第105話 ハンパないって

 飯場(?)の使い方を説明してたらすっかり遅くなってしまった。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 迎えてくれる家族がいる幸せ。涙か溢れそうです。


「遅くなってすまなかったな」


 居間にはもう皆が揃っており、夕飯が並べてあった。


 家に上がり、食卓へとつく。


「じゃあ、食べるか。お疲れさんな」


 ハルマが飛びつくように飯をかっ込み、ハハルとハルミはいつの間にか上品な食べ方を身につけたようで、ゆっくりと食べ、カナハはまだ野生児が残っているようで、ハルマと肉の取り合いをしている。


「さあ、旦那様」


 と、瓶ビールを持ち、傾けた。


 蝶から酒を傾けてもらったことは何度もあるが、あれは商売で相手しているとわかるだけに快楽しか求めなかった。だが、愛情がわかる者からとなると、ビールの味が格別に旨い。この一杯で酔いそうだ。幸せにな!


「ん? コロ肉?」


 角煮を食べたらコロ肉の食感と味がした。


「はい。子を生んだので一匹シメました」


「もう生まれたのか。コロ猪は繁殖力が高いな」


 そうは知っていてもどのくらい高いかは知らない。一月くらいで子をなすんだ。餌と環境がいいからか?


「これで牛がいたらすき焼きが食えるんだがな」


 おれ、豚肉より牛肉が好きで、すき焼きが一番……でもないけど、高位に位置する。シメの卵と汁で溶いた飯は最高である。


 まあ、嫁が作ってくれた飯が一番最高なのでモリモリ食べて注いでくれたビールをゴクゴク飲みました。あー幸せ。


 夕飯が終わり、食後の団らん。


 カナハ以外はアイス(コーヒーフロートを夢見て作りました)を食べ、そのカナハは久見茶を飲みながら蜂蜜を舐めていた。


 ……どうなんだ、その組み合わせは……?


 まあ、本人が気に入っているのなら口を出すのは野暮。好きなだけ食え。余分な栄養はマギスーツが吸収して、必要なときに戻すからな。


 ミルテはプロラゼリーを食している。甘いものは嫌いじゃないようだが、ハハルたちのように毎食食いたいほどではないらしい。


「カナハ、ハハル。明日の午後から三賀さんが町にいくから用意しておけな」


「用意ってなにを用意すればいいの?」


 ハハルが不思議そうに尋ねてくる。


「村での商売の引き継ぎだよ。しばらく三賀さんが町に集中すると言っただろう」


「ああ、それね。大丈夫だよ。もう任せてるようなもんだから」


 そうなの? 早くね? ってか、お前はなにしてんだよ?


「今はハリカに教えながらリヤカー引いて村を回ってるよ。他の集落の人はなかなか来れないからね」


 ハハルの進化がハンパないって。


「そ、そうか。もし、その子たちがうちに奉公にくると言うなら連れてこい。身請け金も払うし、部屋も用意するからよ」


 いつまでも実家から通うのは建前上よろしくもないし、不義理でもある。ちゃんとおれの元にきたほうが村に文句は言われんだろう。


「うん。そうしたほうがいいと思う。嫉妬とか面倒だしね。ただ、家族として扱うか奉公人として扱うかはっきりさせたほうがいいかな」


 ハンパない姪に言葉が出ない。こいつは本当にハハルか?


「おじちゃん?」


「あ、いや、そうだな。はっきりさせておくのは大事だな。


じゃあ、お前のところに部屋を足すよ。離しても不便だろうし」


 ハハルは家の隣に住んでいて、2LDKの部屋を与えている。それを上げてマンション化しよう。奉公人なので部屋は1Kでいいだろう。あ、そうなると食堂も必要になるか。まあ、作ってみてだな。


「うん。いいと思う。あ、談話室みたいなの作ってよ。お茶飲みながら話したいし」


「まあ、娘はしゃべるのが好きだしな。わかった」


 ついでだから男子寮も作っておくか。工場からバカみたいに魔力が流れてくるからよ。


「あと、カナハは泳げるようになったか?」


「うん。対岸までいって帰ってこれるくらいには」


 はぁ? 対岸までって、少なくとも三キロはあるだろう。泳げるようになれとは言ったが、遠泳できるようになるまでなんて言ってねーよ。なんのアスリートだ、お前は!?


 なんだかカナハが脳筋に育ちそうで怖い。ちょっと教育法を変えないと重大な失敗をしそうだわ。


「そのくらい泳げるなら充分だ。あとは海で練習だ。午後までは軽めの訓練をしておけ」


 休めと言っても休まなそうなので軽めと言っておく。まあ、他から見たら猛特訓に見えるだろうがな……。


「ハハルも今日はゆっくりと休めよ」


 お前にはたくさん働いてもらうんだからよ。


「なんか嫌な予感がするけど、わかった」


 勘がいいのも素直なのもグッドだ。常識内で進化してくれ。どこぞのブラックな商会の人間のようにはならんでくれ。と切に願います……。

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