第108話 世知辛いものだ
拠点となる建物、と言ってもここは仮拠点なので十二畳くらいのプレハブハウスを置き、朝日あさひが四機は入れる格納庫を二棟と通常の倉庫を四棟作った。
いずれここもオン商会に売るので、凝った作りにはせず、いつでも引き渡せるようにしておく。
プレハブハウスの中も畳敷きにし、寝泊まりできるよう布団を四人分出しておく。あとは六人用の卓があればいいか。
「一応、風呂とトイレを作っておくか」
おれたちは使わないだろうが、客用に作っておいてもいいだろう。
この辺はどこを掘っても水が出る地なので、水には困らないし、大浴場にしておこう。湯にするには魔力が必要だがこれから夏になるし、水が自動に出るだけで喜ばれるだろうよ。
一時間もしないで作り終わり、格納庫に移動してイズキを四輛作る。
二輛は輸送車。通常車、調理車、指令車にする。
「対海竜戦用は海にいってからでいいか」
これにて拠点造り終~了~。ハハルたちが帰って来るまで一服でもするかね。
格納庫から出ると、兵士たちがポカーンとした顔で拠点を見ていた。
……まあ、いきなりこんなのが造られたらそうなるわな……。
驚かれようが警戒されようが力を使うことに躊躇いはしない。恐れもしない。でなければ世を変えたいなんて願わないぜ。
とは言っても相手が飲み込めるかは別の話なので、それぞれが飲み込めるまで放置。兵士たちを横目にプレハブハウスへと向かった。
プレハブハウスの中へと入り、畳の上に上がり、適当な場所でタバコを吹かした。
「囲炉裏鉢とか欲しいな」
と思ったので作ってみた。うん、味があっていいな。家にも作るとしよう。
のんびりタバコを吹かしていると、なにやら外が騒がしい。なんなんだ、いったい?
キセルをくわえたままプレハブハウスを出ると、兵士の一人がこちらへと駆けて来た。
「タカオサ様! 行商隊が詰めかけて、タカオサ様と話をさせろと申してます! いかがなされますか?」
いや、いかがなされますもなにも状況がまったくわからないのだが……?
「そちらで対応はできないので? ここを借りているとは言え、町の管理地でしょう。おれが対応できるのは敷地内だけですよ」
面倒事はそちらで対処してください。
「それが土地の一部を貸して欲しいとのことで、今はタカオサ様が借り主の立場なので我々にはなんともできないのです」
詳しい取り決めはしなかったとは言え、完全に貸しただけの対応だな。まあ、そのほうが楽と言えば楽だけどよ……。
「わかりました。会いましょう。代表者をここに呼んでください」
無下にするのも可哀想だし、商会の行商隊ならなんか買えそうだしな。
「わかりました! すぐに連れて参ります!」
まるで上官に命令されたように返事をして駆け戻っていった。
「……おれはどんな扱いになってんだ……?」
重要人物扱いされているのはわかるし、町としてもオン商会やゼルフィング商会が一目置いてるおれを無下にはできないのもわかる。
だが、兵士にまでそれが行き渡るほど徹底しているとは思えない。基本、町の兵士は町長を見てる。家名もなく傭兵崩れにこんな対応はしないものだ。
そんなことを考えてたら、先ほどの兵士とヨシハさんが団体さんを連れて来た。行商隊、どんだけいんだよ!?
ざっと見、二十人以上。どんだけの行商隊が集まってんだよ? ってか、降りるとき行商隊の集まりなんていなかっただろう。
ここは、町と外の緩衝帯。魔物が攻めて来たときここで防ぐため、なにも植えられてはいない。いたら嫌でもわかるわ。
「すみません、タカオサ様。こいつらがどうしてもと引かないものですから」
「それはもういいですよ。それより、さすがにその人数は中には入れられません。さらに十名選んで中へ入れてください。他の者は悪いが窓の外から覗いてくれ」
と言ってすぐに決められるものではない。行商隊にも都合があり、力関係や競争相手がいる。もめることは理解できるので気長に待つ。
「ヨシハさん。兵士をお借りしてよろしいですか? ちゃんと礼はしますので」
兵士を使うなどあり得ないが、それも今さらだろう。管理地に回されるような兵士は三戦級落ちで、給金も安い。一人身でも暮らしは苦しいはずだ。
ヨシハさんに銀銭二枚を握らせる。あくまでもお手伝いしてくれるお礼ですと言って、な。
「わかりました! なんなりとお申しつけください!」
まるで将軍にでも相手にしているように見事な敬礼をして駆けていった。
金の力とは偉大なり。そして、世知辛いものだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます