第104話 気概
荷物運んでサイレイトさんたちを運んで、工場の使い方を説明して、買い取り金とかの話し合いをしてハイ、終了。あとは好きにやってください。おれは帰ります。さようなら~。
サイレイトさんとはしばらく距離を置こう。今のおれにはあの人に対抗できない。あんな超がつくほどのヤヴァイ職場に入れられたくないわ!
タナ爺のところへ回ると、順調に開拓が進んでおり、ちょっとした体育館を建てられるくらいには均されていた。
「ご苦労さん。行商隊の連中はちゃんとやってるかい?」
元気に斧を振るうタナ爺に声をかけた。
……なにか、筋肉ついてないか……?
前は痩せた老人だったのに、山で修行してる老剣豪くらいの見た目になっている。どんな神秘だよ!?
「おう、旦那。仕事は順調だぜ」
なにか口調までワイルドな感じになってる。どんな進化が起こったよ!?
「あ、ああ。それは助かるよ。なにか困ったことはあるかい?」
「んー。強いて言うなら飯だな。行商隊が作る飯も悪くはないんだが、女将さんの作る飯には負ける」
「まあ、調理器具が違うしな」
薪で炊いているから細かい調整はできない。
「それなら飯場を作るか」
そろそろテント暮らしも辛いだろうし、屋根の下で寝かせて元気に働いてもらうほうが仕事が進むだろう。食事を三食摂るようになってから開拓のスピードが上がったしな。
「タナ爺。タナ爺の家の横に飯場を作るから部屋割りを頼むわ」
「よくわからんが、旦那に任せるよ。部屋割りは任せな」
頼もしい爺様になってくれておれは嬉しいよ。
まだ夕方前だし、時間もかからん。なにより魔力が充実してるので大正時代調の旅館風の建物を作った。
工場に注がれる魔力の一割をおれに流れる設定したので魔力40000など惜しくもない。クックックッ。
「とは言え、掃除が大変そうだな……」
清掃ドローンを作れば問題はないのだが、それだと情緒に欠ける。建物は人が維持してこそ温もりが出る。
それは、ミルテたちがいてよくわかる。やはり家には人がいてこそだろう。
「うおっ!? なんじゃこりゃ!?」
「家がなんで!?」
「どうなってんだ!?」
飯場(?)を眺めていたらタナ爺や行商隊の連中が帰ってきていた。うちは七時から五時までが就労時間なのです。
「今日からここで寝泊まりしてくれ。一人一部屋な」
大部屋で鮨詰めはおれが許さない。プライベートは守られるべき人の尊厳だ。
「だ、旦那、いいのかい? 町の宿より高級に見えるが……?」
この人、行商隊の頭で、名はタイキと言います。
「おれの下で働いてくれる者はおれの宝。富を運んでくれる者にはそれ相応の暮らしは約束する。まあ、働かないヤツは首にするがな」
シメるところはシメておかないと秩序が崩れる。優しい職場は働き者にだけ優しいんだよ。
「毎日腹一杯飯が食えて、酒が飲めて、こんな立派なところに住めるんならおれ、旦那のところで働きてー」
「おれも」
「おれもだ」
見よ、ブラック企業の経営者どもよ。優良企業は働く者から支持を得るのだ。
いやまあ、おれの前世、有給使い切り厳守でサマー休暇まである優しい企業でしたけどね。その有給休暇を満喫中に死んじゃいましたけどね!
「なに言ってやがる。おれらは国に雇われてんだぞ」
「だって頭、その国はおれたちになにもしてくれねーじゃねーか」
「そうだぜ、頭」
「国はおれらを見捨て、旦那は厚待遇で助けてくれたぜ」
「恩を返すなら旦那のほうだぜ」
聞け、ブラック企業の経営者ども。これが働く者の声だ!
「うちで働きたいのなら歓迎するし、家族がいるなら呼び寄せても構わないぜ。仕事はいくらであるからよ」
「だ、旦那、困りますぜ! 国に逆らったら生きていけねーよ!」
「なに言ってる。ここは国の外だぜ。国に手出しはできないし、仮に手出ししてきてもおれが守る。それが雇い主の勤めだ」
これは今生のおれの性格だろう。仲間や手下は死んでも守るって思いはな。
「それに、だ。おれの手下になったのなら荷は朝日あさひで運んでやるし、損害が出たと文句を言ってきたのなら全部おれが払ってやるよ」
刮目して震えよ、ブラック企業の経営者ども。これが優良雇い主の気概だ!
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