第68話 魔銃
「はぁ~。生きた心地がしなかったぜ……」
花町を出てから深いため息をついた。
覚悟してはいたが、存在自体が化け物な
「予想以上に時間がかかったな」
受け渡しや卸し値を決めたり、買い取った娘の教育法を決めたりと、三時間もいてしまった。昔のおれ、よくあんな中で酒を飲めたよな。頭おかしいだろう。いや、酒でも飲まないとあそこにはいられないか。今度くるときはウォッカでも用意しておこう。
もう、ビールを飲んで寝たいところだが、
「ったく。こんなことならもうちょっと時間を開けてやるんだったぜ」
まだまだ考えが甘いよな、おれ。
前世の記憶があり、兵士や傭兵として生きてきても、あんな妖怪ババアども相手にする根性は身につかない。いや、ついても嫌だけどよ……。
「ん?」
傭兵所へと向かっていると、なにやら町が騒がしい。なんかあったのか?
気にはなるが、町のことは町に任せたと、傭兵所へと向かうが、その傭兵所から武装した者たちが飛び出していった。
魔物でも襲ってきたか?
まあ、防衛された町を襲う魔物がなんなのか知らんが、いないとも限らない。この世には人を食う巨大蟲や超音波出すトカゲがいる。絶対安全な場所なんてないからな。
……まあ、それを退治する傭兵もいるから、どちらが化け物かはわからんがな……。
傭兵所の裏に回ると、昨日、注文をしていた厳ついあんちゃん──ソウタさんがいた。
「こんちは」
「おう、
「悪いな、急な頼みで」
「なに、あんな旨い酒をもらったら他の仕事なんて後回しさ」
フフ。酒に勝る賄賂なし、とはよく言ったものだ。よく利く。
「しかし、これだけ丸々に育てたのに、カグナ鳥に持っていかれるんだからたまったもんじゃないな」
まあ、安く譲ってもらうおれのセリフではないがよ。
「なに、毎年のことだし、今年は
「マシな程度か。他の村にも卸せたらいいんだがな」
燻製にするなり塩漬けにするなり方法はあるんだが、利益が出ないことにはしょうがない。村では味噌や醤油に金を使う。肉は買うより狩ったほうが安いのだ。
「そうだな。村にまで冷蔵庫が普及すればいいのにって、行商隊の連中が言ってたよ」
「冷蔵庫は今、いくらするものなんだい?」
「うちのあるのは金銭七枚はしたって親方が言ってたな」
「結構するんだ……」
ちょっとした店なら買えるだろうが、個人で買うには高過ぎる。田舎なら村長しか持てないだろうよ。
「冷凍庫ってものがあれば凍らせておけるんだが、それは金銭十二枚もするそうで、親方が残念がってたよ」
冷凍庫まであるんだ。この世界、想像以上にスゴいな。
「魔道具が普及するのは、まだまだ先か」
「その前に大陸の商人がきてくれるといいんだが、この国は米くらいしか自慢するものがないからな~」
その米を育てる場所も限られてるとくれば、大陸の商人がくる頻度はこのままだろうよ。
ソウタさんと世間話と言う名の情報収集していると、中のほうが騒がしくなった。
「そう言えば、武装したヤツらが出ていったが、なんかあったのかい?」
「港に海竜が現れたとかなんとか。詳しくはわからん」
海竜か。漁をする者には一大事だな。
「最近の傭兵は、海の魔物も退治できるようになったのかい?」
おれの頃は、いなくなるのを待つしかなかったが。
「大陸から魔銃って言う魔を射ち出す武器が入ってきて、瑞希みずき傭兵団が使ってるんだよ」
魔銃とかもあるのかよ!? この世界、いったいどんな進化をしてるんだよ? おれと同じ転生した者でもいるのか?
「魔銃かぁ。そう言うのを使う時代になったんだな」
サラリと知ってる風を装う。あるのならそれを利用するまで。おれも銃のほうが使いやすいしよ。
……おれの剣の腕、人並み程度。傭兵をやれたのは知恵と勇気で生き抜いてきたのです……。
「
「ああ。おれも魔銃に切り替えたからな」
右の袖から小型ネイルガンを抜いてみせる。
「そんな小さいので大丈夫なのかい?」
「これはネイルガンって言って、痺れ針を射ち出すのさ」
試しにと、近くの壁に射ち込んでみせた。
「町での殺しは御法度だからな」
自分の身は自分で守るのは当たり前として、無闇やたらに武器を振り回していては社会は成り立たない。殺しは死刑。傷害は腕切りの刑。刃物を抜いたほうが負け。証拠がなければ喧嘩両成敗と、町の法は厳しいのだ。
……まあ、それも表に出なければ罰せられないがな……。
「はぁー。いろんなのがあるんだな」
「ああ。いろいろあるぜ。聞いたところによると、大陸の向こうにある大陸では竜ですら射ち落とす銃があるんだってよ」
「竜をかい!? そりゃまたスゲーのがあるんだな!」
そうそう。スゲーのがあるのよ。それを多くの人に広めてちょうだい。おれが使ってても不思議じゃないくらいによ。クククッ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます