第77話 カボチャ

 詰め込まれた荷物が想像以上にあり、昼になっても片付けられなかった。


「量、多すぎだよ」


 海竜(仮)騒ぎがなかったらどれだけの量になってたんだよ。六原屋さん、頑張り過ぎだわ。


「おじちゃん、お昼だよ」


 鉄屑を万能スーツに吸収して砂鉄化させてると、割烹着のようなものを着たハルミがやってきた。


「あいよ。今いく」


 万能スーツに吸収した分を出して家へと向かう途中、倒れているハハルとカナハを回収する。どうやら激闘だったようだ。


 二人のスーツの設定を解除してやり、家へと上げる。


「食欲はあるか?」


 微かに動くものの、食べる食べないの反応はなし。カナハはともかく、ハハルはそんな熱中するタイプだったっけ?


「ねーちゃんたち、なんか罵り合いながら訓練? してたよ」


 ハルマが疑問系で教えてくれた。


「まあ、姉妹とは言え、溜め込むものがあったんだろうよ」


 倒れるくらい肉体で語り合ったんだ、そう遺恨になることはないだろう。そこは似てるからな、この二人は。


「こいつらは気にせず、先に食っちまおう」


 ミルテたちは困惑してたが、おれの言葉に従い昼飯を食い始めた。


「そうだ、ミルテ。花原でカボチャ作ってたよな?」


 確か庭先で作っていた記憶がある。


「う、うん。冬越し用に育ててたやよ」


 冬越し? そうなの? おれ、冬にカボチャなんて食ったことないぞ。


 冬と言えばコロイモだった。集落で違うのか?


「十年前くらいかな? 大陸から渡ってきたカボチャで、そう手間がかからないから植え出したんだよ」


「でも、西崎では見たことないぞ?」


 今でもコロイモのはずだ。


「集落ごとに作るのは決められてるんだよ。花原ではカボチャと瓜って」


 ほ~ん。ちゃんと決まってるんだ。やはり村に住んでないとわからないことがあるんだな。まあ、そこまで気にしてる余裕もなかったしな。


「じゃあ、カボチャの作り方は知ってるのか?」


「う、うん。嫁の仕事だって母さんから教えられたから」


 自分の母親は母ちゃん。義理の母親は母さんと呼ぶ風習なんだよ。


「畑、作るの?」


「ああ、作る。だが、建物の中で作るから二人は農作業しなくてもいいよ」


 二人は首を傾げているが、口で説明してもわからんだろうから実地で教えるとしよう。


「ミルテはカボチャを使った料理はできるか?」


「煮付けと団子なら」


 二品だけか。まあ、調味料も他の食材も少なければそんなものか。ないない尽くしは辛いな。


「食材もないと料理の数も増えないし、ミルテとハルミには縫い物を頼むよ。必要と思うものを作ってくれ」


 万能素材で作れはするが、服とかは女に任せるのがベスト。男が下手に口出すものじゃない。


「あんちゃ──じゃなくて、旦那様。針や糸、ハサミが……」


 無理に旦那様じゃなくてもいいんだぞ。


「荷物を片付けたら生活に必要なものを教えてくれ。一人暮らしが長かったおれにはよくわからんからよ」


 ないならないなりに生きてきた男。気づけと言うほうが悪い。


「わかった」


 ってなことを話ながら昼飯をいただき、食休みしてから片付けを再開させた。


 それから二時間くらいかけてコンテナの中身が空となった。一人だと思うように仕事が進まんわ……。


 タバコ休憩してから家へと戻ると、まだカナハとハハルが潰れていた。お前らどんだけ死闘を繰り広げたんだよ!


「ミルテ。話があるからちょっといいか? ハルミもだ」


 アホな姉妹は放っておくとして、働き者な母娘を呼ぶ。


「うん。ちょっと片付けちゃうね」


 あいよと答え、家へと上がる。


「……お、おじちゃん、体が動かないよ。助けて……」


 動く屍のように訴えてくるカナハ。ハハルは完全に屍だな。


「お前ら、休憩しないで続けただろう?」


 微かな声で「うん」と返事した。


「だろうな。魔力涸渇は体からの悲鳴だ。それ以上は無理するなってな。それを無視してやると命が縮む。下手したら死ぬ恐れがある。マギスーツを着ていたからその程度で済むんだ」


 解いたのはそれを教えるため。しっかり学べ。


「まあ、最近、よく食べてよく眠っているから体には力が溜め込まれている。無理して動こうとせず、体と心を楽にして、心臓の音を感じながら回復に集中しろ。お前ならすぐ動けるようになるから」


 おれの言葉に従い、体の力を抜いて、赤ん坊のように丸くなった。


 ……こいつなら、本当にすぐ回復しそうだな……。


「ハハルは、たんなる体力消耗と筋肉疲労だ。苦しみながらアホな自分を呪え」


 ハハルの場合は、口で言うより経験させたほうがしっかりと学ぶ。いい意味でも悪い意味でも実践派なヤツだからな……。


「…………」


 なにか言っているようだが、なにを言っているかわからないので無視します。自力でなんとかしなさい。


 玄米茶を飲みながら、ミルテとハルミがくるのを待った。 

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