第80話 武器庫

 米粉パンの評価はあまりよくなかった。


「美味しいのは美味しいけど、なんか食べた気がしないな~」


 ミルテたちは遠慮して微妙な顔をしていたが、ハハルははっきりと批評してくれた。まあ、食べ慣れたものじゃないしな。


「でも、慣れたら女の人に人気出るかもよ。甘いし、井戸端で食べながらとかやるんじゃないかな」


 この時代におやつと言う概念はない。間食も町でなければ使わないだろう。


「た、ただいま……」


 と、カナハがやっと帰ってきた。


 マギスーツにより息切れは起こしてないが、精神的疲労は大きいようで、言葉少なく席にとついた。


 ハルミが出してくれた水を一気に飲む。


「お代わりお願い」


 ハルミがコップをつかもうとするのを横取りし、万能素材でスポーツ飲料水を作ってやる。


「マギスーツがある程度補助してくれるが、水分と栄養補給は忘れるな。湖を一周するときは栄養水を持っていけ。専用のバリスタを作っておくから」


 あと、準備運動を入念にすること教え込む。


「ほら、朝飯を食え。食うのも休むのもお前の仕事だ」


 パンをカナハの前に置く。あ、牛乳が……ないから蜂蜜入りプラムジュースを出してやる。


「これ、美味しい」


 どうやらカナハの口にパンが合ったようで、食卓に出したパンをすべて平らげてしまった。


「……もうないの……」


 まだ食うのかよ。こいつ意外と大食漢?


「食いたきゃ好きなときに食え。いつでも食えるようにしてあるからよ」


 こいつなら食った分は動くし、マギスーツが栄養調整してくれる。それに、余分な魔力を貯めてくれるから糖尿になったりはしないだろう。


 はっきりとはわからんのだが、生命力と魔力は直結してるのようで、魔力がない状態で食うと魔力に変換されるように感じられるのだ。


「おじちゃん、大好き」


 そうかい。おれもカナハは大好きだよ。その食い物に簡単に釣られるとこ……。


「あ、そうだ。おじちゃん、そろそろ行商隊がくるみたいだけど、なにか仕入れておく?」


「今の時期だと生活物資か。なら、味噌とタバコ、野菜の種があったら買っておいてくれ。それと、村の様子を見ててくれ。人の動きとか開拓の用意とかな」


「わかった」


 そこは、情報収集員のハハルにお任せします。しっかり情報を集めてください。


 朝飯が終わり、カナハはまた訓練に。ハハルは詰め方を再開。ミルテとハルミは縫い物を始めた。


「よし、ハルマ。狩りの準備をするぞ」


「うん!」


 ワクワクするハルマを連れて、地下三階に作った武器庫に向かう。


「なにもないね?」


 階段を下りて、重厚な扉を開けて中に入ると、なにかガッカリしたハルマが呟いた。


「まだ、作ってる最中だからな」


 建物を作るだけで二十万もの魔力を消費した。さすがにそれ以上は消費できないので、人が増えることに用意していくことにしたのだ。


「ここは、武器庫として使うが、武器が揃うまではハルマ専用の訓練所だ。空いている時間に使うといい」


「ここを? いいの!?」


「ああ。ここは、うちの重要施設。って言ってもわからないか。まあ、ここに入れるのはおれかハルマ、もしくはおれかハルマが許可した者しか入れない。だからここのことを秘密であり、信用できない者には言うなよ」


「……入れていいのは仲間だけってこと?」


 ほぉう。そうとらえたか。どう言う思考を経たんだ?


「母ちゃんが言ってた。弱いなら仲間を増やせ。協力し合え。数は力だって」


 ん? それって……。


「母ちゃん、昔から父ちゃんのこと好きだったんだな。父ちゃんから教わったこと、よくおれに聞かせてくれたんだ」


 にへらと笑うハルマ。こいつは心の機敏に聡いな……。


「おれを慕ってくれるのは嬉しいが、死んだ父ちゃんを忘れたり、おれと比べたりするなよ。お前を育んでくれた父親なんだから」




 それではハルマの父親に申し訳ない。同じ男として、新たな父親とし、敬意を示さんとな。


「うん、わかってる。前の父ちゃんも今の父ちゃんも大好きだよ!」


 こいつは絶対、ミルテ似だな……。


「そうか。おれもハルマは大好きだぞ」


 にへらにへらと締まりのないハルマをロッカールームへと連れていく。


「ここは、ロッカールーム。自分の私物を入れて置く場所だ」


 一つを開け、中を見せる。


「まだ中身は空だが、徐々に武器の扱いを教えていくから、武器はここに入れて管理しろ。お前の魔力を登録……はわからんか」


 一度、扉を閉めて、ハルマに取っ手を握らせる。


「今、ハルマが持っている魔力をこのロッカー、物入れに教えた。それを登録と言って、ハルマしか開けられないようにした。こう言うふうにな」


 取っ手から手を外させ、おれが開けてみる。が、ガチャガチャと鍵がかかって開かないことを教える。


 一応、解除の仕方も教え、これがロッカーであることや登録の概念を覚えさせた。


「下着の替えは一番下の棚にある。脱いだのはあそこの箱に入れれば、綺麗にしてまたここに入れられるから、常に清潔にしてろよ。あと、汗をかいたらシャワーを浴びること」


 三日四日と着替えないのが田舎であり、体臭が結構キツイ。前世の記憶が蘇らなければ気にもしなかったが、蘇ってからは無理。常に清潔でいることを心がけよ、だ。


 シャワールームの場所も教え、使い方を学ばさせる。あと、タオルやシャンプーの置場所、ドライヤーの使い方も。


「……父ちゃん、なんか頭痛くなってきたよ……」


 さすがに詰め込み過ぎか? これまでにない概念やら物やらだからな。


「悪い悪い。ちょっと急過ぎたな。明日からゆっくり教えるから、無理して覚えてる必要はないさ」


 何事も慣れ。生活の一部となるんだからよ。

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