第69話 海竜(仮)
なにやら騒がしいのが増してきた。
傭兵所から怒号が響き、人の魔力や気配が戦場のようにピリピリとしている。
「なんでしょうね?」
さすがに只事ではないと感じたソウタさんが、中へと入っていった。
おれもといきたいところだが、この傭兵所には所属してない身としては、縄張りを荒らすことには控えるべきだろう。
傭兵にも矜持があり、余所者に場を荒らされたくないものだ。町のことは町の傭兵に任せるのが一番。それが流れの傭兵団の処世術だ。
それに、町には兵士もいる。まあ、何人いるかまでは知らないが、町の治安や防衛は兵士の仕事。傭兵はあくまでも補助の立場だ。
まあ、言うまでもなく、建前は、だが、二つの武力があるなら余所者が口を挟む必要はない──が、情報は集めておこう。三賀町は重要拠点の一つなんだからよ。
以前、放っていた偵察ドローンを港に向け、傭兵所へと入る。まだソウタさんからコロ猪の受け渡しが終わってないんですけど~ってな理由を盾にして、な。
傭兵所は、ちょっとした野戦病院と化していた。
怪我の多い傭兵は共同で金を出し合い、医師や薬師を囲っている。なので、一般人でも怪我をすればだいたい傭兵所に運ばれるのだ。
……格好からして船乗りと漁師が多く、大陸の商人っぽいのが複数名。あと、革鎧の男たちは傭兵か……?
下っぱの傭兵や職員と言うか、雇っている者たちが怪我人を介護し、医師と薬師の男たちが治療をしている。
魔法や魔術がある世界なら回復させるものがあってもいいのに、なぜかない不思議。不便な世界だぜ。
邪魔にならないよう隅のほうに立ち、どうしたもんかと考える。
前世の感覚や計算では、ここで助けて恩を売ると言う考えが浮かぶが、今生の感覚と計算では黙って見ているほうがいいと語っている。
前世の考えも今生の判断も、利点があれば欠点もある。すべての命は助けるべきだと言う前世の良心。助けたことによる問題が出るとの今生の判断。どちらも間違ってないが、どちらも正しい答えではない。
青臭い正義感を否定はしないし、思うがままに貫けばいいと思う。一人を救って大勢も助ける。カッコイイと思う。やれるのならぜひともやって欲しい。
……おれはヒーローに向かんな……。
心の中で自嘲し、手を出さないと決断する。まずは、大切な者から救え、だ。
静かにその場から去り、手頃な薪束の上に座り、タバコをふかした。
しばらくしてソウタさんが戻ってきた。
「
「海竜かい。そりゃ厄介だな。退治はされたのかい?」
「小さいのは一体は倒せたそうですが、二回りほどデカいのに苦戦しているそうです」
ほぉう。一体は倒したとはスゴい。魔銃の成果かな?
「まあ、倒せるなら時間の問題だな」
「それがそうでもないようで、町も傭兵団も苦慮してました。もしかすると港は封鎖されるかもしれません」
マジか!? いや、考えられるべき事案だったわ! マヌケか、おれは!
「ソウタさん、コロ猪をリヤカーに積んでおいてくれ。あとで取りにくるからよ。なくなっていたらおれが運んだと思ってくれ。代金と手間賃だ」
コロ猪の代金が入った巾着と銀銭一枚をソウタさんの手に握らせた。
「不知火しらぬいさん!?」
さすがに銀銭一枚は破格とは思うが、ソウタさんとは長い付き合いになりそうな予感がする。先行投資と思えば安いほうだ。
「またな!」
挨拶して傭兵所を飛び出した。
「ハハル!」
と通信を繋ぐ。
「おじちゃん!?」
すぐにハハルの声が返ってきた。
「今、どこにいる? 港か?」
「う、うん。なんか大きい魚が現れて、六原屋さんの倉庫の前にいるよ。荷物は積んだけと、大きい魚が暴れて
お、それはラッキーな展開。なら、少しずつ遠ざけるとするか。
自動航行をオン。万能さん、よろしく。
「輸送機は気にするな。あれは丈夫だから。そこから大きい魚とやらは見えるか?」
「ううん。奥のほうにあるから見えない」
「そうか。背負子は背負ったままか?」
「うん。背負ってるよ」
「近くの者に華絵屋はなえやの倉庫がどこにあるか聞いて、そこにいけ。そこを管理している者にタカオサから頼まれたと言って背負子を渡せ。背負子は必ず倉庫に置くことを絶対に伝えろ。わかったか?」
「え、えーと、華絵屋はなえやの倉庫にいって、そこの人に背負子を渡す。あと、背負子は必ず倉庫に置けと言うのね?」
「そうだ。さすがハハル。帰ったらプリンを二つ追加してやるからな」
「うん! おじちゃん大好き!」
おれもプリン二つで働いてくれる姪は大好きだよ。
通信を切り、路地裏へと入り万能スーツへと変身。屋根へとジャンプする。
屋根を走りながら万能空間から
吸魔弾は十一発。並みの魔物なら充分──なんて考えしてたからデクで失敗したんだろうが。なので神無月かんなづきを長距離射撃用に改造して、吸魔弾も一万まで吸えるようにする。弾は二十発。海竜と言うことで先端を強化。内部で吸い、魔力筒は排除。ドローンで回収だ。
港に到達。高いところ探し、どこかの石蔵の上に移動。
「さて。獲物はどこですか?」
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