第101話 準とか世代とか

 工場から続く道が街道と繋がった。


「ふぅ~。意外と手間取ったぜ」


 荷馬車二台通れる道くらい簡単だと思ってたが、雨が降ってもぬかるみにはまらず、平らに均すのが結構時間がかかり、丸一日かかってしまった。


 たまに現れる魔物も邪魔臭かった。たまたまかはわからないが、鬼猿の群れとかち合い、バラバラに逃げられ、全滅させるのに手間取らされた。


「やはり護衛は必要か」


 玉緒たまおさんのところに預けている少女たちから何人か適した子を連れてくるか。装備で固めたら鬼猿くらいまでは倒せるだろう。


 ……この時代の女の子は逞しいからな……。


 街道を辿り、我が家へと向かう。


「おっ、開拓は進んでいるようだな」


 行商隊の連中にはチェーンソーや斧、そして、パワースーツを渡してあるので、重機並みに森を切り開いていた。


 反対を見れば、なんか西洋風の城が鎮座していた。え? いつの間に!?


 目を擦り、頬を叩く。うん、夢や幻ではありませんわ~。


「どう言うこと!?」


 誰か説明してくれよ!


「あ、タカオサさん。こんちには~」


 フレンドリーになったサイレイトさんが城から出てきた。


「あ、え、はい、おはようさん。なんですか、あれ?」


 スルーできないので単刀直入に尋ねた。


「準機動要塞、第七世代型鬼巌城、トゥルベンガーです」


 そして、単刀直入に答えられた。


「あ、そうですか。ゼルフィング商会は凄いものをお持ちで……」


 としか言いようがない。ごめん! これ以上は無理です!


「アハハ。さすがタカオサさん。このくらいでは驚きませんか」


 いや、メッチャ驚いてるよ! この顔見ろよ。驚き過ぎて表情なくしてんだよ!


「まあ、タカオサさんも充分過ぎるほどのものをお持ちですものね。飛空船やトゥルベンガーを見慣れているわたしでも時代を超越した乗り物には驚きましたもの」


 あなたも驚き過ぎて表情なくしてた口ですか? なんかいろいろすんませんです。


「世界は不思議に満ちてますからね」


 と言うと、なにか目を丸くしたと思ったら吹き出すサイレイトさん。なによ、いったい?


「失礼。ベー様と同じことを言うものですから」


 おかしなことを言ったか、おれ?


「ベー様も大概なお方ですが、タカオサさんも負けてませんな。いや、常識的なだけタカオサさんがマシか。あの方は非常識の塊ですからね」


 従業員に非常識の塊と言われるベーなる者。それに負けてないおれってなんなのよ?


「いずれベー様と会っていただきたいものです。きっと気が合うでしょうよ」


 気が合ったら合ったでなんか嫌だな。非常識の塊な相手となんて……。


「タカオサさん。時間があるなら少し商売の話をしたいのですが、よろしいですか? リュウランさんもお話したいとのことですから」


「それは渡りに船です。こちらも商売の話をしたかったので」


「ふふ。商売が重なるのは吉報の証。楽しみですな」


 商売人と言うか、ゼルフィング商会の人間は恐ろしく感じてしょうがないな。守銭奴を相手にするよりやり辛いわ。


 準だか世代だかの城(?)に入る。


 中は西洋風? な感じで貴族でも迎えるかのように立派だった。


「驚かないんですね」


 にこやかに言ってくるサイレイトさん。細かいところまで見てる人だよ。


「傭兵時代の癖で、なにがどこにあるかをつい見てしまうんですよ」


 ウソではないのでそう言っておく。


「オン商会の方もいらっしゃるんですね?」


 サイレイトさんは西洋風顔立ちで、リュウランさんたちオン商会は、東洋風の顔立ちだ。


「オン商会とは長い付き合いがありますし、ゼルフィング商会はわたし一人だけですからね、寂しいから一階を貸し出しているんですよ」


 そう言うものなのか? まあ、こんな広そうなところに一人は嫌だろうよ。


 応接室的なところに通され、なんとも立派で座り心地のよいソファーに座らされた。


 ……前世の技術にも負けないソファーだな……。


 サイレイトさんが住む大陸は、ここより数百年は先にいっているようだ。羨ましい。


「お酒かお茶、どちらがよろしいですか? うちはなんでも取り揃えてますよ」


「では、お茶で。種類はお任せします。好き嫌いはないのでなんでも大丈夫です」


 好き嫌いを言ってられるほど恵まれた食事環境ではなかったからな。食えるなら雑草でも虫でも食ったよ。まあ、極力食べようとはしないがな。


「では、コーヒーをお出ししましょう」


 コーヒー? って、あのコーヒーか? 似た言葉のものかと首を傾げていたら、本当にコーヒーが出された。砂糖とミルクつきで……。


「苦い場合は、砂糖とミルクを入れてください」


 こんな風にと実践してくれるサイレイトさん。


 わかりましたと、まずはそのまま口にする。うん、正真正銘、コーヒーだわ……。


「お口に合いましたか?」


「は、はい。深みのある美味しい苦さですな」


 別にコーヒー好きではないが、久しぶりに飲むコーヒーは旨かった。前世にも負けてないんじゃないか、これは?


「それはよかった。この島の方にはまったく受けなかったものですから」


 まあ、確かにこの苦さではそうだろう。つーか、そんなものを出すなよ。受けそうなものを出せよ。とサイレイトさんの顔を見て悟る。試されたことに。


「気に入りましたらお土産に用意しますよ。なんでしたらお安くお譲りしても構いません。在庫があり過ぎてどうしようかと思ってましたので」


 そう、だな。コーヒーはそんなに好きってわけじゃないが、コーヒーフロートは結構好きだったりする。カフェならミルテたちも飲むだろうから買っておくか。


「では、朝日あさひに入るだけいただけますか? 他にもあれば買わしていただきたい。なにがありますか?」


 どこにあるかは謎だが、ゼルフィング商会なら不思議はない。こんな準だか世代たかの城をポンと出せるんだからよ。


「そうですね。葡萄酒に小麦、砂糖、お茶各種。布や革、あとは細かいものなので資料を作ってお出ししますよ」


 ゼルフィング商会がマジで怖い。世界を牛耳ってると言われても納得するぞ。


「大麦などはありますか?」


 一番欲しいのはそれだ。あと、ポップがあれば言うことなしなんだが、そこまで贅沢は言わない。


「大麦ですか? それはオン商会に頼んだほうがよろしいでしょう。確か一大生産地があったはずですから」


 そうか。大陸で作ってるのか。ならオン商会に運んでもらおう。


「──遅れて申し訳ありません」


 と、リュウランさんがやってきた。


 では、商談といきますか。

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