第75話 改造

 さて。気持ちを切り替えて今日のお仕事といきましょう。


「カナハは魔法の訓練。ハルマは葦あし集めと釣り。ミルテとハルミはコロ猪の世話と料理だ。あと、午後から裁縫を頼むかもしれんが、それは様子を見てからにする。ハハルはおれと明日から村でやる用意をする」


 言って皆を見ると、うんと頷いた。


「よし。今日も旨い飯を食うために頑張るぞ」


 おれの号令で皆が動き出した。


「おじちゃん、村でなにやるの?」


「基本は魔力買い取りだが、売りもする」


 売り? と首を傾げるハハルにおれはそうだと頷く。


 まずは作戦会議だと、丸卓に魔力吸い取り板──ってのダサいな。よし、機能を追加してマギレットと命名しよう。


 ……心を抉る突っ込みはしないでくださいね……。


「これをマギレット。兄貴んとこで見せたものにいろいろ機能を追加したものだ。使い方は覚えているか?」


「ん~。なんとなくしか覚えてない」


 まあ、自分の人生をかけた場面だったし、しょうがないか。


「じゃあ、最初からだ」


 と、マギレットの扱いを教える。


「魔力100で銅貨一枚と交換が基本だが、他の物でも支払えるようにする。村じゃ金なんて使う機会がないからな。ハハルも金を見たのなんて数えるほどだろう」


「う、うん。確かに滅多に見なかったな~」


「だから、村の連中には魔力で買い物をさせるわけだ。魔力なら誰でも持っているし、体力と同じで、飯食って寝れば回復する。乱暴に言えば生きてるだけで物が買えるわけだ」


 村では魔力売買のほうが受けるとおれは思う。


「で、だ。村の連中が魔力を売るように仕向ける商品を売る、ってことなんだが、村の連中の魔力だと毎日利用するってことは無理だ。全魔力を、となると貧血みたいになるからな」


 慣れてない者にやったら祟りだとか、病気だとか悪いほうに取られる恐れがある。だがら、用心のために全魔力を吸い取らないように設定はしてある。


「村の連中が二日に一回は利用できる商品を置ければいいんだが、なにかあるか?」


 酒は間違いなく売れるから置くとして、酒だけでは村の連中は釣れない。女子どもも利用できて、利益をあげなければならない。


「あと、これは例なんだが、魔力100で買えるとして、利益は60。原価と手間賃で40だと、まあまあの儲けだな」


「つまり、40の商品を用意しなくちゃならないってことなね」


 学のない娘がそれだけ理解できれば天才級だな。


「60から20がお前の儲け。40がおれの儲けだ」


 その意味もわかったようで、目と鼻の穴を大きくさせた。


「お前が稼げば稼ぐほど、魔力は貯まり、優月ゆうづきの、正解に言えば、冷蔵庫の中身が充実するわけだ」


 さらに目と鼻の穴を大きくさせた。気持ちはわかるが、女としてどうかと思うぞ……。


「魔力は訓練次第で伸びる。最初は少ししか取れないが、もし、村の連中が20になったら、30になったら、利用回数は増えるし、儲けも増える」


 それが村に広まればおれの計画通り、となるのだが、拒否されたりするかも知れないから、慎重に、だ。


「酒以外で村で売れるもはなにかな? 見せ金として鉈や布とかもいいと思うんだがよ」


 村での商売は布石でありハハルの訓練でもある。多少の損が出ても構わない……のだが、どうせなら儲けは出したい。う~ん悩むな~。


「なら、貸せばいいんじゃない」


 貸す? どう言うことだ?


「村で大変なのは水汲みなんだよね。まあ、水汲みはカナハの仕事だからあたしはもうやってないけど、小さい頃はやってたからその苦労は知ってる。何度魔術でできたなら~って思たよ」


 言われてみれば確かにそうか。おれも水汲みは嫌だったっけ。


「おじちゃんなら井戸から水を汲む道具とか作れるんじゃない? それをリヤカーで運ぶ。それを魔力20で貸し出す。毎日のことだから結構な儲けになるんじゃないかな?」


 ほぉう。おもしろいこと言うな、こいつは。


 数日前まで田舎の小娘だったのに、おれと暮らし町に二日いっただけで、そこまで考えつくとは、やはりこいつは商売の才能があるぜ。


「よし。ハハルの案を採用しよう。まずはそう言う道具があるんだよっと知らしめろ。そうだな。なにかこう言う魔道具があるんですよと宣伝すればいいかもな」


 デモンストレーション的なやつをさ。なにがいい?


「おじちゃんってさ、薬も作れたよね。前にじいちゃんに腰に塗る薬とか持ってきたでしょう?」


「あ、ああ。傭兵時代に作り方を教わったからな」


 おれがいた傭兵団はなんでも屋。討伐もすれば護衛もする。薬師に頼まれての薬草採取もあり、作るののも手伝ったものだ。


 今は万能さんがいるから大抵のものは作れるだろう。さすがに不老不死は……作れないことにしておこう。自己規制だ。


「魔道具より薬のほうが売れると思うな。あと、薬湯も人気出ると思う。カナハほどじゃないけど、女の人たちは風呂に入りたいって、よく言ってるからね」


 ほうほう、なるほどなるほど。おれが思う以上に商売のネタがありそうだ。


 どう言ったものかをハハルに聞きながら万能さんに作ってもらう。素材があるので安くできそうだ。この国、って言うか、この島、予想以上に薬草の宝庫なのかもしれんな……。


優月ゆうげつで作れるようにするから、欲しい者がきたら出してやれ。ただ、効果や効能が高いものは高いから、値段の説明はよくしろよ」


 もし、対処できないときはおれに連絡することを取り決める。


 他にも洗濯用石鹸や蜂蜜、出汁粉やみりんと言った調味料も人気があることを聞き、それらも用意する。


「なんか、移動販売車になってしまったな」


 そう言う商売も考えておくか。国の下請けたる行商隊がくるとは言え、さすがに冬はこない。そこを狙うのもいいかもな。


 まあ、それも後々だ。


「よし。優月ゆうげつを改造してみるか」


 いっそのこと移動販売車に仕立てよう。ダメなら変えたらいいだけらなんだしな。

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