第47話 傭兵の状況
自分で言うのも恥ずかしいが、名のある傭兵には二つ名がつくことがあり、さらに名が売れるとなんとかのなになにとつく。
最初についたのは
まあ、おれ一人でやったわけではないし、獣鬼の将を倒したのは別のヤツなんだが、その倒したヤツが言ったことから
で、不破は地名で、そこで起こった山賊団を全滅させたことからついた。
これも一人でやったわけじゃない。三つの傭兵団が組んで全滅させたのだが、おれともう一人のヤツが頭を倒したことから不破の不知火。もう一人のは不破の鬼とつけられ、広まったのだ。
なんてことを爺さんがハハルに聞かせてるのを他人事に聞いていた。
……自分の過去なのに、まったく実感が湧いてこないのはなぜだろうな……。
前世の記憶は昨日のことのように感じられるのに、七年前のことが酷く遠くに感じてしまうのだ。
「なんかお前、雰囲気が落ち着いたな。昔はもっと荒れていたのによ」
そうか? まあ、いつ命がなくなるかわからない傭兵なんてやってれば荒れるのも当然。心豊かになんて過ごせねーよ。
「昔話もいいが、買い取りも頼むよ」
下ろした背負い籠から剣とナイフを出してカウンターに置く。タカサは買い取り所にいるので。
「わかりました。拝見させていただきます」
爺さんは昔気質の、商売っ気ゼロの商売人だが、息子はしっかりとした商売人らしい。
まず剣を取り、鞘から抜く。
「……随分と立派なものだ。刃こぼれもないし、歪みもない。まるでついさっき作ったかのようです」
限りない真実にドキリとしたが、平然な顔で受け止めた。
「銘はありませんね? これだけの逸品なのに……」
ヤバい。そこまで意識が向かなかった。この国の文化と言うか習わしで、剣には製作者が自分の銘と剣の銘を刻むのだった。
「そるはおれが作ったもので、事実、つい最近完成したものだよ」
嘘が言えないのなら真実をしゃべるまで。ただし、余計なことは言わないのが本当の真実を隠す術である、と思う。
「鍛冶師になったのですか?」
「傭兵上がりが数年で鍛冶師にはなれないよ。それは、大陸の魔道具で作ったものだ」
「魔道具? 大陸にはそんな物があるんですか!?」
「おれが譲り受けた魔道具は、質がよくない、型遅れのものらしく、それが精一杯のできなのさ」
と言う設定にしよう。うん。
「型遅れとは言え、これだけのものを作る魔道具なら大金を出しても欲しがるところはあるでしょうね」
「採算が取れるかわからんし、売った後、こちらに文句を言わない。金を返せとも言わない。買った後の責任はそちらが取る、と約束するなら金銭二百枚で譲ってやるぜ」
この時代にクーリングオフはないし、買ったヤツの自己責任。だが、それをよしとしない者もいる。特に想像と違う! って言うヤツほど認めない。
まあ、悪徳なヤツもいるから一概には言えないが、優しい社会ではない。自分の身は自分で守らなければならないのだ。どんなに親しみ間柄でも、な。
「それは諦めるしかありませんね」
さすが爺さんの教育の賜物。見極めができてる。
「まあ、高値で買い取ってくれるのなら、また持ってくるよ」
魔力40で作り、金銭三枚で売れたら万々歳である。
「でしたら、金銭六枚で買い取りますので、次もよろしくお願い致します」
余りのことに言葉が詰まる。金銭六枚だと!?
「驚くのは当然です。最近、魔物の数が増えてまして、質のよい剣は高値で売れるのです」
島国にもかかわらず、定期的に魔物が湧き、酷い被害を各地に与えているのだ。
兵士や傭兵が毎日のように狩りはするが、発生するほうが多く、死亡率も高いため、たまに起こる大発生ではいくつもの村が滅びることもあるのだ。
「傭兵の数はどうなんだい?」
「昔よりは増えてますが、田舎から出て来た、技術も知識もない若者が占めています」
「さぞや傭兵団は苦労しているだろうな」
戦争が終わって二十年近く。兵士上がりの傭兵は少なくなり、優秀なのは兵士に。来るのは口減し当然で出された若者。いくら人手不足だろうと入団させるのは躊躇うだろう。
だからと言って入れない選択もできず、毎日のように使い潰されているとのことだった。
……そう考えると、口減ししないうちの村長はできる村長なんだな……。
「なので古株は武器や防具に金をかけるんです。少しでも生き残るために」
おれのようにレベルアップできる能力があるわけじゃないのに、傭兵には人間離れしたヤツが結構いたりする。そんなヤツらに並みの武器では耐えられない。おれだって金銭三枚はした剣を無理して買ったからな。
「この剣だって、店に出せばすぐ売れますよ。金銭七枚でもね」
今の傭兵は金があるんだな。おれのころは一年稼いで金銭三枚のがやっとだったのに……。
「作って持ってくる。だが、魔力が必要なんで、魔石があるなら金銭一枚分欲しい。あるかい?」
傭兵相手の店とは言え、魔道具は昔からある。野営用の魔道具も売ってるから魔石もあるのだ。
「金銭一枚ですか? さすがにそれだけの魔石はありませんよ。十級魔石が数個あるだけです」
そんなものなのか? まあ、魔石があるのはわかってても買ったことはなかったしな。
「傭兵所ようへいどころにいかないとダメか」
いくつかの傭兵団と商会が出資して作った傭兵の集会所で、買い取りや売りもやっていたりする。
「ナイフはいくらになる?」
「どちらもよさそうなので銀銭三十枚でどうでしょうか?」
まあ、ほどよい質ってことか。充分だな。
「その銀銭三十枚と金銭一枚で米や味噌、醤油や油にしてくれ。あと、壺も頼む」
行商隊の護衛の際は、食料は傭兵団が用意するため、米や味噌などの食料も置いてあるのだ。
「すぐにですか?」
「いや、夕方まで集めてくれれば大丈夫だ。もし、間に合わなくても明日また来るからできるだけで構わんよ」
一日で買い出しができるとは思っていない。ハハルは明日もだが、おれはしばらく通うことにしている。
「わかりました。では、今日と明日に分けて集めます」
「それで頼むよ」
金をもらい、ハハルを連れて
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