第81話 バトルスーツ

 ハルマには戦闘を担当してもらうので、バトルスーツを与えることにする。


 だが、まだまだ戦闘のイロハを知らないハルマには宝の持ち腐れ。まずは生命維持機能と防御力だけを付与した。


「……な、なんか、ぬるま湯に入ってる感じがする……」


「それがお前を守る秘密だ。それは衝撃を吸収して拡散……って言ってもわからんか」


 田舎で使うような言葉じゃないしな。


「口で説明するより、やってみせたほうが早いか」


 万能素材で一メートルくらいの棒を作り出す。


「ハルマ。腕を前に伸ばせ」


「う、うん」


 疑問に思いながらも素直に従い、腕を前に伸ばした。


 棒の先をハルマの手首に乗せる。


「棒が当たってる感覚はあるか?」


「う、うん。でも、強く押されてるのかわかる。な、なんなの、これ?」


 なのに耐えられていることが不思議なんだろう。


「それがバトルスーツの力だ。今度は叩くぞ」


 返事を待たずに三十センチほど振り上げて、すぐに振り下ろした。


 バチンと痛々しい音が響き渡った。


「ふぇっ!? え? あれ?」


 音にびっくりしたが、打たれた場所から痛みがこないことに不思議がっていた。


「今のは狼を叩き殺せるくらいの力を込めた」


 事実、そのくらいの力は込めたし、ハルマも凄まじい音で納得しただろう、当てられたところとおれを交互に見ていた。


「それを纏っている限りは狼の群れに襲われても平気だ。だが、抵抗はできないからおれから離れるなよ」


「……う、うん、わかった……」


 理解してくれてなによりだ。と頭を撫でてやる。


「次はこれだ」


 と、ハルマの体に合わせた狩り用の魔銃を作り、渡した。


 子どもにいきなり? と非難されそうだが、ナイフを渡している時点で言えよって話。今の時代は武器は身近な存在。忌避など感じるのは生きることを止めたヤツだけだ。


「今日の獲物はカグナ鳥だ。知ってるか?」


 基本、三賀町さんがまち周辺で、天敵が多い内陸まで飛んでくることはないが、まったくないってことはない。


 人の手から逃れ、餌を求めてやってくる場合もある。


 おれも子どもの頃、渡ってきたカグナ鳥を何度か狩ったことがあり、仲間たちと食ったものだ。


「う、うん。前に狩ったことがあるよ。弓矢で」


「弓矢なんてよくあったな」


 おもちゃ程度の弓なら作れるが、狩りをしようとする弓を作るには技術がいるものだ。


「たぶん、父ちゃんが作ったものじゃないかな? 秘密の抜け口のところにあった隠し穴に入ってたものだから」


 あ、あー。確かに入れてた記憶があるな。狩人の爺さまに無理言って作ってもらったやつ。あれを使ってたのか。


「矢はどうしたんだ?」


 弓は入れた記憶はあるが、矢を入れた記憶はないぞ。


「母ちゃんに教わった。昔、父ちゃんが教えたんでしょう? 割れ石から鏃を作ったり、鳥の羽で風切り作ったりってこと?」


 そ、それも記憶にある。


 小さな子どもにも分け前を与えるために、物を集めさせ、作り方を教えたのだ。


「……ミルテのヤツ、よく覚えたな……」


 もう何十年も前のことなのに。


「あの頃、父ちゃんがいなければたくさんの子どもが餓死してたって言ってた」


 そう、だな。あの頃は戦争が起こるとかで、米はほとんど持っていかれ、行商隊も一月に一回こればマシなほう。食う物もなく、否応なく村の外に出て食い物を探さなければならなかった。


 命の優先は働き盛りの大人から。年寄りや子どもは後回しにされ、他の集落では何人もの餓死者を出したものだ。


「父ちゃんたちが村の外で食い物を集めきてくれた話を聞いて、おれもと思って、集落の子どもと協力しようとしたけど、全然上手くいかなかった……」


 しゅんと項垂れるハルマの頭に手を置く。


「おれだって最初から上手くいったわけじゃないし、すぐ上の兄貴がいて、仲良しだった友達がいたからさ。一人だったらなにもできず、今のハルマのように項垂れていたよ」


 兄貴とは馬が合い、気の合う友達がいて、慕ってくれる妹たちがいたからだ。おれだけの力じゃない。


「元々おれは器用貧乏で、上に立つような性格じゃなかった」


 あの頃のリーダーは兄貴で、おれは参謀役。縁の下の力持ちタイプだ。


 兄貴は、ガタイのよく力持ちで愛嬌もあり、兄貴が大丈夫と言えば不思議な安心感があったものだ。


「傭兵時代も団長や仲間に恵まれ、皆に助けられて生きていたものさ」


 団長も兄貴と同じで、不思議な魅力を持ち、仲間たちも気のいいヤツらだったっけ。


「……こうして考えると、おれは運がよかったんだな……」


 三つの能力より、人に恵まれたことで生き残れたことがよく理解できたよ。


「やはり、仲間集めは重要か」


 引退した団長は無理でも昔の仲間はまだ傭兵をやっているはす。野良傭兵団だから誘えばくるはずだ。


 それにハルマにも仲間を作って、一緒に育てたほうがいいかもしれんな。


「……父ちゃん……」


 おっと。我を忘れて考え込んでしまったわ。まずはハルマと狩りだ。ここ数日のストレスを発散させてからだ。


「悪い悪い。じゃあ、魔銃の扱い方を教えるな」


 扱い方の他にルールも教えてから、朝日あさひでカグナ鳥がいる地へと向かった。

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