第106話 ブラック

 って言うか、おれがブラックだよ!


 実働二十二時間。睡眠一時間。愛の育み一時間。社畜も驚く仕事漬けの毎日だよ!


「おれ、この仕事が終わったらのんびりするんだ」


 なんて死亡フラグを立ててみたが、万能変身能力がある限り、おれに過労死はないし、精神も壊れたりはしない。自分で望んでやっているのだから辛いとも思ってない。


 ……たまに自業自得にへこむときもありますが、おれは元気に仕事をしています……。


「……朝か……」


 清々しい気持ちもないがくたびれた気持ちもない。ただ、なにか大事なものを失っているのはわかった。


「休憩するか」


 うちは休憩も就労時間に含まれます。


 キセルを出してタバコを吸う。


 生命維持機能があるからタバコを吸っても意味はないのだが、味わうだけでも安らぎが湧いてくる。タバコとビールは一生辞められないな……。


「ん?」


 回収ドローンの一つから増援を求める信号が送られてきた。


 これは、森王鹿を回収するドローンか。なんで増援なんだ?


 森王鹿もりおうじかのサイズがサイズなので、回収ドローンも優月ゆうげつサイズにした。充分回収できるはずだぞ。


 回収ドローンのカメラに接続すると、なにやら虐殺劇が繰り広げられていた。はぁ!?


 なにかなにやらわからず茫然としたが、徐々に落ち着き、状況が見えてきた。


 ……翡翠ひすいが森王鹿の群れを襲っているのか……。


 と言うか、襲っているようにしか見えない。なにやってんだ、あいつは!?


 六十以上いる森王鹿を噛みついては投げ、爪で切り裂き、なんか魔砲で吹き飛ばしている。


 一方的な虐殺ではないか!


 とかなんかで読んだようなセリフだが、そうとしか言いようがなかった。


「なにやってんだ、こいつは?」


 野生がそうさせているんだろうが、群れ一つ滅ぼすような野生は控えろよ。三十匹以上の肉を保管しておくところを増やさなくちゃならんだろうが。あと、もっと体に傷つけないようにやれよ。ズタズタにされたら使いどころが減るだろう。


 ……まあ、やるのは万能さんだから苦労はないんだけどね……。


 殺したからには有効に使ってやるのが森王鹿もりおうじかへの報い。ちゃっちゃと回収ドローンを作り、保存庫を増やしますか。


「まったく、休む暇もないぜ」


 ハルミが呼びにくるまで仕事を続け、朝飯をちゃっちゃと済ませ再開する。


「この分では湖を囲みそうだな」


 保存庫がもう十七棟まで増え、壁のようになっている。ちょっと無計画過ぎたな。これでは景色を楽しめない。やはり、家を山のほうに移動させるか?


「父さん、お昼だよ」


 タバコを吸いながら考えてたらハルミが呼びにきてくれた。もう昼か。早いもんだ。


「ねえ、父さん。翡翠ひすいがいないんだけど、どこいったのかな?」


翡翠ひすいなら山で野生を証明してるよ」


 まだ野生の血が収まらないのか、なんか二つ頭の狼三匹と戦ってるよ。この島、あんなのまでいたんだな。総魔力50000とかあるよ。


 ちなみに、森王鹿もりおうじかは魔物ではなく精霊獣なので魔石はありません。


 ?顔のハルミを連れて家へと向かう。


「そうだ、ハルミ。タナ爺のところに行商隊の家を作ったから掃除にいってくれるか? なるべく早く三賀さんが町から売られた娘を連れてくるから、それまで頼む。もし大変なようならタナ爺に言って、村から働き手を集めてもらえ。今の時期なら女衆は余ってるだろうからな」


 後々、女中隊を組織して、ミルテの配下にしたい。ハルミにはミルテの補佐として働いてもらいたいと説明する。


「じ、自信はないけど、頑張るよ!」


「無理はしなくていいからな。そう簡単にできるもんじゃないし」


 家につくと、ハハルと同年代くらいの五人の娘がいた。


「おじちゃん。うちで奉公する娘たちだよ」


「お前と同じ年代って結構いたんだな」


 全然わからんかったわ。


「嫁にいけないくらいにいるよ」


 そして、この年代を過ぎたら嫁にはいけず、売られもせず、家のお荷物となる。か。酷いもんだ。


「紹介するね。右からナタエ、サイラ、カナ、アイル、ミレだよ」


 よろしくお願いしますと、全員が大袈裟に頭を下げた。


「おう、こちらこそよろしくな。しっかり働けば充分な暮らしを約束する。ハハルを支えて仕事に励めよ」


 はい! と声を揃えて返事をした。


 ……お前の仕込みか? スゴ過ぎるだろう……。


「部屋割りは済んだのか?」


「うん。皆喜んでたよ。自分の部屋が持てて」


 娘たちを見れば満面の笑みを浮かべていた。まあ、家のお荷物から一部屋の主となったんだから無理もないか。


「細かいことはハハルに任せる。昼飯は食ったのか?」


「うん。まだ仕事はあるからね」


 お前の仕込み、マジハンパないって。


「じゃあ、今日は早めに終わって歓迎会でも開いてやれ。冷蔵庫にいいものを用意してやるからよ」


 ハハルの活躍はまだ先だし、早く帰しても問題ないだろうよ。


「ありがとう、おじちゃん!」


 ハハルに続き、娘たちが「ありがとうございます、旦那様!」と声を揃えて頭を下げた。


 ……こいつには、あと十人くらいつけても問題なさそうだな……。


 ハハルの仕事量を増やすことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る