないと思うのだが」
一隊や二隊なら雇いもするし、仕事も回す。が、二十以上もの行商隊をどうしろと言う? 何十人、いや、何百人もいるんだぞ。
長期的に雇えるなら畑を耕すなり開拓させたりもできるが、ここではそれもできない。家に連れていこうにも場所がなし、食料も追いつかないだろう。
「街道が通れない今、国に頼むこともできません。頼りの町は堪えろと言うばかり。食料も独自で集めなければなりません。荷馬車の数が数なだけに町の外に追いやられ、水の確保にも苦労しております」
まあ、流れ通るから流通と言うのであって、溜まるような町造りにはなっていない。とは言っても雨や嵐があるので十隊なら町で抱えられるようにはなっていると、聞いたことはある。
「水が必要ならここの横に移動してもらっても構わないし、必要なら井戸も掘ります。そちらの荷を売ると言うなら高値で買いもします。魔力を売っていただけるのならそれに見合った食料をお売りします。それがおれにできる精一杯の助力です」
さあ、どうします? と目で問う。
文句なり罵倒なり出ると思ったのが、誰からも出ない。これはちょっとおかしくないか?
「それでお願いします」
マヤタさんがまた畳に手をつけて頭を下げた。
「入れ知恵したのは誰です?」
なんかおれを知ってるヤツがマヤタさんの背後に見えるのだが。
「
世の中にはできる商人が多すぎ! そして、いいように扱われ過ぎだな、おれ!
悔しいが、勝てないのならその状況を利用するまで。前世のおれよ、三十六歳まで生きた知恵と経験を見せてやれ!
「行商隊で下働きか奉公に出された十代の若者がいたら首にしてうちにください。人数は問いません。一人金銭一枚で買い取ります」
商会の行商隊には人件費を抑えるために、二、三人は人買いから買った子を入れて雑用として使っているらしい。
雑用から御者にすると安上がりとも聞いたことがある。真実かどうかは知らんけど。
「それから、五十人ほど開拓に雇います。三食こちら持ちで一日の給金は銅銭十枚。飯炊きできる者がいたら十人ほど雇いたい。農作業の経験がある者がいたら、いるだけ雇いたい。荷馬車が使えるのなら近隣の村を回って食料を買い出しに出てもらいたい。あとは、そうですね。この一帯を均したいので人足が百人は雇いたいし、金勘定ができる者も雇いかな」
魔力も有限。節約できるところは節約する。人の力でできることは人の力でなんかする。金の力で解決できるねなら惜しみなく金で解決しろ、だ。
「まあ、早い話、全員おれが雇いますんで、マヤタさんが頭に立ち、人の選別、指揮系統を決めてください」
万能空間から銀銭が詰まった袋と銅銭が詰まった袋をマヤタさんの前に置く。
「活動資金だ。使い方は任せる。帳簿つけもな」
細かいことはお任せします。おれ、そう言うの苦手なんで。
「おれは、充分な働きには充分な見返りを用意する主義だ。皆の働きに期待する」
キセルで囲炉裏鉢を叩き、場をシメた。
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