第98話 忙しい

 忙しいったらありゃしない。なんなんだ、この忙しさは!?


 いやまあ、自業自得なことで、あさはかな自分が安請け合いしたのが原因なんだが、これほど忙しくなるとは想像もできなかったよ!


 朝日あさひに酒を積むのも人力で、ミルテやハルミにも手伝ってもらい、なんとか積み込めた。


 休む暇なく優月ゆうげつ──の同型版を作り、こちらには村に回してやる酒を積み込んだ。


 本当なら二機でいきたいところだが、おれの能力を誤魔化すためにもまずは朝日あさひで向かい、荷下ろしと積み込みは人馬組じんばくみに任せ、また我が家へと走って戻り、優月ゆうげつに乗って向かった。


 同じく人馬組じんばくみの連中に任せる。


 まずは一段落と安堵したところで、副事官殿が三賀町まで送って欲しいと言ってきた。泊まるんじゃなかったのか!?


「報告をしたら、まだ戻ってくる」


 魔力が~とやんわり断ろうとしたら、リュウランさんが朝日あさひの試乗のついでにと、口を挟んできた。


 いや、もう朝日あさひはあんたのだよ。操縦を覚えたら連れてってやれよ。輸送機を造る施設を築かなくちゃならんのだからよ。


 と断る態度を察してか、今度はサイレイトさんが口を挟んできた。


「わたしも試乗させてください。これはその代金です」


 と、一級魔石を四つも差し出してきたのだ。


 魔力400000弱。この人の感覚、いや、頭おかしいんじゃねーの! なんでそんな簡単に渡せるんだよ!


「あ、お気になさらず。ゼルフィング商会は魔石を安く仕入れられる伝がありますので、このくらいは自由裁量で出せるんですよ」


 どんだけだよ、ゼルフィング商会って!


 いくら大陸全般を担当する人だからって破格過ぎんだろう! どんだけ裁量権を持たされてんだよ、怖いわ!


 とにかく、そこまでされたら断り辛いので了承し、副事官殿御一行とオン商会御一行、そして、サイレイトさんを乗せて三賀町に出発した。


 ってか、サイレイトさん一人なの? 


「ゼルフィング商会は、給料はバカみたいによいのですが、仕事量もバカみたいにあるので、部下なんて連れて歩けないのですよ。フフ。わたし、支部長なのに……」


 なんか乾いた笑みを浮かべるサイレイトさん。ゼルフィング商会の闇は深そうだ……。


 触れたら崩れ落ちそうな感じなので、それ以上は訊かないことにした。


 ……うちは、従業員に優しい商売をしようっと……。


 三賀町所有の土地に降り、そこを発着場に借り受け、副事官が戻ってくるまで軽く均そうと思ったが、せっかくきたのなら三納みのう屋さんへと約束の靴や剣などを届けに向かった。


 リュウランさんやサイレイトさんも用があるとかで、町に消えていった。


 用を済ませて戻ってくると、なんか人が増えてた。しかも、大量の荷物を持って。


「オン商会の者です。タカオサ様の側に支店を置きたいと思いまして」


 すみません。なにを言っているのかわからないのですが?


「タカオサ様とはこれからお付き合いさせていただきたいですからな、近くに支店を置くのは当然です」


「……村に、ですか?」


「いえ、村の外にです。あ、ご心配なく。副事官殿から許可は得ていますし、自分たちの身は自分たちで守りますので」


 魔術士や傭兵っぽいのがいるが、よく引き受けたな? なにもないところだぞ。


「あ、ゼルフィング商会も支部を置かしてもらいますね」


 こちらは一人だが、なんか服装が変わっている。と言うか、まるでキャンプにいくかのような装備であった。ナメてないか?


「ふふ。ゼルフィング商会の者はどこでも生き残れる精神と力がなければ勤まりませんからね」


 どこのサバイバーだよ! とか突っ込みたかったが、乾いた笑みを前になにも言えなかった。ゼルフィング商会は頭がおかしいのしかいないのか?


 副事官殿から許可をもらい、独自でなんとかするならおれがどうこう言う資格はない。好きにしろ、だ。


「遅れてすまぬ」


 と、副事官殿もたくさんの兵士を連れてきた。いや、五十人は連れてき過ぎでしょう!


「これで運んでもらえないだろうか?」


 と、一級魔石を出されたらノーとは言えない。が、一度では無理なので八人乗せ、ピストン輸送。夕方までかかってようやく運び終えた。


 休む暇なくオン商会の操縦士候補にパイロットスーツを着させ、一晩かけてシミュレーションをさせる。


 はぁ~。これでゆっくりできる~と思ったら、村長に兵士たちを寝かせる場所がないと泣きつかれた。


 いや、野営の準備くらいしてるだろうと副事官殿を見れば、村長頼りで野営の道具は持参しなかったそうだ。アホか!


 三賀町、大丈夫なのか? と不安になったが、よくよく考えたら町の兵士が遠征することは滅多になく、しても村に負担を強いるやり方だったっけ。


 遠征しなくてもいいようにと、傭兵文化が開花したのだ、自分たちで持参するなんて考えは湧いてこないか……。


人馬組じんばくみの寝床を提供しろ。交代で寝れば問題あるまい」


「兵士様たちにあんなところで寝かせられるか!」


「あんなところにしている村長のせいだろうが。日頃から人馬組じんばくみの待遇をよくしていればこんなときに困らずに済むんだよ」


 傭兵なんて部屋をもらえるどころか門の外で寝泊まりさせられる。屋根の下で寝れるだけマシだろうが。


「国や村の怠慢をこちらに押しつけんな。自分らで解決しろ。できないのならそれ相応の金を出しやがれ。金も苦労もしたくないならなにもしないで滅びやがれ」


 そんな国や村に従う義理も義務もねーわ。勝手にしろだ。


「すまない、タカオサ殿。費用はこちらで出すのでなんとかならないだろうか?」


 なんとかしてもらう前に自分らでなんとかしろよと言いたいが、謝罪され、費用を出すと言うなら立派なお客様。その望みを叶えましょう。


「費用は金銭八枚。魔石なら四級を三つです」


 お好きなほうでお支払ください。


「暴利だろう!」


 村長が叫ぶ。はい、暴利ですがなにか?


「不満があるなら断ればいい。よく、村長が言ってただろうが」


 クソだと思っていたが、まさに真理だったとは夢にも思わなかった。クソとか思ってごめんよ、村長。


「安くあげたいのなら安く引き受けてくれる者に頼みな。まあ、百人近い者が寝泊まりできる建物を金銭八枚で、それも今日中に建てられる者がいたら、だがな」


 まあ、世の中広いし、どこかにはいるだろうよ。今日中に見つけてくれ。


「いや、それで頼む、タカオサ殿」


 わかる副事官殿でなにより。では、すぐに取りかかりましょう。


 なんて、更に仕事を増やすおれ。過労死……はできないが、仕事で終わる人生になりそうだ。


 悠々自適に、ゆったりのんびり生きてみたいもんだぜ。


 なんて未来を夢見ながら仕事に勤しんだ。

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