第74話 家族4
朝飯は滞りなく終了しました。
皆で食後のお茶をいただくが、会話はなし。ハハルとカナハは我関せず。ハルマは満面の笑み。ハルミは戸惑い。ミルテは恥ずかしそうに俯いている。
うん。これはおれがどうかしないとならない状況ですね。わかってますって。
とは言え、どう切り出したものか。おれ、考えろ!
「ミルテ」
「──はいっ!」
優しく呼んだつもりが叱咤されたように返事された。が、慌ててはならぬ。平常心平常心。
「改めて訊く。おれの妻になってくれるか?」
ついてくると言ってくれ、肉体を重ねたが、こう言うことははっきりさせておくべきだろう。あと、前世三十六年+今生三十六年独身だった男に気の利いたことは求めないでください。これが精一杯なんです。
「……はい。あたしでよければ……」
「ああ。お前がいい」
子どもたちの前でこっ恥ずかしいが、ここは男として威厳と誠実さを見せるとき。毅然と構えろ、おれ。
「……はい。よろしくお願いします……」
体中の血が顔にきたかのように真っ赤になりながらも、おれを見ながら答えてくれた。
ありがとうと、ミルテの手を握り締めた。
それで、めでたしめでたしと終わってくれたらいいのだが、これはまだ序章。本編はこれから。ミルテの手を握り締めたまま、皆に目を向けた。
「そう言うことだ」
どう言うことよ? とかハハルなら言いそうな気がしたが、いいんじゃない、ってな感じだった。
「じゃあ、おじちゃんは父ちゃんになるんだな!」
ハルマが一番喜んでいるが、葛藤とかないんだろうか? 突然現れて、今日からお前の父親だ、とか言われたらおれは百パー戸惑うがな。
「まあ、ハルマの呼びやすいように言ってもらって構わんのだが、本当に父ちゃんでいいのか? 無理に言うこともないんだぞ」
「ううん! 父ちゃんがいい! おれ、父ちゃんみたいな父ちゃんが欲しかったから!」
ハルマの父ちゃん像がいまいちわからんが、嫌じゃないのならそれで構わんさ。おれの中では戸惑いはあるけどな……。
「あ、あたしも父ちゃんって呼びます! いえ、呼びたいです!」
「あたしは、おじちゃんでいいかな~?」
「あたしも~」
クールな姉妹にまで求めてはいないよ。つーか、お前たちはほんと頼もしいよ!
「好きなように呼べ」
お前らを引き取ったときから家族なんだからよ。
「……あ、あたしは、旦那様って呼びたいです……」
と、ミルテがおれを見ながら小さな声でそう言った。
旦那様、とはまた高級な呼び方を望むな。そんな呼び方、町の商家級でもないと呼ばないぞ……?
「え、あ、ああ。ミルテの好きなように呼んでくれ構わないよ」
「はい!」
となぜか嬉しそうに笑った。女心は要勉強だな。
「それで、だ。こうして家族になり、団結するためにも家名をつけたいと思う」
意味がわからないと、皆さん?顔。そりゃそうだ。家名なんて村では村長だけだし。その村長に家名があることを知る者も少ないだろうからな。
ちなみに、花木が家名です。花木家が纏めるから花木村ってことだ。
「お前たちは、まだ村に名前があるだろうが、おれは半分だけだ。もしかしたらもう排除されてるかもしれない」
おれはどちらでも構わないがな。もう村に依存することないしよ。
……まあ、逆は狙ってるけど。ククッ……。
「家名を持ち、ここを開拓し、人を集め、おれたちの土地とし、いずれは支配する」
もちろん、ここは西の国と呼ばれた皇王支配の国。だが、皇王が支配するのは土地ではなく人。都、町、村と言った、人が住める領域。他は知らんと、外では国の法は届かない。いや、関知しないと言っているようなものだ。
自分の土地だと言ったら責任が生まれる。管理を求められる。守ることを強制される。そんな魔物が住む地では不可能。ならと、国は流通で統べる。人の領域を結ぶことで支配しているだ。
まあ、それが細部にいき渡る、なんてことは夢幻だが、流通がなければこの国では生きられない。自給自足できるところなどないのだからな。
「カナハは魔法で統べる。ハルマは武力で統べる。ハハルは商いで統べる。ミルテとハルミは家を統べる。恐れることはない。お前の後ろにはおれがいる。おれを信じろ」
胸を張って皆に言う。
「だが、慢心はするな。傲慢にはなるな。人を蔑むな。だが、人は敬え。多少の嘘や誤魔化しは使っていいが、人を不幸にする嘘や誤魔化しはするな。おれたちはいろんな手段を使って人を豊かにする。生きててよかったと思わせる。だから、おれについてこい。おれはお前らに恥じぬ家長となる」
これは家族への願いであり、おれの決意。宣言だ。このクソッたれな世界を変えてやる!
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