第78話 新しい家

 その日の夜からせっせと物作り。アレやコレやと作っております。あ──向に減らねーなー。


 なんか、前に感じたストレスがふつふつと湧いてきたが、もう一家の大黒柱。頑張って働けと自分を鼓舞するが、元々物作りに向いている性格ではない。四日頑張るのが精一杯だった。


「……うん、無理……」


 ノミを置き、作業小屋から外に出た。


「……朝日が眩しい……」


 肉体的疲れはないが、精神的疲れはマックス。朝日に溶かされる気分がした。


 こう言うときはビールだと、作業小屋に取り付けた冷蔵庫から缶ビールを出して一気飲み。


「カァーッ! 生き返るぅ~!」


 朝からビールを飲める身分。サイコーである。


 復活した精神をさらに鼓舞するためにもう一杯。今日も元気に戦えるぜ!


「あ、父ちゃん、おはよう!」


 ハルマが家から出てきておれを見つけると、朝日にも負けない笑顔を輝かせた。


 ……そう好意的に父ちゃんって呼ばれると、なんかむず痒くなるもんだな……。


「おう、よく眠れたか?」


 駆け寄ってきたハルマの頭を撫でてやる。


「うん! 眠れたよ!」


 なんとも嬉しそうな顔をする。


 まあ、もうしばらくしたら照れる年齢になるだろうが、照れ臭さが出るまでは撫でてやろう。スキンシップは大切だからな。


「なあ、父ちゃん。おれもカナハねーちゃんみたいに体術を習いたい。教えてよ」


 体術か。まあ、そろそろ教えてもいい頃か。


 ここにきて約七日。肉もついたし、精神的にも安定している。なにより、おれが体を動かしたい。四日間の鬱屈を発散させたいぜ。


「なら、今日はおれと狩りにいくか? 山歩きだからキツいかも知れんがな」


 どうだ? と目で問うと、キラキラお目々がさらにキラキラ。目からビームでも出しそうな勢いだ。


「いきたい! おれ、狩りとかいきたかったんだ!」


「なら、お前用の装備を整えんとならんか。朝飯食ってからいくから朝のうちに葦あしを集めっちまえ」


「わかった!」


 うおおおぉぉぉと叫びながら葦あしが生えるほうへと駆けていってしまった。元気なやっちゃ。


 ハルマの生体データは録ってあるので整えるのはすぐ。なので、一服させていただきます。


 湖畔の丸太に座り、タバコをふかした。


 ミルテやハルミが家から出てきて挨拶を交わし、二人はコロ舎に向かう。


 その後にカナハが出てきて、軽い柔軟体操。朝のマラソンへと出ていった。


 ハハルは出てこないが、中で清酒や蜂蜜酒を瓶に詰め、万能空間へ入れていることだろう。


 ちなみに、村にいくのは午後から。最初の二日は朝にいってたのだが、まだ、魔力売買が広まっておらず、時間を持て余すので午後からにし、村で物々交換をしてもらいながら魔力売買のことを宣伝しているのだ。


ぬしよ」


 と、翡翠ひすいがやってきた。


「どこかいってたのか?」


 作業小屋は、我が家から見て左手。奥に作った倉庫のさらに左だ。犬小屋からくるなら右から。それが左からやってきたのだ。


「ああ。体がよくなったので山を駆けてきたのだ」


 自分で言うように完全回復したようで、翡翠ひすいの体内魔力は四万まで上昇し、総魔力量は十万近くまで膨れ上がっていた。


 ……こりゃ、人がどうこうできる生き物じゃないわな……。


 聖獣の名に偽りなし。駄犬と言ってごめんなさい。


「どうした?」


「そろそろ森王鹿もりおうじか以外の肉が食いたいぞ。鳥か蛇を出せ」


 ったく。グルメモンスターめ。つーか、山にいったなら自分で狩ってこいよ。


「わかったよ。今日、狩りにいくから夜は期待しろ」


「それは楽しみだ。それと、なにか甘いもがあれば出してくれ」


「甘いものって、狛犬が食って大丈夫なのか? ってか、狛犬が甘いものを食うとかなんの冗談だよ」


 野生(?)の生き物が甘いものを求めるとか、ギャグにしか聞こえんわ。


「小さい頃、我を飼っていたものが黒い塊を食わしてくれたのだ。名はなんと言ったかのぉ? くろ? いや、カラだったか? んー思い出せん……」


 だったら用意もできんわ。


「そうだ、お前、パンは食ったことはあるか?」


「パン? 甘いのか?」


 どうやら知らないようだ。まあ、パンなんて大陸でもそうは食わないって話だしな。


「今日の朝に食わしてやるよ」


 ニヤリと笑う。おれの苦労……はしていけど、夜なべの成果を見るがよい。


 タバコを吸い切ってから家へと向かう。


「ん? なにか大きくなってないか?」


 後ろをついてきた翡翠ひすいが疑問の声を上げた。


「ふふ。気がついたか」


「いや、気がつかぬほうがどうかしてるわ。軽く倍になっておるじゃろう。って、なぜ我は気がつかんかった!?  どうなっておる!?」


 戸惑う狛犬とか写真に納めておきたいぜ。きっと子孫も大爆笑だろうよ。


「おれの力だ」


 元々、万能素材の家。増やすも減らすも自由自在。靴屋に現れる小人より静かに仕事を済ませるぜ!


「会ったときから非常識なヤツだとは思っておったが、ここまでとはな……」


 非常識なのは万能変身能力。ってか、神様がくれた能力。おれ自身ではないからね。


 転生者とは語ってもさすがに神様のことは信じんだろうから黙っておく。おれも上手く説明できんしな。


「ちなみに、新しい我が家は、地上二階。地下四階。風呂トイレ付きだ」


 もちろん、これで完成ではない。少しずつ増築していく予定だ。乞うご期待あれ!

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