第73話 家族3
朝です。清々しい朝なのです!
とまあ、元気よく朝を迎えらたのは何年振りだろうか。あれはまだ十八、九の、まだ蝶をしらない……って、そんなモノローグはいらないんだよ。
今は、横で幸せそうに眠っているミルテをどうするかが重要だ。
なんと言うか、後悔はないし、照れる歳でもない。男と女。誰に憚ることのない関係で、どちらも求め、至極当然の流れが起こったまで。なんら不都合はない。
だから、ドンと構えればよいのだが、前世の記憶が戸惑いを受け、今生のおれにまで動揺させているのだ。
と、後ろで砂を踏む音がした。
「……おじちゃん……」
そして、カナハの声が上がる。
「もう少し眠らせてやってくれ」
「わかった」
すべてを悟ったような感じで返事をするカナハ。あとは任せた。
ハルマやハルミも起きてきたようだが、カナハがそれぞれの仕事を指示すると、素直に従った。
二人もなんとなくは察し、そう言うことがあるとはわかっているのだろう。田舎の性教育は日常から学ぶからな。
まあ、これも性教育だと割り切り、胸で眠るミルテの温かさを感じる。幸せとはこう言うことなんだな……。
そんな幸せもミルテの目覚めで終了。自分がどこにいるかわからず、戸惑いを見せたが、徐々に思い出してきたようで真っ青になり、顔を上げたと思ったら真っ赤になった。
「……あ、あんちゃん……?」
「おはよう。よく眠れたか?」
「…………」
益々真っ赤になるミルテ。いや、そこまでなるものか? 生娘ではあるまいし……。
バッと立ち上がると、脱兎の如く走り去ってしまった。
あまりのことに反応できない。え? この後どうしろと?
ま、まあ、追いかけてもミルテが恥ずかしがるだけだろうし、話にもならないだろう。まずは時間を置くとするか。
体は綺麗にしたが、体と心はまだ火照っているので、湖に入って冷ました。
五月くらいの気温なので湖の水温は低いが、この体にはちょうどいい。ちょっくら一泳ぎするか。
……真っ裸で泳ぐなんて久しぶりだな……。
ガキの頃は村を抜け出して、皆と泳いだものだ。
体が冷えてきたので湖を上がると、ハルマとカナハが不思議そうな顔をして立っていた。
「どうかしたのか?」
魔力で水を弾き、万能下着を纏い、万能スボンと万能上着を羽織る。
「おじちゃん、今のなに?」
なにか不思議なものを見たかのようにハルマが尋ねてくる。すまん、なにを問うてるのかわからんのだが?
「魚みたいに泳いでた」
ん? え? もしかして、水泳を知らんのか?
「今の子は川で泳いだりしないのか?」
ハルマとカナハが見詰め合い、首を傾げ合った。どうやらないようだ……。
「マジか。おれが知らないだけで、村の暮らしはよくなってたのか?」
昔は、集落毎に縄張りやルールを掻い潜りながら食い物を集めたもんだがな。
「お前たち、食える山菜とか山の歩き方なんて……知るわけないか……」
カナハは生きるための心構えや体術は教えたが、そう毎日これるわけでもないので、山菜なんて村との間に生るものしか教えてなかった。
ハルマに至っては、教わる者もいなかっただろう。前の芝刈りを見ただけでわかる。よく生き残れたなってレベルだったし。
「……お前たちには、基本から教えないとダメかな……?」
う~ん。悩ましいところだな。
この二人は、おれの計画の核になるから、いろんな教えたい。が、この歳ならではのことも教えておかないと、後輩を教えるとき支障が出そうな気がする。
「まっ、それは後々だ。朝飯にするか」
あれもこれもと詰め込むのも教育に悪い。おれの体は一つ。やれることを一つ一つやってくしかないか。
皆で家に向かうと、ハルミがオロオロしていた。
「……おかあちゃんが変なの……」
ハルミはそう言うのに鈍いのかな?
「ミルテさんも案外ウブよね。あたしがみてくるわ」
と、ハハルがそう言って外に出ていった。
「ねーちゃんのあの図太さだけは真似できないよ」
感嘆と呟くカナハ。お前もなかなかと思うが、ハハルは頭二つくらい飛び抜けているのは確か。今はその図太さに託そう。
「……おじちゃん……」
そんなすがるような目を向けられても困る。当事者からは上手く言えないよ。
「ハルミはあたしに任せて。上手く説明するから」
そう言ってハルミを外に連れ出していった。
おれの姪っ子が頼もしい。あれは、誰の血からきてんだろうな?
女は女に任せて、おれはハルマをなんとかするか。
「ハルマ。お前の母ちゃん、おれがもらっていいか?」
なんとかすると言いながら、これと言って言葉は浮かんでこない。なので、率直に言うことにした。伝わるかはちょっと心配だが。
「うん! 母ちゃんをもらって!」
どうやらハルミと違ってハルマはわかっているらしい。スゴい十歳児だ。
「ありがとな」
前世では三十六年経っても結婚できず、今生も三十六年ずっと独身だった。
結婚する妄想は数知れず。いろんなシミュレーションしたものだが、さすがに子持ちと結婚するまでは考えなかった。いや、想像だにもしなかった。
よくよく考えれば、反対される状況もあったのに、まったく考えもせずにハルマに訊いてしまった。
それがこうして笑顔で肯定してもらった。なにか、胸に込み上げるものがあるぜ……。
ハルマの頭をわしわししてあると、ハハルに連れられたミルテと、カナハに連れられたハルミが戻ってきた。
「朝飯にしよう」
家に上がり、ハルミかハハルが用意してくれた朝飯をいただいた。
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