第79話 米粉パン

 新しくなった我が家の一階は、居間と台所にした。


 居間はこれと言って変化はないが、台所は完全リニューアル。この世界最高と断言して言いくらいの機能を持った台所になった。


 冷蔵庫は押し入れサイズ。コンロ四つ。レンジとオーブンは全自動。美味しくできあがります。


 調味料のさしすせそは当たり前。ここらで採れるものでドレッシング、ソース、ケチャップまである。香辛料もあるが、まだミルテの腕では使いこなせないので眠っています。


 他にも流し台や換気扇、料理道具は一流レストランにも負けないほど揃えた。いやまあ、これも眠ってますがね。


 そう言うのはいずれ紹介するとして、おれが紹介したいのはパン製造器。いや、正解に言うなら米粉パン製造器か。小麦粉ないし。


 そう言えば、米でパンが作れることを思い出し、二十四斤作れるものと、あんぱん(餡はカボチャね)、コッペパン、メロンパンならぬカボチャパン、ベーグル、ロールパンを一気に作れる米粉パン製造器を作ったわけですよ。


 前世のおれ、朝はパン派だった。


 食パンにハムとレタスを挟み、マヨネーズをかけて食う。そこに目玉焼きにサラダと、女子か! と突っ込みたくなる朝食だったっけ。


 まあ、今生は飯だけで育ったので飯に味噌汁でも構わんのだが、あるのなら食いたい。朝はパンにしたいのだ。


 米粉パン製造器も全自動で、二十四時間パンができあがっており、食べれない分は万能保存庫に保存するように設定した。


 万能保存庫から万能空間へ転送されるので、外出先でも温かい飯が食えるし、どんな飢饉が襲ってこようと飢えることはないのだ、クワッハッハッ!


「ぬ、主ぬしよ。腹が減った。早く朝飯にしてくれ」


 戸の前でヨダレを垂らす翡翠ひすいが抗議の声を上げた。


 まあ、パンの焼ける匂いは食欲を誘うもの(ちなみに、わざと匂いが漏れるようにしてます)。今、頬が落ちるくらいの米粉パンを食わしてやるよ。


 翡翠ひすい用の皿を棚から出し、食パン八斤を入れて蜂蜜をたっぷりかけてやる。


 人には胸焼けする量だが、小山のような翡翠ひすいには茶碗一杯分くらいで、ペロリと完食してしまった。


「美味いのは美味いが、腹には溜まらんな」


 そりゃお前、狛犬は基本、肉食じゃん。血と肉を食ってきた腹がパンで満たされるわけないだろう。ってか、それ以前にパンを美味いと言えるお前の舌が変だと理解しろや。


「パンとやらに肉を混ぜてくれ。あ、肉はひき肉を焼いたやつじゃぞ」


 注文の多いお客さんだよ。ったく。


 それでもせっせと答えてやるのが飼い主の勤め。魔力をたくさん生み出してください、だ。


「回復したのなら魔力は三万いただくからな」


「おう、持っていけ持っていけ。魔力を抜いたほうが美味く感じるし、気持ちよく眠れるからのぉ」


 ……お前、完全にプライドとか放り投げよな。まあ、朝昼晩深夜と魔力がもらえるからいいけどよ……。


 十万以上の魔力があれば優月ゆうげつ朝日あさひの燃料は充分どころかおつりが出るな。


 もう一機、輸送機を作りたいところだが、今後の計画ではアレを作るかも知れんし、なにが起こるかわからない。無駄遣いは止めておこう。利子はつかないが、減りはしないんだからよ。


 食パン八斤の上に、フライパンで炒めたひき肉を盛ってやる。


「……森王鹿もりおうじかか。あのちっこいのはまだ食えんのか?」


「今、体を変えているところだ。もう少し待て」


 餌を変え、環境を変え、食肉に適した体に変えている。十日くらいは続けて完全に変わってからだ。


「コロ猪は簡単に増えるし、いろいろ食い方がある。楽しみにしてろ」


 焼いてよし、煮てよし、ハムやソーセージ、ジャーキーと夢は広がり、内臓とレバーとタンを串焼きを。あー考えるだけでビールが飲みたくなる。


 あ、炭火焼き台を作らねばならないか。そうなると専門の料理人が欲しくなる。町でスカウトするか? いっそのこと、どこかの飯屋を買い取るか? う~ん。悩む~。


「旦那様?」


 なんて考えてたら、コロ舎の掃除を終えたミルテとハルミが戻っていた。


「あ、すまんすまん。考え事していた。朝飯にしようか」


 昨日の夜に改造して米粉パン製造器の扱いも教え、今日の朝はパンにすることも伝えてあるが、パンなど知らないミルテには用意しようもない。


 なので、パンはおれが用意し、ミルテたちの舌に合わないときのために握り飯と味噌汁を作ってもらう。


 用意が整い、朝飯を居間へと運ぶ。


「ハルミ。ハハルを呼んできてくれ」


 おれはカナハとハルマを呼びにいく。


 ハルマはすくそこにいたからよかったが、カナハの姿がどこにも見えなかった。あいつはどこまで走りにいってんだ?


「カナハねーちゃんなら湖を一周するとか言ってたよ」


 一周? って、二時間で一周できるほど小さくないぞ、花崎はなざき湖は。なに考えてんだ、あいつは?


「まあ、いい。好きにさせておくか」


 カナハの年齢と肉体なら鍛えても成長を阻害することはあるまい。マギスーツにも生命維持機能は組み込んであるからな。


「なあ、父ちゃん。おれもカナハねーちゃんみたいになれるかな?」


 ハルマなりに現状を憂いているのだろう。カナハもハハルも遥か先にいっているのだからな。


「なるようにおれが鍛えるさ。十年後、お前が二十歳になったら戦闘隊の一隊を率いてもらい、魔物や人の悪意から家族を守ってもらうんだからな。ただ、お前が違うことがやりたいと言うなら遠慮なく言えよ。お前の人生はお前のもの。お前が望んだことをやれ。おれやミルテの言葉を優先するな」


 おれはおれのために生き、必要とあれば人を騙し、利用し、人生をねじ曲げるだろう。


 ハルマもそうなって欲しい。だが、それは確固たる自分があってこそ。根本に優しさがなければ下衆な人間になってしまう。


 まずは、真っ直ぐ育って欲しい。優しさを知って、矛盾を知って、考えること知って、自分で決断できるようになって欲しい。


「おれ、父ちゃんみたいになりたい! いっぱいがんばるからいっぱい鍛えてくれ!」


 父ちゃんのようになりたい、か。子どもから言われたいことベスト3に入るな。


「ああ。いっぱい鍛えてやるよ」


 ハルマの頭をわしわししてやる。可愛い息子だ。


「さあ、朝飯いっぱい食って狩りにいくぞ」


「うん!」  

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